2010
賞をとって話題になった本や漫画には、人を惹きつける魅力がある。
2004年に開始した『本屋大賞』に注目!
大賞作品はもちろん、ノミネート作品もみんなが知っている作品も多い!
…では第7回目にプレイバック!
大賞
天地明察 (2009/12/01) 冲方 丁 商品詳細を見る |
江戸時代前期の碁打ちで、数学者である渋川春海が、日本独自の太陽暦を作るために実行者に選ばれる。
彼の20年にわたる奮闘、挫折、恋を描く。
2012年に主人公を岡田准一が、その妻役を宮崎あおいが演じて映画化。
『大賞』受賞作品を読んでみました。
柴
川春海と彼を取り巻く人間模様、改暦にかける情熱など、読んでいて爽快でした。
私は天文学も数学和算にも素人であり、学術的な事はさっぱりですが、読んでいて、ちょうど三浦しをん作の「風が強く吹いている」を思い出した。それはかの箱根駅伝を未経験の10人組がたった1年の間に予選通過を果たし、本戦でもシードに残るという有り得ない話。それでも箱根の経験者からさえも賞賛され、読者に多くの感動を与えた作品であります。
本作品はまるでこれと対をなすかのように、私の知的欲求に火を付けた。これまで学問を仕事の道具ほどにしか考えていなかったが、それは広く深く、このように情熱を注ぐに値するものなのか。春海の才には到底及ばぬ私ではあるが、彼を取り巻く仲間が皆そうであるように、最期まで何かを探求する自分でありたいと心を揺さぶるものがありました。
本書で使われている「明察」という言葉は、算術の解答が正しかった場合につけられるので、「大変よくできました」的な意味合いがあるのだろうし、本来の意味的には「事実を見抜いた」となるのだろうが、私はこれに、証明終了を意味する「Q.E.D.」という言葉をあてようと思う。なぜなら、誰かに認められるという意味よりも、自らが成し遂げたという充実感を、より強く持たせたいと思うから・・・。
人に本をお勧め紹介する限り、なるべく私もうろこさんも全書は読むようには心がけています。
つぶやき程度の文章から行段をとるものまでありますが2位から10位まで感想を書いてみました。
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位
神様のカルテ (2009/08/27) 夏川 草介 商品詳細を見る |
『24時間、365日対応』の信州の病院に勤務する医者が生と死に直面しながら医療を検索する姿を描く。
桜井翔主演で2011年に映画化。
読み始めたら、意外とあっさりと読めてしまいました。
しかし、取り扱っている事柄が重いだけに、この程度の軽いタッチが人気の秘密なのかもしれないとも思いました。
全体としては、夏目漱石好きの主人公の語り口が、味わいをより増す役割を果たしていました。また、主人公夫婦が住んでいる家の不思議さも、医療問題だけの堅苦しくて重たい小説に終わらせない理由なのかもしれません。
この小説の世界がとても色鮮やかに感じるのは、このにてんのおかげだと私は思いました。
主人公自身は大きな成長や変化を遂げることなく、周りの人間が少しずつ変わっていく、というストーリーはよくあります。
この「神様のカルテ」もそれに漏れることなく、主人公に大きな変化はありません。
だからこそ、読者に暖かい安心感を与えてくれるのだと思います。
ただ、ひとつ贅沢を言うならば、それぞれの人物について表面的ではない描写がもう少し欲しいな、とも思いました。
本書は、軽いタッチながら現実の医療現場から、医師の目線で書かれた小説として、色々な問題が散りばめられています。
地方の地域医療問題。
救急医療問題。
研修医問題。
終末期医療問題。
癌告知の問題。
大学病院・高度医療とは何なのか。
その葛藤と闘いながら、それでも真面目に生きていこうとする主人公。著者は主人公そのものだと思うが、文語調の言い回しや文体が見事にキャラクターに融合している辺りは、大変な読書家と洞察しました。
本文にある「世の中という大海原に向けて船を出す。難破を恐れて孤島に閉じこもる人々ではない。生きにくい世の中に自分の居場所を見つけるために何度でも旅立つ・・・・」
そういう気概さえあれば、不器用でいいじゃないか。
一般的な生活から、かけ離れていてもいいじゃないか。
自分にとって望ましい印象をあたえるために、他人の評価ばかり気にしたり、気をさいて意図的にふるまってばかりいる人間より、ずっとずっとカッコいい!!!!!!・・・と、声高に言いたくなってしまう作品です(笑)
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位
横道世之介 (2009/09/16) 吉田 修一 商品詳細を見る |
長崎の港町に生まれて、上京したての18歳・世之介。
御人好しでどこにでもいそうな大学生を主人公にした、懐かしさ漂う80年代の青春群像小説。
大学進学のために上京した「横道世之介」18歳の、なんでもない一年間の話。
相変わらず着眼がすばらしい吉田修一さんお得意の日常あるあるをのんびりした気持ちで心地よく読み進めていると、中盤、ノーモーションで強烈な一発が飛んできます。
あまりにすごいタイミングなので避けるのは困難。
自分も思わずのけぞって、本から顔を上げてしまいました。
そうか。これ、そういう話なのか。
完全に油断してた・・・・となる展開!
