2007
賞をとって話題になった本や漫画には、人を惹きつける魅力がある。
2004年に開始した『本屋大賞』に注目!
大賞作品はもちろん、ノミネート作品もみんなが知っている作品も多い!
…では第4回目にプレイバック!
大賞
一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫) (2009/07/15) 佐藤 多佳子 商品詳細を見る |
一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ- (講談社文庫) (2009/07/15) 佐藤 多佳子 商品詳細を見る |
一瞬の風になれ 第三部 -ドン- (講談社文庫) (2009/07/15) 佐藤 多佳子 商品詳細を見る |
陸上競技にかける高校生たちを描いた3部作の長編青春小説。
安田剛士作画による漫画にもなっているほか、2008年にフジテレビ系でドラマ化もされた。
『大賞』受賞作品を読んでみました。
全
3部作なのですが、終わりに近づくと、もっと続きが読みたい、読み終わりたくない!と思うような気持ちになりました。
だけどとまることもできずに一気に駆け抜けるように読んでしまった。
主人公の新二も、親友でライバルの連も大成長を遂げ、タフなアスリートとして高校の最終学年を迎えた。
高校総体を目指して、400メートルリレーに挑む彼ら。
予選からたくさんの強敵たちと走ることになるのだが、その緊迫感のある試合場面は、読んでいて、ページをめくってるのが自分だということを忘れるくらい前のめりになって「どうなるの?早く!」と猛スピードで読み続けました。
この物語の魅力は、一人一人のキャラクターがよく描かれているところだと思うんだけど、第3部ではとくにそれを感じました。顧問の先生や先輩たちが主人公に何かを教える大人、としてではなく、一人の人間として立っていて、その人が吐く台詞だから読者は励まされたりうなずいたりする感じで引き込まれてしまうのでしょうね。
主人公たち以外の陸上部員の健闘も祈らずにいられない総体の予選シーンあたりから涙と興奮がとまらなかった。
読んでいる間ずっと幸せだった気がして、最後のページを読み終えたとき、すごく寂しかったです。
それくらい素敵な小説で、読んだ人同士で思う存分語り合いたい、分かち合いたい、そんな愛すべき小説だった。
人に本をお勧め紹介する限り、なるべく私もうろこさんも全書は読むようには心がけています。
つぶやき程度の文章から行段をとるものまでありますが2位から10位まで感想を書いてみました。
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位
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) (2008/12/25) 森見 登美彦 商品詳細を見る |
京都を舞台にさえない男子学生と無邪気な後輩女性の恋物語をそれぞれの視点から交互に描く。
ポップな世界観で、マンガや舞台になった。
読み出すともうすぐに『森見ワールド』に没入してしまう。巻末の羽海野チカ氏のイラストのように、イメージが跳梁跋扈して、転がり廻り渦を巻く。それはマジックリアリズムというより、京都という希有なポジションの上に、コトバとシーンを貼り付けていくステキなモノ、という感じだ。
おともだちパンチ→偽電気ブラン→詭弁踊り→赤玉ポートワイン→二足歩行→ダルマ・・・と枚挙にいとまがない。
もう、読んだ者しか分からない、お腹の底が暖かくなる迷宮である。
アラフォーの今でもおもしろいですが、高校生くらいのとき(その頃はこの本は存在してませんが)に読んでいたらもっと夢中になったでしょう。
これはある種のおとぎ話ですから、ありえないヒロイン像でも問題ないんです。
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位
風が強く吹いている (新潮文庫) (2009/06/27) 三浦 しをん 商品詳細を見る |
陸上経験のない者たちがほとんどの、”寄せ集め”の陸上部員たちが、箱根駅伝出場を目指す青春小説。
2009年に小出恵介、林遺都主演で映画化。
素人集団が箱根駅伝を目指す、という一見荒唐無稽なお話ですが、走ることを止められない主人公・走をはじめとする竹青荘の面々に引き込まれ、こちらも読むことを止められなくなること請け合いの、ノンストップ青春小説です。
もちろんかなり無理な設定があることは事実なのですが、走るという行為、そして苦しさや喜びそう云った深い部分までよく描いてくれています。
苦しい練習から予選会に至るまでの心情や練習の厳しさ、そして何より箱根駅伝本番の各走者の走りの描き方、走りながらの選手の心理描写に思わず自分の昔の姿を投影してしまい、涙しました。
運動と無縁な生活を送る私にとっては、走るという行為は苦痛以外の何者でないのですが自分の足だけで高みを目指して箱根を駆けるランナーはいったい何を思い、何を願って、襷をつないでいるのか毎年正月にTVを見るたびに不思議に思っていました。
もちろんフィクションなのですべてが本当ではないけれども、この小説の後半、1区から10区を駆けるそれぞれのメンバーのモノローグを読みながら、その答えを感じ取った気がします。
本が好きな人も、箱根駅伝が好きな人も、三浦さんが好きな人も、ぜひ手にとって欲しい一冊です。
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位
終末のフール (集英社文庫) (2009/06/26) 伊坂 幸太郎 商品詳細を見る |
『8年後に地球が滅亡する』と発表されてからの5年間を描く。
人々はどう生きるのか。仙台の団地に住む人々を主人公にした連作短編集。
伊坂さんの本屋大賞受賞作は「チルドレン」に続いて二作品目の読書ですが、今回も面白い作品でした。
巨大隕石が3年後に落ちて人類は死滅する、そのときどう生きるか。
この舞台を8つの角度から描いています。舞台は仙台のあるマンションながら、さまざまな葛藤や陰影をつけて描かれる8つの物語はとても読み応えがあり、楽しめる作品でした。
その8つの作品の中心にあったのが「許す」という言葉のように感じました。
自分を、人生のパートナーを、肉親の仇を、許すことができるのか。許せないのか。
どうなれば許せるのか。許しなさいと作者はお説教じみた展開はしません。
さりげなく、あなたなら許せるのかとドラマを通じて問いかけてきます。
この舞台であなたは許せますか? また、あなたは自分自身を許せますか?
