生理活性化合物にはフッ素原子を有するものが多く存在します。


なので、メディシナルケミストリーの世界ではフッ素化剤を利用して、フッ素化を行うことも多くあります。


フッ素化剤には求電子的フッ素化剤(F+)と求核的フッ素化剤(F-)がありますが、今回は求核的フッ素化剤について少しお話したいと思います。



求核的フッ素化剤のなかで簡単で代表的なものといえばHFかもしれません。


他にもCsF, KF,TBAFなどもありますが、これらは吸湿してしまうことが多く、吸湿するとその水分がフッ化物イオンが水素結合することにより、反応性を落とすことも少なくありません。


私の中で最も汎用するものはDAST(diethylaminosulfur trifluoride)。


容易に入手可能ですが、熱、水には不安定なので注意が必要です。


しかし、水酸基をフッ素原子へ、アルデヒドをジフルオロメチルへ、そしてケトンにも反応させることもできます。


その類縁体としてDeoxo-Fluor(Bis(2-methoxyethyl)aminosulfur trifluoride、BASTとも言われることがある)というものもあります。


これもDAST同様ですが、やはり安定性という点では問題ありです。



で、最近新たなフッ素化剤が報告されました。


それは


4-t-butyl-2,6-dimethylphenylsulfur trifluoride


です。


これはFluoleadという商品名で東京化成さんから市販されています。


東京化成さんのホームページによると\21900/5gとちょっと高め。


ですが、DASTにはない特徴をいくつか持っています。



まず、熱、水にも比較的安定な固体で扱いやすいということ。


DASTとは異なり固体というのがいいですね。



そして、カルボン酸をトリフルオロメチル基に変換できること。


これはなかなか面白いです。



たとえば一級アルコールを持っていたら水酸基をフッ素化すればフルオロメチル基へ、酸化してアルデヒドにした後フッ素化すればジフルオロメチル基へ、さらに酸化してカルボン酸にすればトリフルオロメチル基へ変換できるんです。


これは合成の幅が広がります。





もしよかったら試してみては。



JACS (2010)vol. 132, p18199