$*音 楽 画 廊 2*
2012

賞をとって話題になった本や漫画には、人を惹きつける魅力がある。

2004年に開始した『本屋大賞』に注目!

大賞作品はもちろん、ノミネート作品もみんなが知っている作品も多い!

…では第9回目にプレイバック!


$*音 楽 画 廊 2*





 大賞

舟を編む舟を編む
(2011/09/17)
三浦 しをん

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玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。

個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。

言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。

しかし、問題が山積みの辞書編集部。

果たして『大渡海』は完成するのか──。

言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。

2013年、石井裕也監督により、松田龍平主演で映画化された。


『大賞』受賞作品を読んでみました。
Arika感想

書なんて、大人になるとそうそう使う機会がないように思いますが、言葉の意味や正しい使い方をいまいちど勉強しようかな、なんて気にさせられました。

辞書の編集作業は、ほかの単行本や雑誌とはちがう。大変特殊な世界です。気長で、細かい作業を厭わず、言葉に耽溺し、しかし溺れきらず広い視野をも併せ持つ若者が、いまの時代にはたしているでしょうか。

話の展開は落ち着いててゆったり読める感じで、なおかつキャラクターがユカイで面白かったです。

仕事をして生きるということの意味を考えさせるし、ただ実直に辞書の編纂に尽くしていく人々の姿は好ましい。

ただその前には、テレビ等で映画の宣伝が多すぎて、登場人物像に対する想像力が引っ張られがちだが、それでも面白かった。

主人公の馬締や荒木、あるいは馬締の恋人で料理人として生きる香具矢たちのように生涯の仕事に向き合うことのできる人々ばかりでは社会は成り立たない。途中で広告部に異動する西岡のような人生が圧倒的多数である。しかし、彼のような軽さ、だらしなさ、弱さで場を和ましていくいい味の存在こそ、この物語を身近にしている。

読者に考えさせる点がハッキリしている点も評価できる。

そして、本の題名はさりげなく。
 
「なぜ、新しい辞書の名を『大渡海』にしようとしているのか、わかるか。辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
 
「海を渡るにふさわしい舟を編む」

そしてチームは動き出す。

・・・


Arika注目1h
人に本をお勧め紹介する限り、なるべく私もうろこさんも全書は読むようには心がけています。

つぶやき程度の文章から行段をとるものまでありますが2位から10位まで感想を書いてみました。

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ジェノサイドジェノサイド
(2011/03/30)
高野 和明

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創薬化学を専攻する大学院生・研人のもとに死んだ父からのメールが届く。

傭兵・イエーガーは不治の病を患う息子のために、コンゴ潜入の任務を引き受ける。

二人の人生が交錯するとき、驚愕の真実が明らかになる――。


Arika感想

常に多くの要素が混じった、一大スペクタクルの「大作」といって差し支えない作品だと思います。幼年期の終わりのようなSFもあるし、虐殺機関のような哲学も入ってきますし、スパイ物の要素や、バイオレンスもバッチリ入っていて、非常に重厚なサスペンスという感じです。

様々な人間の思惑が交差し、物事がノンストップで進むので、全体的によい緊張感が満ちているといえます。

では、エンターテインメントとして、純粋に楽しめる作品なのかと言えば、ちょっと言葉を濁してしまいますね。

前半は科学的知見や事実に基づく思考について、謎解き要素を交えながら軽快に物語が展開していくおり本当に面白かったです。しかし、P.143より始まる日本人害悪を前提とした断定的史観は作者の政治思想が頻繁に出過ぎて鼻にツーンと刺激を与える調味料みたいになっている。

特に冴えない大学生の日本人は、韓国からやってきた非の打ち所のない青年に対して、劣等感や罪悪感を抱いているくだりや、さらには、漢字を操る中国人の高度な思考にたいし、日本人は抽象的思考が劣っていた、という科学的根拠もなにもない主張が登場人物を通してなされており、その偏った政治思想がエンターテインメントとして、純粋に作品を楽しもうという気持ちを萎えさせてしまうと感じました。

とはいえ作者が敢えてそう描いた意図も、わからなくはないです。アフリカ内戦が舞台なため、ともすれば日本人が陥りがちな「自分たちとは関係のない遠い世界の話」という考えを覆し、ひいては「誰も虐殺行為とは無縁ではない」というテーマを主張したかったのかもしれないという意図は充分に察せられます。

しかし、その意図のせいか、あるいは思想があふれ出てしまったのか、とにかく物語の要所要所で読者を「ん?」と引っかからせるような文章が入ってくるので、読んでて非常に「流れ」が悪くさせています。

