ジェネレーション<P>(河出書房新社):ヴィクトル・ペレーヴィン | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第59回:『ジェネレーション<P>』
ジェネレーション〈P〉/河出書房新社

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今回紹介するのは、ペレーヴィン(1962-)による長編小説『ジェネレーション<P>』です。

作者のペレーヴィンについては、以前に短篇集『黄色い矢』を紹介したことがありますが、日本では、現代ロシアにおいて非常に人気の高い小説家として紹介されています。

確かにペレーヴィンの小説を読むと、人気が高いのはうなずけます。エンターテイメント性を確保しつつ、文学的にも面白く、幅広い層に受け入れられる懐の深さがあります。

例えば、ポストモダン的=実験的な要素もありますが、それを先鋭化して一般的な読者を置いてけぼりにするようなところまではいっていません。ソローキンのような猥雑さや小説という概念を破壊するような過激さはほとんどなく、それらの要素がむしろ物語を引き立てていて、小説の中の世界を重厚にしている感じがします。

今回紹介する『ジェネレーション<P>』は、1999年(ソローキンの『青い脂』の発表年と同じ!)に発表された長編小説で、70年代に思春期を迎えた世代(ジェネレーション)の物語です。この世代は、本書ではジェネレーション<P>と名付けられています。ここで<P>とは、ペプシコーラのこと。アメリカ的資本主義が少しずつではあるけれど、確実に浸透してきた世代ということでしょう。

主人公はジェネレーション<P>の一員であるヴァヴィレン・タタールスキィ。彼は、文学を愛し、翻訳家として生計を成そうとするが、その矢先にソ連が崩壊。そのため、進路を絶たれたタタールスキィは、売店で働くようになるのだが、そこで元学友のセルゲイ・モルコーヴィンに再会。そしてモルコーヴィンの勧めにしたがって広告のコピーライターとして働くことになる。

その後、タタールスキーは、成功と失敗を繰り返しながらも、着実にキャリアを積み、広告産業の中枢へと上り詰めていき、そして・・・。

と、ストーリーはそんな感じですが、当然一筋ならではいきません。広告産業といえば、資本主義の発達したアメリカの方が当然先進的であり、ロシアのコピーライターは自らアメリカ的コマーシャリズムのロシア化に乗り出さなくてはいかない。

しかし、言うは易く行うは難しで、タタールスキィのその辺りで苦しむことになります。そしてそれを打破するのが、交霊術(なぜか、チェ・ゲバラの霊を呼び出す)やドラッグによる幻覚だったりするのが面白い。

結局は「ワオ理論」とでも言うべきものに落ち着くわけですが、その「ワオ理論」というのがコマーシャルを「アナル・ワオ衝動」、「オーラル・ワオ衝動」、「排除ワオ衝動」の3つの複雑な組み合わせとして解釈するというもの。格別先進的な理論とは言えませんが、本書では重要なファクターでしょう。

それ以外にも、パナソニックなどの実在する会社の商品に対してタタールスキィが付けたキャッチコピーを挿入したり、古代オリエントの神話をなぞるような不可思議なモチーフを随所に挿入したりなど仕掛けも満載。

そんな実験的な作品でありながら、ポップカルチャーにも親和力の高い本作は、中々の快作。おススメです。

さて、次回はようやく【ロシア文学の深みを覗く】の最終回なのです。