そして、なんでもない話なのに、呑気でお気楽な世之介の日常を笑いながら読んでいると、とつぜんジーンときたりもする。
世之介を知る人々の数十年後が物語に挟み込まれた構成が効いている。
気がつけば、世之介のことが好きになっている。
世之介の世界から出たくなくなっている。
そして読み終えた今、この本がなぜかとても愛おしくて仕方ない。。。
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位
神去なあなあ日常 (2009/05/15) 三浦 しをん 商品詳細を見る |
「なあなあ」が口癖のおっとりした人たちが住む神去村に、林業の研修生として送り込まれた主人公。
林業に従事する人々との交流を描く。
三浦しをんは人間関係を描くのがうまい作家です。
この関係は良いとか良くないとか決めつけず、ただ、その関係性を読者に楽しく読ませ、酔わせてくれる。
この著書は、人間関係がとても限られた山奥の村で林業を営む人々の物語。
今回は、人と人との話に限らず、木や山などの自然と人間の関係性も描きこまれ(すなわちそれは、ある意味、自然に宿る人間を超えた力≒神様的なものとの邂逅も含むわけで)大変読み応えのあるチャーミングな小説だった。
都会の便利さに慣れた人間が生活すればとても不便さを感じると思うが、読んでいくと、現代社会のいくつかの問題が浮き彫りにされており考えさせれる一冊なので、特に、中高校生の感受性の多感な時期に読んでほしいなと思いました。
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位
猫を抱いて象と泳ぐ (2009/01/09) 小川 洋子 商品詳細を見る |
天才チェスプレイヤーのリトル・アリョーヒン。
彼の棋譜は美しいが、その姿を見た者はいないという。
小川ワールドを堪能できる作品。
チェスをほとんど知らない私でも知らないうちに引き込まれてしまう展開。
過度な盛り上がりはなく、心地よく読み進んでいける物語。
白熱している勝負が美しい音楽のように描かれていて静かに流れる曲のように感じられます。
そして、それぞれの場面はまるで映画でも見ているかのように…。
美しさとチェスの宇宙を感じる文章を読んでいると自分が物語の中にいるような感覚になる。
悲しい境遇の主人公たちに暗さはなく、彼らが心のつながりで静かに力強く生きていくところがこの物語の魅力だと思う。
ただ物語の後半から、とてもせつなくなり、たびたび涙を流しながら読み進めた。
小川洋子さんは、社会的に弱い人や、不器用な人たちを愛のこもった言葉と文章で丁寧に描き、いつのまにか彼らの強さと美しさを読者に伝えることができる素晴らしい作家だと、今回改めて再確認いたしました。
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6位
ヘヴン (講談社文庫) (2012/05/15) 川上 未映子 商品詳細を見る |
「苛められ、暴力をふるわれ、なぜ僕はそれに従うことしかできないのだろう」
善悪の根源を問う、著者初の長編小説が遂に文庫化!
