史上最大級の揺れと、それに続く巨大津波で壊滅状態になった日本の東北地方の映像は、世界中に衝撃をもたらした。
地震で機能不全となった原発から放射性物質が漏れ、各国政府は日本国内に住む自国民に注意を促している。米国など数カ国は国外退避を勧告。空港はそれに従った外国人で混雑が続いている。その多くが、戦後最悪ともいわれる危機に粘り強く耐える日本人の態度に称賛の言葉を贈った。
思いやりに感銘
東京在住の韓国人語学教師、コオ・イムギュンさん(26)は、テレビで見た被災者らの整然とした様子に驚き、感銘を受けたという。「家や家族を失ったというのに泣いたり叫んだりする人も、ふてくされるような姿も見なかった。他人を思いやる気持ちが深く根付いている。韓国なら人々は周りを気にせずわめき叫ぶでしょう」
コオさんの日本での生活は5年になるが、大震災の揺れを経験した時にはパニックになった。隣室の日本人が慰めてくれ、その落ち着いた様子が彼女を安心させたという。
東京に住むフランス人ミュージシャン、ダビ・ベルジェさん(38)の仲間たちはすべて、すでに帰国したという。「彼らは日本の真の姿を見ないまま帰ってしまった。震災後に見られる思いやりの気持ちは、以前にも増して強い。だれもが支援の用意ができている」
ベルジェさんは地震が起きた時、JR山手線の車内にいた。「数人の乗客が驚いて大きな声を上げたが、ほとんどの人は冷静で、数分後には車掌の指示に従って整然と車外に出た」という。「周りの人たちが落ち着いて、秩序正しく振る舞っていれば、自分だけパニックになることはなかなかない。フランスだったら大混乱になっていただろう」
ベルジェさんは日本滞在歴3年。フランス政府は国外退避を勧告しているが、日本人の妻とともにとどまることを決めた。
外国人らに日本退避が勧告される一方で、大阪などのホテルに避難する東京の住民もいる。東京にとどまっても、スーパーでは空の棚が並び、ガソリンスタンドでは長い時間順番待ちをしなければならない。不定期に実施される停電があるうえ、震災後1週間で500回以上の余震に揺さぶられた。
ペットボトルの飲料水などもスーパーでは販売数が少なくなっている。東京で不動産投資の仕事をしている米国人、アダム・ドナヒューさん(33)は、ある店で、前の客が残り少なかったボトルを買い占めず、自分のために残してくれたことが分かってありがたかったと振り返った。
行列は普段通り
台湾から東京大学に留学してジャーナリズムを学ぶリン・チアアンさん(27)は地震の時、ラーメン店で列に並んでいたが大急ぎで外に出た。「みんな落ち着いていて列にそのまま並んでいた。だれも何かを盗もうなどとしなかった。見習うべきことだと思う」
警察庁によれば、震災にともなった略奪行為は東京でもほかの地域でも報告されていない。放射性物質のレベルが上昇しているという報道があっても、スーパーや鉄道の駅、銀行のATMでは人々は整然と待つ態度を保ち続けている。
東京在住の米国人、アバサ・フィリップスさんは「日本では列に並ぶことは特別なことではない。震災後に行列がさらに整然となったのは驚きだった」と話した。
インドから来日11年目の非常勤英語講師、サンギータ・ラジバンシさん(34)は「日本の社会での習慣は単なるマナーというより、気持ちや心のなかに根付いたものにみえる」という。
2児の母であるラジバンシさんは地震の時、住まいがあるマンションの建物を出ようとして、保育士らが子供たちを安全な屋外の場所に誘導しているのをみた。「まるで屋内で天井が落ちてきて保育士たちが自分の体で子供を守っているような姿勢で、訓練したからできるというものではなさそうだった」
外は寒いので保育士や児童らをマンションの広いロビーに招きいれると、保育士たちは自分たちのあつかましさを何度も詫びたという。
(ブルームバーグ Pavel Alpeyev)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110321/mcb1103210503014-n1.htm