二つの伝説(松籟社):ヨゼフ・シュクヴォレツキー | 夜の旅と朝の夢

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二つの伝説 (東欧の想像力)/ヨゼフ シュクヴォレツキー

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松籟社から出版されているシリーズ「東欧の想像力」の最新刊にして6冊目。「東欧の想像力」は、海外文学好きなら押さえておきたいシリーズだと思います。つまりは傑作揃いというわけです。

本書の作者(1924-)はチェコ出身の小説家。クンデラやフラバルと並んで20世紀後半のチェコ文学を代表する作家と目されているとかいないとか。本書以外にも『ノックス師に捧げる10の犯罪』などが翻訳されているようですが、僕は本書で初めて作者を知りました。

さて本書は、作者の自伝的エッセイ1篇と、100頁程度の中編小説を2篇収録したもので、いずれも作者が愛したジャズをテーマにしています。

自伝的エッセイのタイトルは「レッドミュージック」。チェコは第二次世界大戦時にドイツに征服され、大戦後はソ連の影響で共産化されてしまい、表現の自由が制限される時代が続きました。ジャズは退廃的とされ、1898年にビロード革命によって民主化されるまで抑圧されていました。エッセイでは、そんな歪んだ社会をジャズを通して描くことによって、自由と権力との関係を浮かび上がらせています。

小説は「エメケの伝説」と「バスサクスフォン」。「エメケの伝説」では、共産化時代にレクリエーション施設で出会ったエメケという女性とのアヴァンチュールを賭けた駆け引きとそれを邪魔する教師との三角関係的なお話。主人公は、結局教師によってアヴァンチュールに失敗してしまい、教師に対して最後には陰険ないじめにも似た復讐を遂げます。おそらく教師は体制に進んで順応する、作者にとっては忌むべき存在の象徴なのでしょう。かなり否定的に描かれているのが印象的です。道徳的に見れば主人公の陰険な復讐は非難されるべきものかもしれませんが、小説を道徳から見てもつまりません。その奥に潜む人間の実存に目を向けてみると、本作はかなりの傑作だと感じると思います。

「バスサクスフォン」はドイツによる圧政下の話で、チェコ人青年がひょんなことからドイツ人楽団に加わり、彼らとともに演奏を行った一夜を描いたもの。どこか寂しげな本作は、この「対独協力的なジャズの共演(本書p166)」を通して、単純な善悪や愛憎を超えた、チェコ人とドイツ人との微妙な関係を描きだしています。

収録作品はどれも面白く、やはり「東欧の想像力」は買いですね。ちなみに本シリーズは全部読んでいて、全て面白いのですが、特にフラバルの『あまりにも騒がしい孤独』がお勧めです。

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