[大学生の学力低下]


(1)序


大学生の学力低下が叫ばれているが、全体が地盤沈下しているといよりも、学力格差が広がっていると言った方が適切だろう。大学進学率が上昇しているので、いままで大学に行けなかった学生が増加しているのだから、大学生の平均的学力が下降しているのは当然といえる。もちろん、IT技術・グローバル化などの影響で、従来よりも学ぶべき事柄が増えたり、興味関心が多様化したので、一概に今までの大学生の学力と比較することは出来ない。とはいえ、上位大学でさえ、高校で学ぶべき事柄すら習得していない学生が増えたというのは看過しがたい。


学力低下の要因は様々あるが、その1つと言われるのがAO入試・推薦入試。小論文と面接だけで入学できるので、学力試験がなく、無試験入試とか、0教科0科目入試と言われている。私立大学だと、一般入試で入学する学生の方が少数派。国公立大学でも26%が(4人に1人以上)がAO推薦入試入学者。もちろん、国公立のAO推薦入試の場合、センター試験が課されている場合もあり、一概に無試験とはいえない(それでも一般入試よりは基準が低い)。


(2)一般入試入学者の低下


ちなみに、都内の有力私大の1校である中央大学の場合、一般入試の割合が、文学部63.8%・理工学部62.9%・総合政策59.1%・経済学部49.2%・法学部48.1%・商学部44.9%と、経済学部・商学部・法学部の3学部は一般入試入学率が半分を割っている。私学の雄である早稲田大学も、一般入試入学者(センター利用入試含む)はたったの64.2%。都内の有力私大の一般入試率を載せると以下のようになる(読売新聞調査)。ちなみに、学習院大などでは、指定校推薦は書類審査だけ。


[都内上位私大一般入試率]

・東京理科大学:81.7%

・明治大学:70.1%
・青山学院大学:68.7%

・立教大学:66.6%

・早稲田大学:64.2%

・上智大学:62.5%

・中央大学:54.6%

・学習院大学:53.5%

・国際基督教大学:52.3%


(3)実情


都内の上位私大ですら、2割~5割程度をAO入試・推薦入試・内部進学者で埋めている。地方の無名私大であればもっと割合は高いだろう。もちろん、TOEICや評定平均で足切りしているケースもあるが、学力がどの程度確保されているのか甚だ疑問。というのも、進学校の評定平均4.0と、下位高校の評定平均4.0は全くレベルが違う。普通、進学校で評定平均4.0もあれば、東大・一橋クラス、少なくとも早慶あたりを目指す。中堅以下の高校から一般入試で行けないので推薦で受ける人が圧倒的に多いのだ。TOEICでの足切りについても、上智大学でも、英語学科は700点で足切りしているが、500点でも通過出来る学部学科が大半。これでは、全く英語が出来ない人を落とすだけの機能しかない。少なくとも一般入試を通過するよりはかなりレベルが低い。


私の通う都内の某私大の場合、英語のクラスはTOEICのスコアで振り分けられる。私が振り分けられた一番上のクラスはリチャード・ドーキンスの原書を読んだりと、なかなか面白かった。帰国子女には退屈な授業だっただろうけど。しかし、一番下のクラスだと、なんとNHKの小学生向けの英語番組「えいごリアン」を見たりするそうだ。下のクラスになると、TOEIC 100点代とかも普通にいるらしい。要は、全く英語が分かってないんだよね。一番下のクラスは、推薦入試入学者と内部生の巣窟。もちろん、AO入試・推薦入試や内部進学者にも稀に優秀な人はいるけどね。


国立大学にもAO入試・推薦入試が広がっているが、九州大学・筑波大学などの上位国立大学は、AO入試入学者は成績が低いという点、一般入学者に比して必ずしも特徴があるわけではないとして、AO入試を廃止。


ちなみに、政治家の石破茂さんの娘さんは早稲田大学政治経済学部に1浪してAO入試で入学し、東京電力に入社していたらしい。浪人でAO入試受験できるんだねという点にビックリ。ちなみに、早大の政経は09年の一般入試率がたったの39.9%らしいが、これにもビックリ。石破さんは東京電力をかばうような発言がなぜか多いと思ったら、なるほど娘をコネで入れたもらったから擁護しているわけか。AO入試とかはコネ入試・裏口入試の制度化とか言う人いるけど、否めない。