その「流れ」の悪さが、せっかく作品の世界観にノリかけた気持ちを、すぐにクールダウンさせてしまう。

それはエンターテインメントとして大きな欠陥である、と私は考えます。

テーマを伝えたいためでしょうが、人物造形も一面的で、どうにも「役割」を演じるためだけに作られたキャラクターという印象だし、鍵となる超越者的な赤子の神秘性は凄く感じられるのですが、一方で、そのポータブルオーバーロードの能力があまりにもチートで、非現実的すぎる所もひっかかりました。

美味しそうな要素をこれでもかと詰め込んだ割に、まばらに刺激の効いた調味料をやたらと振りかけすぎたため、消化不良を起こしてしまうような作品でした。

もう少しのめり込みたかったのに、実に惜しい作品というのが私の正直な感想でした。




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ピエタピエタ
(2011/02/09)
大島 真寿美

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18世紀、爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。

『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で“合奏・合唱の娘たち”を指導していた。

ある日、教え子のエミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。

一枚の楽譜の謎に導かれ、物語の扉が開かれる―聖と俗、生と死、男と女、真実と虚構、絶望と希望、名声と孤独…あらゆる対比がたくみに溶け合った、“調和の霊感”。

今最も注目すべき書き手が、史実を基に豊かに紡ぎだした傑作長編。


Arika感想

エタと言ってもイエスの遺骸を抱くマリアの像の話ではありません。この「ピエタ」はヴェネツィア共和国にあった公式の女の赤ちゃんの捨子養育院兼音楽院で,固有の礼拝堂を持ち,ヴィヴァルディはそこの司祭であり,音楽教師である。

物語はかつての捨子 (これをピエタの娘と呼んだ) エミーリア (今では住込みの書記) を語り手とし,ヴァイオリンの名手になった双子のように親しい友アンナ マリーア (実在の人物) を音楽のリーダーとして,ヴィヴァルディがウィーンで63歳で客死 (1741) した報せがピエタに届いた所から始まる。

文体はエミーリアの置かれた状況を的確に反映して変化し、平板な時代小説にはなっておらず、読み手は自然と18世紀ヴェネツィアに入り込んだ気持になれる。もっと言えばこれが実はイタリア語で書かれた綿密な研究による過去の復元作業の成果を回想記をそのまま翻訳にしたような不思議な錯覚を覚えてしまう。

メインプロットの昔の楽譜探しは,音楽の恵みを味わわせつつ多数の人物たちに 思いもかけない救いをもたらしてめでたく終る。

一言で言えば圧倒的作品。 舞台に一気に引き込まれ、正直、この作者に、こんなに力量があるとは思いませんでした(失礼!) が、実に後味の極めてよい極上のミステリでございました。



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くちびるに歌をくちびるに歌を
(2011/11/24)
中田 永一

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拝啓、十五年後の私へ。

中学合唱コンクールを目指す彼らの手紙には、誰にも話せない秘密が書かれていた―。

読後、かつてない幸福感が訪れる切なくピュアな青春小説。

Arika感想

んでる最中から、この本を映像化したらキャストは誰になるだろうなと頭に過りながら読みました。

アンジェラ アキの「手紙」をバックに綴る青春物語。

離島の中学生の生活、恋愛、家族、ゆれる思いが伝わってきます

中学の合唱部がNコンをめざすというありがちなストーリー。

なのですが・・・・・・・・ 最後の手紙の文面で泣く。

というか私は泣いた。

合唱をはじめるまで、クラスでは影のような存在で、友達が一人もいなかった主人公・桑原サトルが、自分に書いた手紙の文面が心にささる。

友達がいなくても、腐らずひねくれずにどうして自分をたもっていられたか・・・・

これがまた、淡々とした内容で書くからたまらない。

まだ15歳なのに、自分で自分の存在理由なんか、きめつけんなよ~~~~~!!!!、と号泣

この作品は、この手紙の内容がまずあって、それに合わせて話の設定を作ったんじゃないかというくらい中学生の課題図書に良いのではないかと思う。

紆余曲折しながら大会を目ざすという青春ストーリーにまじって、どうしようもできないほど、複雑で重い家族関係を背負って生きる中学生の姿。

そんな子ほど明るくまっすぐに描かれているから、読みては救われるというか…。

読み終わるともう頭の中をアンジェラアキがリピートしてもう止まりませんでした。



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人質の朗読会人質の朗読会
(2011/02)
小川 洋子

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遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。

紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。

祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。  


Arika感想

質となった人たち(後に爆死してしまう)の朗読会といった設定で、各章の最後に、ごく短い肩書きが添えられているのですが、その人の過去と現在をつなぎ、その人の歩んできた道、人生が垣間見える様な気がします。

