自然災害は人類最大の脅威。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【土・日曜日に書く】シンガポール支局長・青木伸行



中東での民衆の力による動乱と、それに続く東日本大震災は、悠久の歴史をもつ人間社会に「激動」というスイッチがまたひとつ、入ってしまったような予感を感じさせる。

 人間はなぜ生まれ、生き、そしてどこへ行くのか-。誰にも答えを見いだすことができない、そんな根源的な問いかけをも、この2つのあまりにも衝撃的な出来事は、提起しているようにさえ思えてくる。とりわけ、東日本大震災という天災によって、かくも多くの人々の死と深い悲しみに直面すると、根源的な問いかけの声は心の中で大きさを増していく。

 ◆気候変動の政治的影響

 中東での動乱を、地球環境という視点からとらえようとする向きがある。

 例えば、シンガポールにある南洋工科大学S・ラジャラトナム国際関係学院のヤング・ラザリ・カシム氏は、次のように語る。

 「われわれが今、目の当たりにしている北アフリカやアラブ世界での出来事は、気候変動が及ぼす政治的な影響という側面がある。地球環境が悪化すれば、食糧不足がもたらされ、それは人間の安全保障を脅かす地球規模の危機に転化される」

 付言すれば、地球温暖化による気候変動は干魃(かんばつ)や水害をもたらし、それによって穀物などが不作となり、食糧価格の高騰と民衆の争乱を招く要因になる-というのだ。

 インドネシアのユドヨノ大統領も、気候変動がもたらす影響を強く認識し、「食糧の安全保障」を最優先事項とするよう、主要国に呼びかけている。彼が鳴らす警鐘はこうだ。

 「気候変動による自然災害がもたらす食糧不足と価格高騰は今後、政治不安の引き金となる。気候変動と自然災害が引き起こすであろう将来の危機に、われわれは備えなければならない」

 こうした気候変動と自然災害との関連性を、かねて主張している人物のひとりに、アル・ゴア元米副大統領がいる。彼は、「人間の安全保障」と「地球環境と文明のバランス」という観点から、地球温暖化を憂慮し、「人類には自らの文明を滅ぼす力がある」と警告している。その見解は、著書「地球の掟(おきて)」(ダイヤモンド社)に詳しい。

 これに対し、気候変動と自然災害の間に関連性を見いだすことはできず、科学的根拠も希薄だ、とする否定的な見解も多々存在する。だが、カシム氏やユドヨノ大統領らの主張は、物事を俯瞰(ふかん)してみる上での一側面にすぎないにしても、耳を傾けるに値するのではないか。

 ◆問題意識と論議を喚起

 「水」をひとつとっても、国連は気候変動の影響と、世界人口の増加による水需要量の拡大で水不足が深刻化しており、2025年には、世界人口の約3分の2が水不足に陥ると予測している。将来、水をめぐり戦争が起きると懸念する有識者さえいる。

 地殻変動がもたらす地震と気候変動との間に因果関係はないものとみられている。そうした観点は脇に置くとしても、今回の東日本大震災は、自然災害全般に備え今後、どのように対処すべきかという広義の問題意識と論議を、国際社会に呼び起こしてもいる。

 21、22の両日、シンガポールで開かれた世界銀行の会議で発表された、「東アジア大洋州地域経済報告書」にも、次のような指摘が盛り込まれている。少し長いが引用してみよう。

 「今回の日本での地震と津波は、自然災害に対する脆弱(ぜいじゃく)性という、東アジアが直面する最大の課題のひとつを顕在化させた。東アジア大洋州地域は地球表面積の半分を占め、世界人口の59%が住んでおり、世界の自然災害の70%以上が発生している。生産や人口がますます集中する東アジアの主要都市は、異常気象、海面上昇などの危険にさらされている。各国は、自然災害に対し耐性があり革新的な都市の構築、気候変動への適応に取り組む必要がある」

 ◆身の回りの「防衛手段」

 「備えあれば憂いなし」と言いたいところだが、自然のエネルギーは人知が及ばぬほどに強大である。最近取材した南洋工科大学地球観測所(シンガポール)のケリー・シー所長の「日本政府と科学者は、よく協力しながら地震対策に取り組んでいる。それもしかし、今回のような規模の地震と津波の前には限界がある」という言葉が、印象的だった。

 だが、「人間は自然の前に無力」であってはなるまい。例えば、水の節約ひとつにしても、自らを防衛するために、一人ひとりが身の回りでできることだ。

 今や、自然災害が人類最大の「脅威」なのかもしれない。(あおき のぶゆき)