あなたにとって「許せない」と握っている思い、出来事、人はいますか?
そう問いかけてくる作品でした。
全体を通して「生きる」ってことがこの作者のライフテーマなんだろうなという事と、作品を振りかえってみると全部「生きる」って話なのに驚いた。
テーマとしてはごくごくありふれたもので、この時代にそういう青臭いメッセージはどうかとも思うけど、この作者の場合、単なる楽観主義でもなく、シニシズムでもなく、残酷さをもって静かに書ききってしまうところがすごく面白い。
しかし、できればそんな思いを引きずったまま、末期のときを迎えたくないですけどね…。
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位
図書館戦争 (2006/02) 有川 浩 商品詳細を見る |
近未来の日本を舞台とし、検閲から本を守るための組織「図書隊」の奮闘と隊員の恋愛の恋愛を描く。
『図書館内乱』などのシリーズに続く第1弾!
図書館の自由。司書の勉強をしたとき、公共図書館をめぐる社会運動の歴史を背景に持つこの文言に感銘を受けた。実在する「図書館の自由に関する宣言」がそのまま目次になっているところに惹きつけられて即座に購入。設定や仕掛けの見事さに脱帽。
物語は、スピーディでコミカルで、一応ラブが中軸で、一気に読みたくなる上質のエンターテイメントで、ライトノベルっぽいけれども、知る権利や言論の自由について、自由という権利と責任という義務について、正義と正義を振りかざす暴力について、テーマは充分に大人向けで、楽しいだけで終わらない。
無抵抗では自由を守ることができなくなったとき、どうすることができるのか?
本を焼く国はいずれ人を焼くのだ!!!
そんなイヤな世の中になったらイヤだなあ。ほんとにイヤだ!!!
自我認める本好きの私には自殺を強要されたのと同然の世界であるが、それでも楽しくは読めたし、率直に面白かった。
未来のため、未来に残すために本や資料を命を張って守っている図書隊員…カッコいいじゃないか!!
図書館司書の勉強をした人はもちろん、図書館を愛する人たち、読書が大好きな人たちにオススメ。
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6位
鴨川ホルモー (角川文庫) (2012/10/01) 万城目 学 商品詳細を見る |
このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ--謎の部活動「ホルモー」に誘われるイカキョー学生たちの恋と成長を描く超級エンタテインメント!!
もう表紙を見ただけでも、うふふと笑ってしまう。
京大出身の作者による、京大生を主人公とする、京都が舞台の物語。
葵祭のバイトに始まり、祇園祭を経て、気づけば吉田神社で奉納舞。十人の大学生が集められて挑まされるのは、大学対抗のある競技。対戦するは、京大青竜会、京産大玄武組、立命館白虎隊、龍大フェニックスの4チーム。野球でもなければ、ラグビーでもない。さて、ホルモーとはなんぞや?