なんでもない日常が本当は一番輝いていた。

そんなことに気が付くのは緊張を強いられる非日常の環境におかれているからで、環境が変えられないなら、あの日の気持ちだけでも取り戻そうと、賢明な人質たちは気が付いた。

今このときも日常なのだ。

朗読はそれを取り戻すための手段。

自分が生きてきたことの記録。

小川洋子の作品は心のひび割れにそっとしみ込み、静かに、騒ぎ立てることなく癒してくれる作品が多い。

小川洋子独特のいつもの世界に心地よく浸ることができましたが、それは同時に私の心は、自分も知らない間に疲れていたんだなと気付く。

それぞれのエピソードが少々美しすぎるので現実感には欠けるが、この話が心に響くのは、人質という立場になくても、私たちが日々死に向かって、死と触れながら生きているからであろうと思う。


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6位


ユリゴコロユリゴコロ
(2011/04/02)
沼田 まほかる

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暗黒の欲望にとり憑かれ、さまよう魂。

運命は、たったひとつの愛と出会わせた。

沼田まほかるの小説は、身も心もからめとる―。

おそるべき筆力で描ききった衝撃の恋愛ミステリー。


Arika感想

気に読めた。心理描写がすごい! 心臓の鼓動が聞こえてくる、その息づかいが感じられる作品である。

たんにホラーミステリーのカテゴリに閉じこめられない人間の心の奥底、闇の部分を暴いて見せる。

人間とは何かを深く考えさせられながらも、何かしら一条の光が見えてくる。

淡々と読み進められる内容ですが、小説の中でまたさらに文章が書かれているタイプで、こことここが繋がったのね!という伏線好きにはたまらない一冊なのではないでしょうか。

勘が良い方にはわかってしまう結末かとは思うが、それでも淡々と展開される作中の殺人日記はフィクションならではのワクワクを感じながら読めるかと思います。

主人公が手記を見つけ、読みはじめた瞬間からゾクリと寒くなりました。

実家にこんな恐ろしいノートがあったら、私なら見なかった事にして荷物をまとめて家を出るでしょう。

ぞくぞくしながらも先が気になって一気に読了です。 

登場人物たちの行動に理解しがたい部分もあるけれど、大体は「ああそうか」と思えたし、ラストは素直に驚かされました。 



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7位

誰かが足りない誰かが足りない
(2011/10/19)
宮下 奈都

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足りないことを哀しまないで、足りないことで充たされてみる。

注目の「心の掬い手」が、しなやかに紡ぐ渾身作。偶然、同じ時間に人気レストランの客となった人々の、来店に至るまでのエピソードと前向きの決心。


Arika感想

ライという店を象徴に、「誰かが足りない」世界を描いた6作品。

「失敗自体は病ではない。絶望さえしなければいい」。

ささやかな人生に向き合う弱い自分を、背中でそっと支えてくれようとする手のような小説。

『今の自分には誰かの存在が足りないんじゃないか...』

『自分には必要なはずなのに...』と。

私自身も何気ない時にふと感じる事があり、そのたびに寂しい気持ちになり孤独を感じる事が多々ありました。

しかし歳を重ねてくると今はこの寂しさで苦しむ必要はないんだとすごく思います。

躓きや虚無感からの再生の物語という面白い内容ではあるのですが、残念なのは一話一話が短いので少々物足りなさはありました。



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8位

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
(2011/03/25)
三上 延

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鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。

そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。

残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。

接客業を営む者として心配になる女性だった。

だが、古書の知識は並大低ではない。

人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。

これは“古書と秘密”の物語。


Arika感想

書店,つまり古本屋さんと古本を題材にした四話収録の連作短編集に近い作品で、その四話に四冊の本がそれぞれタイトルとして当てられているのも興味を引かれました。

内容はいわゆる『日常の謎』系。それぞれの本を踏襲するちょっとした謎や事件を、カバー絵の栞子さんはという女性主人が安楽椅子探偵。語り部の青年が助手となり解決をしていきます。また,人の手を渡る古本ということで,本を巡る思いやそれまでの時間に重きが置かれ、血生臭い話はないものの、一話にはじまりどちらかと言えば重めに寄った印象を受けます。

そしてこれらとは別に,四つの話を貫くように描かれる全体を通じた謎と人間模様は、やや平易な部分もありますが、各話をうまく回収しながらキレイにまとめられています。

普通推理小説と言えば殺人事件ですが、この話に殺人は一切出てきませんし、事件も小さな事件です。

それを堂々と事件手帖というのですから、著者の物語に中の推理に相当の自信が窺えます。大体本格的推理小説というのは読者にも情報をすべて与えて読者でもその結論に至ることとが可能な状況にしておきながら読者にはなかなか考え付かない結末を迎えるというのが一級の作品ではないでしょうか。

