「21世紀のツェルニー」という本を読書。ツェルニーといえばピアノ練習曲の定番中の定番。少し前の調査だとピアノ練習者の94%が使用経験があるとのこと。しかし、1990年代以降は急激なツェルニー離れが起きている。なぜか。練習曲の在り方について様々なピアニストの意見を紹介し、ピアノ練習の在り方を問う。

衝撃的なのがアメリカでもドイツでもスペインでもフランスでも、ツェルニーはほとんど使用されていないということ。ピアノ練習もどうやら日本はガラパゴスだったのである。日本だと、ツェルニー30番レベル、ツェルニー40番レベルというように技術練習の進歩表のようにも使用されているが、そんな文化は日本だけらしい。ツェルニーが無意味というわけではないが、ベートーヴェンの弟子だけあって技巧の練習がロマン派をカバーしておらず、ロマン派~近現代の曲を弾くには不適の練習曲なのだ。加えて機械的な練習で音楽性に乏しく、つまらない。多くのピアノ学習者がツェルニーを前に学習を断念してきたのは残念だ。

意外だったのが、著名なピアニスト辻井伸行・上原彩子・リヒテル・バレンボイムなどはツェルニーをあまり使用していないということ。ツェルニーなどなくても立派なピアニストは育つのである。おそらく日本はドイツから音楽を輸入したので、過剰にドイツ音楽を尊ぶ気風があるゆえにツェルニーがもてはやされたのであろう。しかし、日本も経済大国になって以降、海外に音楽を学びに留学する人も増え、海外の音楽教育事情が日本に伝わってくる。欧米では、あまり練習曲にこだわらず、実際に曲を通して技巧を身につけているらしい。また、モシュコフスキー・モシュレスなどの様々な練習曲も日本に紹介されたこと、習い事をかけもちする子供が増えピアノの練習に時間をさけなくなったことなどとも相まって、1990年代以降ツェルニーの地位は著しく低下したのだ。こうして日本のツェルニー崇拝の歴史は幕を閉じたのである。現在でも30番までは使用するところが多いが、40番以降は使用せず、モシュコフスキーなどの練習曲を使用するところが増えているらしい。

「ツェルニーを練習してもツェルニーが上手くなるだけ」というアメリカのピアノ教師の発言はもっともだ。著者は、ピアノ練習の指針として①ソルフェージュをよく勉強して、読譜力や分析力を高め、曲をスピーディに仕上げる能力を作る、②バロック~近現代など幅広い時代の作品をバランスよく短期間で仕上げ、レパートリーを増やす、③良い奏法の習得に力を注ぎ、美しい音の出し方、曲想にあったテクニックをマスターする、ということを挙げている。

非常に薄い本ですのですぐ読めてしまいます。ピアノにご興味ある方にはおすすめかな。

21世紀ヘのチェルニー 訓練と楽しさと 山本美芽/著/ショパン