第20回(2010年) 紫式部文学賞受賞
実はなかなか奥の深い純文学作品で、なんというか、一読しただけではわからない、作者の狙いや思いが、話の展開の行間や、ちょっとした細部なんかに織り込まれている。
理念や観念を支えに生きることの美しさと危うさ、生の実存的苦しみと出口の模索、生と俗との対比、等を通じながら、苦しみを受けた存在である我々にとって、「ヘヴン」はどこにあるのか、を作家は問うているように思える。
「したら罪悪感が芽生えるからか? じゃあなんで君には罪悪感がうまれて、僕には罪悪感がうまれない? どっちがまっとうなんだろう?」
この作品の百瀬というキャラクターはすこぶる格好いい。
理論こそ全てといったような態度は「お前、絶対中学生じゃねえだろ」とツッコミをいれたくなること必至。
だが、こんな風に世の中を達観している百瀬はおそらく「死」を常に傍らにあるものとして生きているのだろう。
故に、体育に出れず、常に咳をしていて、体を激しく動かすようなことはできない。
「地獄があるとしたらここだし、天国があるとしたらそれもここだよ。ここがすべてだ。そんなことにはなんの意味もない。そして僕はそれが楽しくて仕方がない」
本音かどうかは兎も角として、彼のこの思想は「ヘヴン」を信じるコジマの考え方と真っ向から対立する。
イジメに意味を見出し、受動的にやられるのでなく、自ら引き受けることで強くなろうとするコジマ。
イジメをすることに意味などなく、たまたまその時の欲求が一致しただけだと吐き捨てる百瀬。
その間を揺れ動く主人公。
イジメの描写は凄惨で見ていて辛いが、物語としては面白い。
結末に流れてゆくまでの怒涛の展開に圧巻させる。
小説として面白いだけでなく、「善」や「悪」と言った当たり前のことについても考えるキッカケを与えてくれ読み物としても面白いです。
ただ、読み進めるにつれイジメにあっている主人公があまりにも惨めであり、どんどん気持ちが沈んでいくのは歪めないかもしれません。
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7位
船に乗れ! Ⅰ (ポプラ文庫ピュアフル) (2011/03/04) 藤谷治 商品詳細を見る |
船に乗れ! Ⅱ (ポプラ文庫ピュアフル) (2011/03/04) 藤谷治 商品詳細を見る |
船に乗れ! Ⅲ (ポプラ文庫ピュアフル) (2011/03/04) 藤谷治 商品詳細を見る |
若きチェリスト・津島サトルは、芸高受験に失敗し、不本意ながら新生学園大学附属高校音楽科に進む。
そこで、フルート専攻の伊藤慧やヴァイオリン専攻の南枝里子と出会った津島は、夏休みのオーケストラ合宿、初舞台、ピアノの北島先生と南とのトリオ結成、文化祭、オーケストラ発表会と、慌しい一年を過ごし……。
本屋大賞にノミネートされるなど、単行本刊行時に称賛を浴びた青春音楽小説三部作。
根拠のない自信にまみれていたあのころを思い出します。
一冊目はちょっとめんどくさい感じもするけど、とにかくあっと言う間に全3冊読み終えました。
チェリストを目指している高校生が主人公なのですが、 オーケストラをやること、楽譜通りに楽器を弾く事、楽器で音を出すこと、それぞれがどれほど難しいのか描写してあり、とても興味深かったです。
今まで読んできた音楽ものって、大体技術はとっくにクリアしてて、「恋している主人公が弾いたピアノがとても心がこもったからコンクールで優勝」的なメンタル勝負だったなあ。
「まず楽譜通りに弾いてみやがれ、それだけがどれほどそれが難しい事か」ってエピソードは新鮮だったしもっともだと思いました。
音楽素人の考えですが、音楽学校ってこういう事してるのね、と3冊分知らない世界に浸れてとても楽しめました。
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8位
植物図鑑 (2009/07/01) 有川 浩 商品詳細を見る |
お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。噛みません。躾のできた良い子です――。
思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫のうえ、重度の植物オタクだった。
樹という名前しか知らされぬまま、週末ごとにご近所を「狩り」する、風変わりな同棲生活が始まった。
とびきり美味しい(ちょっぴりほろ苦)“道草"恋愛小説。レシピ付き。
タイトルからして、むしろ堅苦しいはずの「植物図鑑」。
でも口当たりは軽やかで、「キュンッ」と心が、「きゅるる~」と食欲が刺激されます♪
全ての物語が正鵠無比である必要はないでしょう?
