【政論】権力亡者に手玉に取られる“坊ちゃん総裁”
兵は拙速を聞く
「現時点で退陣の選択は全く考えていない!」
19日の衆院本会議で菅直人首相が余裕たっぷりに明言するのを聞きながら情けなくなった。最大野党・自民党の谷垣禎一総裁は一体何をやっているのか…。
「国民の不安を解消できないなら政権担当能力がないということだ。内閣不信任案を考えねばならない」
谷垣氏は17日の党役員会で本格的な倒閣に舵(かじ)を切ったが、あまりにも遅い。不信任案が否決される場合を恐れるのは分かるが、「兵は拙速を聞く」(孫子)との金言通り、戦いには迅速さが何より肝要だ。
東日本大震災発生から2カ月以上。折しも首相は24日から主要国首脳会議(G8)など出席のため6日間に及ぶ外遊に赴く。「サミット休戦」となるころにようやく不信任案提出の「検討」を表明するようでは「本気で戦う気があるのか」と疑われても仕方あるまい。
海千山千の「老戦士」である森喜朗元首相らが主張したように不信任案は、5月2日に平成23年度第1次補正予算が成立した直後にたたき付けるべきだった。間違いなく成立していたはずだ。
にもかかわらず谷垣氏は逡巡(しゅんじゅん)した。4月30日に補正予算案が衆院を通過した際には、あいさつにきた首相を逆にこうねぎらった。
「お体に気をつけてがんばってください」
決定的にどこかピントがずれていないか。
見透かされる執行部
自民党ベテランは、保身にひた走る首相と優柔不断な谷垣氏を「権力亡者と坊ちゃん総裁」と評した。東京都の石原慎太郎知事も谷垣氏を「女学校の校長みたいで乙にすまして迫力がない」と酷評した。
首相は福島第1原発事故への対応でも被災者支援でも失態をさらし続けた。今もまた、一刻も早い復旧・復興を切望する被災者より政権延命を優先させ、「絶対に今国会は延長しない」と言い張っているという。
たちあがれ日本の片山虎之助参院幹事長に「心がない」と罵倒され、民主党出身の西岡武夫参院議長に「即刻辞任すべきだ」と“勧告”されながら、なお安穏としていられるのは、谷垣執行部を「赤子のようにくみしやすい」と踏んでいるからではないか。
気概も人気も無い・・・
「自民党の致命傷は谷垣氏の人気がないことだ…」
自民中堅はこう漏らす。確かに産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が4月下旬に実施した世論調査で「首相にふさわしい」との問いに、谷垣氏を挙げた人はわずか2・9%。4・4%の首相にすら及ばない。下野したとはいえ自民党総裁としては極めて異例だ。自民党の支持率は23・4%と、民主党の15・9%を大きく引き離したことを考え合わせると事態は深刻である。
これほど人気が振るわないのは、谷垣氏に戦う気概が見えないからだとしか言いようがない。「その場しのぎの思いつき」だけで失政を重ねてきた菅内閣が、いまも2~3割の内閣支持率を維持しているのも、谷垣自民党が存在感を示していないからだろう。
今からでも遅くはない。谷垣氏は生まれ変わったつもりで国民の怒りを体現して首相と戦ってほしい。それができない自民党だったら、もういらない。
(阿比留瑠比)