(4)学力格差


【早稲田大学社会科学部自己推薦入試小論文】

「最近、日本人の読書時間が少なくなったといわれています。あなたはこのような現象をどう思いますか。800字以内で述べてください。」

このレベルの”作文”で早稲田に入れてしまうという…。入学試験としての選別機能を果たしてないのではという疑問は拭えない。あとは面接だけで早大合格って。コネの有無が重要なのかな?


【筑波大学世界史過去問】

「ヨーロッパ近・現代における社会主義の発展を、以下の語句(人名)を用いて説明しなさい。なお、彼らが関わった歴史的出来事について言及し、その年代も示しなさい。オーウェン トロツキー バブーフ マルクス ミュンツァー」


【筑波大学日本史過去問】

「江戸時代前・中期における農業生産の進展について,次のア~エの語句を用いて論述せよ。解答文中,これらの語句には下線を付せ。ただし語句使用の順序は自由とする。(400字以内) ア 町人請負新田  イ 「農業全書」  ウ 徳川吉宗  エ 干鰯 」


受験勉強でいろいろな知識を得て、それが大学の勉強の土台になる。AO入試・推薦入試入学者は独りよがりが多いっていうけど、当たってると思う。ま、入試問題をみれば、学力格差は多言を要しませんね。「パクスブリタニカ」の成立については大学の国際政治学の授業で学ぶ人も多いようだけど、東京大学では世界史の入学試験問題として出題されています。上位層の学力はあまり変化がないのです。下位層の下落がひどいのです。ちなみに、筑波大学は国立大学だけど、一般入試以外の入試方法での入学者が29%。


(5)就職での悲劇


AO・推薦入学者の場合、企業の学力試験で落とされることが多いようです。WEB試験の場合、替え玉受験が多発して、最近は防止策を講じるようになったけど、企業も考えが甘い。ある程度の企業であれば、就職の場合、コネ入社は除いて、基礎学力試験はありますから、AO入試などの入学者はまさしく悲劇でしょう。


法政大学理工学部川成洋教授曰く、「僕はね、AO入試は不正入学だと言っているんです。『多様な人材や意欲のある人を求める』なんて真っ赤なウソ。早慶ですらAOで学力の低い学生を入れている。これはいつか地盤沈下が起こる。早慶がそうなると、他の私大はさらに沈む。 AO入試組が、なかなか就職できていないというのはあるでしょう。勉強していないくせにリクルートスーツを着て、普段使わない言葉を使っても、企業に見透かされますから」(参考資料「第3入試組の悲劇」参照)。


企業がドンドンアジアからの採用を増やしているけどそりゃそうだろうね。アジアの学生で日本で就職しようとする学生は、母国語に加えて日本語・英語が堪能であることが多い。企業としては、日本人を採用するメリットを感じられないんだろうね。


(6)総括


上記の内容はデータの引用が十分ではないし、多角的な視点に欠けて一方的な記述が多いことは否めませんが、上記はある程度の真実性を持ってはいます。私は学力試験を課すのであれば、AO入試・推薦入試を設置しても良いと思います。しかい、現状ではとてもAO・推薦という制度を肯定することは出来ないでしょう。ミクロ的にみれば優秀な人もいるのでしょうが、マクロ的に見た場合、やはり制度的な問題は否めないでしょう。日本の「知の地盤沈下」を憂うばかりです。


=参考資料=


・文部科学省「大学者入学者選抜について」等

・中央大学「学部の入学者の構成」 http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/about/pdf/a08_01_03_02/2010_15-00.pdf?200512050000

・早稲田大学「数字で見る早稲田」http://www.waseda.jp/jp/global/guide/databook/2008/entrance_table02.html

・読売新聞(2010/7/6朝刊)『大学の実力調査』から主要大学一般率一覧表

・「第3入試組の悲劇」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/452

・「学歴の耐えられない軽さ」海老原嗣生著、2009年、朝日新聞出版