処女地(岩波文庫):イワン・セルゲーエヴィチ・ツルゲーネフ | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第18回:『処女地』

処女地 (岩波文庫)/岩波書店

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今回でようやくツルゲーネフも最終回。これで代表的な長編小説は全て読んだことになりますな。こんなに時間をとられるとは予想外でしたけど、読んでよかったと思っています。

さて本書『処女地』(1877)はツルゲーネフの最後にして最長の長編小説です。『父と子』に次ぐ評価を受けているように思えますが、知名度は例によって低いですね。

本書では、ナロードニキと呼ばれる社会運動家として生きる若者たちが主に描かれています。

ロシアでは1861年に農奴が解放されますが、その解放は不完全なもので、実際には農民たちは土地を所有する一部の資本家によって支配されていました。これに不満を持った一部の知識人たちは、土地所有制度を打破しロシアに社会主義国家を樹立するため、農民たちに対する啓蒙活動に乗り出します。

本書では、そんな農民たちに対する啓蒙活動を行う(行おうとしている)若者の熱意と行動や、そんな若者と保守派(貴族や資産家)との対立などが描かれています。

ちなみにナロードニキは結局弾圧され、彼らの運動は道半ばにして瓦解してしまいますが、その思想などは他の革命主義的な組織に受け継がれ、ロシア革命の礎の一つになります。まあ、ロシア革命は1917年ですからまだまだ先の話ですけど。

裕福な公爵とその娘の家庭教師との間に生まれたネジダーノフは、ペテルブルグで学生として暮らしながらも、仲間と共に「共同事業」に参加していた。

そんなネジダーノフに対して自称リベラルな貴族シピャーギンは息子の家庭教師を打診する。ネジダーノフはそれを受け、仲間と別れシピャーギンの領地に赴く。

シピャーギン家では、シピャーギンと息子の他に、人を手玉に取るのが好きな妻、親戚筋の娘マリアンナが暮らし、極めて保守的な貴族カルロメイツェフと、妻の兄のマルケーロフが頻繁に訪れていた。

マルケーロフは貴族でありながら革命に殉ずる男でネジダーノフを仲間と見ると、彼を誘い出し、やはり「共同事業」の仲間で工場長として働くソローミンに引き合わせる。

ネジダーノフはマルケーロフやソローキンと「共同事業」のために行動する一方で、マリアンナと恋愛関係に。マリアンナは人民(ナロード)のために働くネジダーノフに尊敬の念を抱き、彼と一緒に「共同事業」に参加することを決意する。

しかし、シピャーギンはネジダーノフがあまりに赤過ぎることに嫌悪感を抱くようになって・・・

「共同事業」とはナロードニキ運動のこと。同じ運動に参加する人でも、性格や行動、主張などが異なっています。早急な革命を希望するマルケーロフ、冷静に着実に改革を進めようとするソローキン、「共同事業」に夢を見るマリアンナ、そして「共同事業」に参加しながらもそれを信じることができないネジダーノフなどの対比が面白い小説です。

ストーリー展開はゆったりとしているため、血湧き肉踊る社会派小説を期待すると肩透かしをくらいかもしれませんが、登場人物たちの性格などに注目するといいと思います。品切れですが古書なら手頃な値段で手に入るようですので、是非読んでみてください。

上にも書きましたが、今回でようやくツルゲーネフも終わり。今後のためにロシア文学の作家をリストアップしてみたら、予想以上の人数に・・・。ああ、先は長い。

ちなみにリストは以下の通り。★は紹介済みを示します。基本的には生誕年が早い方から順に紹介しようと思っていますが、次回からは早速例外。順番から言えば、次はドストエフスキーですが、ネクラーソフ→チェルヌイシェフスキー→ドストエフスキー→レフ・トルストイの順に紹介する予定です。

ポゴレーリスキイ(1787-1836)★
プーシキン(1799-1837)★
ゴーゴリ(1809-1852)★
ゴンチャロフ(1812-1891)★
レールモントフ(1814-1841)★
A.K.トルストイ(1817-1875)★
ツルゲーネフ(1818-1883)★
ドストエフスキー(1821-1881)
ネクラーソフ(1821-1878)
レフ・トルストイ(1828-1910)
チェルヌイシェフスキー(1828-1889)
レスコフ(1831-1895)
コロレンコ(1853-1921)
ガルシン(1855-1888)
チェーホフ(1860-1904)
ソログープ(1863-1927)
ゴーリキー(1868-1936)
ブーニン(1870-1953)
アルツィバーシェフ(1878-1927)
ベールイ(1880-1934)
ザミャーチン(1884-1937)
パステルナーク(1890-1960)
ブルガーコフ(1891-1940)
マヤコフスキー(1893-1930)
ナボコフ(1899-1977)
プラトーノフ(1899-1951)
オストロフスキー(1904-1936)
ショーロホフ(1905-1984)
ソルジェニーツィン(1918-2008)
ストルガツキー(兄:1925-1991,弟:1933‐2012)
ラスプーチン(1937-)
エロフェーエフ(1938-1990)
ウリツカヤ(1943-)
ソコロフ(1943?-???)
ソローキン(1955-)