大学時代は法律学の勉強が主で、趣味で社会学・国際関係学をかじっていて、専攻を転向し、大学院時代は統計を用いた実証研究を、経済・政治・行政を絡めながら研究していた。だが、「経営学」というのは社会科学の中で唯一ほぼ勉強したことがない分野であった。想定外ではあるが民間企業で働くことになり、働く中で、企業戦略というのは非常に面白いと思って、ビジネス書大賞(2014)にも輝いた本書を読んでみた。400ページの大作である。

 

ものすごく大雑把にいえば、「儲かる市場」を見つけて、「儲かる立場」を確立することこそが経営戦略だと考える「ポジショニング派」と、自社の「企業能力(ケイパビリティ)」を高めることこそが競争に勝てると主張する「ケイパビリティ派」の2つに大別されるという。マネジメントの教科書で出てくるSWOT分析、PPM、ファイブフォース分析などは市場分析であり、ポジショニング派に属する。もともとポジショニング派が主流だったようだが、日本企業がそれを衰退させたようだった。日本企業の当時の経営は無鉄砲だったが、アメリカ市場に乗り込み大成功をおさめた。競合他社のいる市場に乗り込むことはポジショニング派的にはナンセンスだが、日本企業は大成功したのだ。しかし、日本企業は企業能力を高めて高効率にはなったが、低収益にあえぎ、ケイパビリティ派も勢いを失う。これが20世紀はじめのテイラーに始まる経営学の創始から、1990年代までの大雑把な区分けだという。

 

結局、この両者の対立は、ミンツバーグが両方の理論をうまく使い分けることが大切だと主張し(1970年代にすでにアンゾフが指摘している)、両方が大切だという(傍から見れば当たり前の)結論に収束する。経営学は科学ではなく、状況に応じて戦略を構築する「アート」なのだという。21世紀に入ると、iPodやスターバックスの躍進で、予期せぬ市場が誕生することが多くなる。新しい市場の創造を目指すことを「ブルーオーシャン戦略」というが、これを考案したキムとモボルニュは、上記の両理論の使い分けが重要とは認めるものの、ハンドメイドのアートだとはいわず、これを実践できるように12のツールを提示し、一躍有名になった。任天堂のWiiはこの理論を実践したという。

 

21世紀に入ると社会経済の不確実性が高まり、BRICsなどの新興国が台頭し、ITが急速に発達するようになる。既存物が急速に陳腐化する中で、イノベーションが重視されるようになるが、結局、イノベーションといっても、ほとんどのことはやってみなければわからない、”Just do it”なのだ。予測だとか推測は無意味で、実際のデータで実証したり、実際やってみて可否をみるしかない。アダプティブ戦略だとか、高速試行錯誤だとかなどがこれだという。例えば、HPを作る場合、最初から完璧なものをつくるのではなく、デザインをかえたりしていくつかパターンをつくり、どのパターンが滞在時間が長いかなどを調べ、最も良いデザインに決めるという「A/Bテスト」などがこれにあたる。オバマ大統領の選挙対策をしていたダン・シロカーなどはこれを実践していた。

 

結局、経営戦略の100年かけた結論が、やってみなければわからないとは、なんとも無内容な結論な気がするが、しかし、社会科学系の学問というのはそういうもんだ。政治学や国際関係学も同じようなもの。扱っているテーマ的に政治学などは高尚にみえるだけだ。とりあえず、経営戦略の歴史を概観するには良書だと思うが、いかんせん長い。