「安らげるもの」「トキメけるもの」そんなスパイスも人生には重要です(笑)
有川さんの「植物図鑑」はそんな本で、「軽い」「稚拙」と思われる方もいるようですが、「植物図鑑」は「物語」であって「図鑑」ではないので(苦笑)、純粋に心の機微を楽しみましょう♪
有川さんの描く男性達は完璧超人が多く、平凡な一男性としてはなかなか感情移入しにくいのですが(笑)女の子の心情が妙にリアルで妙にフィクショナルで、それがとてもステキです。
そしてこれを読んで「キュンッ」としている女の子を見るのもまた、ステキですね♪
恋愛小説は基本的に好きではありませんが程よく甘すぎず、程よくリアルでハッピーエンドなことがこの上なく嬉しい。
『別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。』
カーテンコール/午後三時の章の樹の様に花の名前を教えた方も、その花が咲いているところを見ると想いがあふれ出ます。
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9位
新参者 (2009/09/18) 東野 圭吾 商品詳細を見る |
日本橋。江戸の匂いも残るこの町の一角で発見された、ひとり暮らしの四十代女性の絞殺死体。
「どうして、あんなにいい人が…」
周囲がこう声を重ねる彼女の身に何が起きていたのか。
着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、事件の謎を解き明かすため、未知の土地を歩き回る。
短編集のようで実は長編になっているという変わった構成だが、この試みがとても新鮮で加賀シリーズの中では一番好きな作品になった。
事の発端は、日本橋の一角で起きた殺人事件。
事件に関係していると思われる人々が住む人形町を加賀が歩き回り、煎餅屋、瀬戸物屋、時計屋・・・など1軒1軒を訪ね、それぞれの家の中の小さな"物語"に接していく。
ほんのちょっとしたすれ違い、勘違い、意地の張り合いからうまくいかなくなった夫婦の関係や親子の関係。
加賀は決して深入りはしないが、抜群の慧眼、自分の信念と温かい言葉で穏やかに人々の心に入り込んでいく様がこの作品の真骨頂。
ひとつひとつの物語がしんみりと心に染み込んできて余韻も最高。
そして、もうひとつ印象的なのが人情と風情溢れる下町の描き方である。自分も加賀と一緒に人形町を歩いているような気持ちになり、この町の様々な魅力にドキドキしながら読んだ。
著者は実際にここを何度も歩いたそうだが、その際に見たもの、感じたことが手に取るように伝わってきて「素敵だな、ここに行ってみたいな」と思わされる。
この人は人間の"悪"の部分を書かせても一級品だが、こういう人情味溢れる、心にジーンとくるドラマも同じくらい上手い人である。
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10位
1Q84 BOOK 1 (2009/05/29) 村上 春樹 商品詳細を見る |
1949年にジョージ・オーウェルは、近未来小説としての『1984』を刊行した。
そして2009年、『1Q84』は逆の方向から1984年を描いた近過去小説である。
そこに描かれているのは「こうであったかもしれない」世界なのだ。
私たちが生きている現在が、「そうではなかったかもしれない」世界であるのと、ちょうど同じように。
村上春樹の小説は、「ノルウェイの森」をはじめ多分20冊近くは読んでいると思います。
今回、電車の売店で1Q84のbook1の前編を読んで,あまりの面白さにやめられなくなりました。
行き先に到着するまでに1冊目をよんでしまい、帰りに1冊、残りは家で・・・。
引き込まれる文章力は流石です! それから主人公達の緊張感が私のこのみです。
それからさらに主人公たちの道徳性というか正義感に対してとても共感します。
1984年と違った世界、1Q84という設定も面白い。
ただ、好みにもよるでしょうが、「青豆」「天吾」と章を分けて書かれるのはよみ辛かったです。
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Playback 2010
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売りの現場からベストセラーを作ろうと、全国の書店員が自分達が最もお客様にお勧めしたい本を投票でえらぶ「本屋大賞」。
第7回目となる今年は昨年11月1日から一次投票を開始。
今回は1157人もの書店員がエントリーし、一次投票には全国323書店より385人、二次投票には304書店より350人もの投票がありました。
二次投票ではノミネート作品をすべて読んだ上でベスト3を推薦理由とともに投票しました。
その結果、2010年本屋大賞に、『天地明察』冲方丁著(角川書店)が決まりました。