友情について(岩波文庫):マルクス・トゥッリウス・キケロ | 夜の旅と朝の夢

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友情について (岩波文庫)/岩波書店

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また新しい年が始まりました。個人的な目標は、「一冊一冊をもっと大事に読むこと」と、「ブログをもう少し慎重に書くこと」にしました。それに伴い、読む量やブログの更新頻度は、少し減ってしまうかもしれませんが、量よりも質を大事にしていきたいと、一丁前のことを言いたがる中の人が申しております。

さて今回からは、ラテン文学を中心に読んでいこうと思っています。ラテン文学というのは、ラテン語で書かれた文学のことですが、ここでは、もう少し範囲を絞って、古代ローマで使われていた、いわゆる古典ラテン語で書かれた文学を取り上げます。

最初は、マルクス・トゥッリウス・キケロ(紀元前106‐紀元前43)の『友情について』です。

作者のキケロは、政治家であり、哲学者であり、弁論家であり、文筆家でもあるといった多才の人。共和政時代後期の有力者でしたが、最終的には暗殺されてしまいます。文筆家としては、カエサル(紀元前100‐紀元前44)とともにラテン語の名手といわれています。残念ながら、ラテン語は読めませんし、その名手っぷりを翻訳文から読み取る能力も私にはありません……

本作は、複数の登場人物の対話によって議論を進める対話篇ですが、基本的にラエリウスという人物が友情について滔々と語っていますので、ラエリウスの語ったことをキケロの主張として捉えても、特に問題はないと思います。以下、キケロ(ラエリウス)の主張を簡単に追ってみましょう。

先ず、議論の進め方としては、厳密さよりも、『実際経験や日常生活の中にあるもの(P23)』を見つめるというスタンスを取ります。そして、ありふれた友情ではなく、『史上稀有なる人々の結んだような、真の友情、完全な友情(P27)』を議論の主題にします。

個人的には、真の友情や完全な友情と、実際経験や日常生活の中にあるものというのが矛盾しているように思えるのですが、キケロからすると矛盾はないようです。ちなみに、真の友情や完全な友情には劣るありふれた友情も割と語られています。

ラエリウスは、『友情とは、神界及び人間界のあらゆることについての、好意と親愛の情に裏うちされた意見の一致(P25)』と規定します。同じ意見を持たないと友情は成立しないというわけです。一方が民主主義者で他方が独裁制を良しとするのでは、確かに難しいですね。

そして友情は一人で自足できない者の弱さと欠如の上に成り立つというアリストテレス的な考えを退け、徳や真心といった人間の本性から生じるものであると説きます。

もし弱さと欠如の上に成り立つものであるならば、『自分の中に備わるものが少ないことを強く自覚するものほど、友情に適した者ということになるが、事実は大違い(P33)』であって、『誰の助けも必要とせず、己れのものは己れの中にあると考えるまでに、徳と知恵で厚く守れていればいるほど、友情を求め育むことにおいても卓絶する(P33-34)』というわけです。

つまり、友情は必要に駆られて成立したり、何かの報酬として与えられたりするような実益的なものでなく、信義を基盤とした無償の行為なのです。

その最大の美点は、『良き希望で未来を照らし、魂が力を失い挫けることのないようにする(P27)』こと。

具体的な行為としては、『恥ずべきことは頼むべからず、よし頼まれるとも行うべからず(P41)』、『友人には立派なことを求むべし、友人のためには立派なことをすべし。頼まれるまで待つべからず、常に率先し、逡巡あるべからず。敢然と忠告を与えて怯むことなかれ(P44)』、『友を非難することを喜ぶな、友が避難されても信じるな(P58)』などが挙げられています

簡単に言ってしまえば、互いが相手のために行動しつつ、切磋琢磨して互いをより優れた人間へと導くことが出来る存在が友人であり、そんな友人との間の好意と親愛の情が友情なのだという感じでしょうか。

非常に厳しいことを言っていますが、『ここに会話や生き方の一種の快さが加わらねばならない。それが友情にとってなかなか馬鹿にならない風味となる。厳格で何かについて峻厳なのも確かに重みにはなるが、しかし友情というのはもっとくつろいだ、自由な、甘美なものであるべきだし、むしろ人あたりの良さや気やすさの方に近しいのである(P59)』と言うことも忘れていません。

キケロはかなりバランスの取れた人間だったのかもしれませんね。

個人的には、最後に引用した『友情というのはもっとくつろいだ、自由な、甘美なものであるべき』という言葉がよかったですね。完璧な友人なんてそんなに簡単には出会えないでしょうし、くつろいだ、自由な関係を築けるだけでも十分素晴らしい友人だと思います。

そんな友情論。100頁程度の薄い本ですので、興味のある方はぜひ読んでみてください。