【東日本大震災 今何ができる】
見直される昭和の生活
東京電力と東北電力の管内で今夏予想される電力不足対策として、政府は両電力管内の今夏の節電目標値を企業、家庭とも一律15%と決めた。こうした中、昭和の生活を思い起こさせる節電グッズが注目を集めている。いつのまにか家庭から姿を消していた魔法瓶やゴザに加え、暑い夏を少しでも快適に乗り切れるステテコやガラスの器など涼を感じる生活用品に人気が高まっている。(村島有紀)
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西武池袋店(東京都豊島区)では4月に入り、夏用寝具の売り上げが昨年同期の約3倍に伸びた。ガーゼや麻を使ったタオルケットなどの購入が目立ち、汗を素早く逃す、い草の寝ゴザも好調という。寝具担当の保脇(やすわき)平八郎さん(50)は「今年の夏は日本古来の素材を見直そうという動きになっている」と話す。
カトちゃんスタイル
また、同店の紳士用下着売り場で人気なのが、4月の売り上げが昨年同期比約3倍のステテコ。昔のような白のクレープ地ではなく、おしゃれでカラフルなサッカー地を使ったもので、購入年齢は20代から50代と幅広い。今年の夏は、ステテコ姿の“お父さん”も復活しそうだ。
愛知県の団体職員、外山正樹さん(62)は「昭和40年代は、男性はランニングシャツにステテコ、首にはタオルで、ドリフ(ターズ)のカトちゃん(加藤茶さん)スタイルが普通だった」と振り返り、「節電のため、社内のエアコンをやめては」と提案する。
エアコンに代わり、家電製品では扇風機の売り上げが好調だ。ビックカメラ(東京都豊島区)では4月上旬から「扇風機はありますか」という問い合わせが相次いだ。例年より1カ月早い4月中旬から販売を始めたところ、「非常に売れている」(同社広報)という。
窓からの暑さよけでは、すだれの人気が高まっている。楽天市場(品川区)では、3月14日から4月24日までに昨年同期比3・3倍を売り上げた。
電気ポットの登場で、昭和60年以降姿を消しつつあった魔法瓶も見直されている。象印マホービン(大阪市北区)によると、震災以降、計画停電対策などのため、売り上げが急増。業界のまとめでは、4月は昨年同期の1・5倍の売れ行きで、生産が追いつかない商品もあるという。そのほか、新潟県の業者が販売を始めた中空二重構造のステンレス製の器も「冷たい料理が冷たいまま食べられる」と人気を集めている。
西武池袋店広報の熊谷栄さんは「最新型の省エネ型扇風機やハイテク素材を使った寝具の売れ行きもいい。古いものと新しいものを上手に取り入れ、快適な節電生活の準備をする人が多い」と話している。
見た目で涼しく
蒸し暑い夏を少しでも快適にすごそうと、見た目や音で涼感を演出する試みも始まっている。
横浜高島屋(横浜市西区)では、ガラス食器や風鈴といった商品の品ぞろえを強化。このほか、6月には、涼感を演出する「つりしのぶ」のフェアを開催する。つりしのぶは、竹や針金を芯にして山苔(こけ)を巻きつけ、シノブ(シダ植物)を束ねて軒先などにつるすもの。幕末の江戸から各地に広まった夏の風物詩だ。
東京都江戸川区のつりしのぶ職人、深野晃正(てるまさ)さん(70)は「エアコンを使わず窓を開け放す生活になれば自然と風を意識し、夏の風情を楽しむ習慣が復活するのでは」と期待を寄せる。
夏の風物詩「つりしのぶ」を作る深野晃正さん =12日、東京都江戸川区の萬(よろず)園
東日本大震災以降、売り上げが急増している魔法瓶 =4月27日、横浜市西区の横浜高島屋
今夏の節電に向けて、売れ行き好調の扇風機とステテコ=東京都豊島区の西武池袋店(コラージュ)