真相は、物事が起きてから時間がたたないと見えてこないのは、重々わかっているつもりだ。とはいえ、福島第1原発で水素爆発が起こってから2カ月以上もたって「実は地震の翌朝には全炉心溶融(メルトダウン)していたようです」と言われてもねえ。
▼メルトダウンという言葉は、32年前に起きた米スリーマイル事故とそのわずか12日前に封切られた映画「チャイナ・シンドローム」によって広まった。事故を予見した映画は、リポーター役のジェーン・フォンダと技師役のジャック・レモンの熱演もあって日本でもヒットした。
▼チャイナ・シンドロームとは、米国で原発がメルトダウンすれば、核燃料が地球の裏側の中国に突き抜けるという意味だ。もちろん、ジョークだが、メルトダウン→チャイナ・シンドローム→この世の終わり、と連想した読者もおられるのではないか。
▼2、3号機もメルトダウンしている可能性が高い。ますます背筋が寒くなるが、工学者の武田邦彦氏に言わせれば「これまでにあまりに多い放射性物質が出たので、それに比べるとたいしたことはない」そうだ。
▼武田氏ら在野の科学者は、早くから「燃料は破壊されて原子炉の下に落ちているだろう」と指摘していた。にもかかわらず、「メルトダウン」のイメージにおびえたのか政府も東電も認めようとしなかった。
▼武田氏は「日本のメディアは『事実』より『公式発表』を重んじる」とブログで皮肉っている。日ごろ偉そうなことばかり書いている抄子も耳が痛い。せめて、原子炉がメルトダウンしている最中に視察を強行するような首相にまともな政治は期待できない、という「事実」だけは書いておきたい。