そしてこの本の中の栞子さんは卓越した本の知識を武器に読者にも思いつき得ない推理を展開し真相に辿りついてしまうのです。

本や古書店好きをくすぐる内容になっていて続刊の方への期待も膨らむところではありますが、なお,登場する本は作中で内容などが語られますので、知らなくても全く問題はありません




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9位

偉大なる、しゅららぼん偉大なる、しゅららぼん
(2011/04/26)
万城目 学

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万城目学の最新作にして、大傑作!!!

琵琶湖畔の街・石走に住み続ける日出家と棗家には、代々受け継がれてきた「力」があった。

高校に入学した日出涼介、日出淡十郎、棗広海が偶然同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がった!


Arika感想

すが万城目さん、独特の世界を独特のタッチで描いてくれました。分かりやすくてワクワクしつつ、いろいろ考えさせられるストーリーです。
 
「その人の心が読めれば……」と思ったことがない人はいないかもしれませんが、実際にその力を得ても幸せにはなれそうにありません。

かえって不幸なことなのかも。知りたくないことは、知らずに済むことの方が、幸せです。

そして、人生も楽しいはず。

淡十郎、棗広海、グレート清子と強烈なキャラの中で、いたって平凡な少年、涼介君がいい味を出しています。

特に魅力的だったのが、グレート清子だ。ヒロインは美人と相場が決まっているが、清子に限っては実の弟から「清コング」と呼ばれるほどの風貌である。

しかしこのキャラが魅力的に描かれているところが、作者の筆力のなせる業であろう。

また、ミステリー的な要素もあり、最後まで一気に読むことができました。



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10位

プリズムプリズム
(2011/10/06)
百田 尚樹

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いま目の前にいるのは、私が愛した“あなた”ですか?

かつて誰も経験したことのない、切なくミステリアスな恋愛の極致!!

世田谷に古い洋館を構える資産家の岩本家に聡子は足を踏み入れた。美しい夫人から依頼されたのは、小学校4年生になる息子・修一の家庭教師。

修一と打ち解け順調に仕事を続けていた聡子だが、ある日、屋敷の庭を散策中に、離れに住んでいるという謎の青年が現れる。

青年はときに攻撃的で荒々しい言葉を吐き、聡子に挑みかかってきたかと思えば、数日後の再会では、陽気で人当たりが良く聡子を口説いてからかったり、かと思うと、知的で紳士然とした穏やかな態度で聡子との会話を楽しんだり……。

会うたびに変化する青年の態度に困惑するが、屋敷の人間は皆その青年については口を硬く閉ざすのであった。

次第に打ち解けていく青年と聡子。やがて、彼に隠された哀しい秘密を知った聡子はいつしか彼に惹かれはじめている自分に気づき、結ばれざる運命に翻弄される。

変幻自在の作品を生み出す著者が書き下ろした、哀しくミステリアスな恋愛の極致。


Arika感想

すがに多彩な小説を書き分ける百田氏だけに、単なる恋愛小説ではなく『プリズム』というタイトルにあるように透明な光線がプリズムを通すと色がわかれるような複雑な人格を有する男性と恋に落ちる人妻という少しひねった設定の恋愛小説。

本書は主人公の聡子が家庭教師として教えに行った家で出会った男性が、その後再開するたびに人格も記憶も変わっているという設定で、何故そのような複雑な人格が生まれたのかという疑問が徐々に解明する過程とそれが回復に至る過程が抜群に面白い一方で、そこに至る悲劇も描かれており考えさせる作品です。

ただ、残念なのは、多重人格者との恋愛という題材は面白いと思いますが、物語の筋に当てはめるために人物が行動している印象や症状を説明するためとはいえ不自然な状況が目立ちます。

許されない恋の割りに、惹かれあう理由が「美人だから」「理想的な男性だから」程度で感情移入できません。

恋愛小説としても、実在と架空の境界線を彷徨うような恋に対する聡子の心の揺れが伝わるしっとりとした味わいのあるいい作品だと思うが、終盤部分がやや駆け足になった感じがします。






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Playback 2012
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第9回目となる2012年本屋大賞は2011年11月から一次投票を開始。

一次投票には全国431書店より560人、二次投票には302書店より371人もの投票がありました。

二次投票ではノミネート作品をすべて読んだ上でベスト3を推薦理由とともに投票しました。

その結果、2012年本屋大賞に『舟を編む』三浦しをん(光文社)が決まりました。