この小説を手に取ったら、たぶん、頭の中で確認してしまうだろう。
この「ホルモー」という響き。何のことだろう?と興味をひかれる。
「ホルモー」とは、「オニ」を使って戦う競技のことだ。
舞台は、京都。
京都大学に入学したばかりの俺、「安倍」が主人公。
いきなり、怪しげなサークルに勧誘され、「オニ」の使い方を伝授されていく。
そして、京都にある大学対抗競技「ホルモー」に参戦することになる。
ホルモーがなにゆえ始まり、続くのか? 主人公達は謎の起源に迫るのでもなく、謎の解体を図るのでもなく、巻き込まれて、盛り上がる盛り上がる。訳がわからなくても、わからないままに、続いていくもの…。
ホルモー自体が一つのお祭りのようなものである。伝統は続けることに意義がある、的な奇想天外な設定に、片思いの繊細な男心の描写、リアルな生活感。妙な迫力と勢いにのまれて一気に読んだ。
物語の「オニ」の使い方を伝授されていく過程は、「オニ」の存在が浮いている感じがして、「マンガみたいだなぁ」という印象が強かった。
しかし、サークルのメンバー同士の人間関係、恋愛模様が色濃く描かれだす後半部分は、「オニ」について、「まあ、こういう存在があってもいいかぁ」と思えてきた。
青春の思い出となるような出会い、出来事。誰にでも似たような経験があるだろう。
そこに「オニ」を使った「ホルモー」を、スパイスに使っている。
大学卒業から時間が経っている人は、読み終わった後に、懐かしく、爽やかな気持ちになれるのだろう。
とにかく深くは考えないで、ただただ学生気分に戻りつつ、笑いながら世界を楽しむのがお勧めな一冊。
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7位
ミーナの行進 (2006/04/22) 小川 洋子 商品詳細を見る |
美しくてか弱くて、本を愛したミーナ。
あなたとの思い出は、損なわれることがない――
懐かしい時代に育まれた、二人の少女と、家族の物語
主人公といとこのミーナがともに暮らした一年間。
二人の少女の成長、それを温かく見守る家族の姿をユーモラスに描く、伸びやかで質の良い成長物語です。
全編があたたかい光に包まれているような幸福と安心に満ちています。
「ミーナの行進」というタイトルの意味がわかった時にはミーナの確かな成長に私までもが誇らしい気持ちになりました。
「全員揃っている。大丈夫。誰も欠けていない」
このせりふは、主人公の朋子がいつもはこころがそれぞれのところへいってしまっている親友ミーナの家族が揃って海水浴へいった貴重な幸福すぎたある夏の日の写真をみてつぶやく言葉です。
小川洋子さん独特の世界が静かに柔らかに展開されるなかで、この言葉でもう切なくてたまらなくなってしまいます。
その愛おしさを思うと、この朋子の大丈夫、と言った言葉が本当に自分の胸に本当に響くのです。
子供の頃に、いろいろへんてこだったことが実は当たり前のことだったり、普通だったことがとても贅沢なことだったりしたことに思いが巡る、これまでに最も心に静かにそっと深く深く響いた作品の一つです。
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8位
陰日向に咲く (2006/01) 劇団ひとり 商品詳細を見る |
ホームレスを夢見る会社員。
売れないアイドルを一途に応援する青年。
合コンで知り合った男に遊ばれる女子大生。
老婆に詐欺を働く借金まみれのギャンブラー。
場末の舞台に立つお笑いコンビ。
彼らの陽のあたらない人生に、時にひとすじの光が差す―。
不器用に生きる人々をユーモア溢れる筆致で描き、高い評価を獲得した感動の小説デヴュー作。
芸人「劇団ひとり」が書き下ろした話題の短編集。
ホームレスに憧れ、数ヶ月間実際になってしまうサラリーマン、アイドルおたく、少しピントのずれたフリーターの女の子、ギャンブルで借金まみれになり、首がまわらなくなった男、家出して浅草のストリップ劇場の下働きをしていて、売れないお笑い芸人とコンビを組む女の子・・・。
こんな、人生を落ちこぼれ寸前ながらも、大真面目に一生懸命生きる人々を描いている。
彼ら彼女らを見る「劇団ひとり」の目は限りなく真っ直ぐで優しい。
また彼のコントを彷彿させるようなオチも各編に見られる。
劇団ひとりさんの舞台の脚本とかを読んだことはないのですが、読書をする人ならおそらく「作者 劇団ひとり」という名前を隠されたとしても、文章だけを編み出して来た小説家が書いた文章でないとわかるのではないでしょうか。
本多劇場でお芝居を見たあとのような余韻が残ります。
本書は、誰にでも書けそうで、実は「劇団ひとり」にしか書けない小説であります。
映画以上に実に面白かった!
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9位
失われた町 (2006/11/24) 三崎 亜記 商品詳細を見る |
ある日突然、大切な人が「消滅」したら?
30年に一度、突然一つの町の住民が跡形もなく「消滅」する世界。
大切な人を失った人々の思いは?「消滅」との戦いの行方は?
驚異の新人・三崎亜記が贈る待望の最新長編、「町」シリーズ第2弾!!
全体を通して「ひとつの町が失われてから次の町が失われるまでの期間に、それを止めようとする者たちの覚悟と葛藤、挑戦」というお話だと理解出来たのですが、ただ設定が設定だけに深く入り込むのは難しい小説でした。
非常に壮大な世界が描かれていて、その世界観や設定のアイデアはすばらしいのですが、しかし、登場人物の心情の描かれ方、特に女性の心理の描き方は漫画に出てくるような「女の子」という感じで私は正直、登場人物には共感ができぬまま(特に茜)読み終えてしまった。
文学として読むには、SF的異世界の構築に力点がズレている感じだし、エンターテインメントとして読むには、どうにも尻切れトンボな終わり方でフラストレーションを覚えてしまう…。
うーん、SFを読み慣れない人には最初はちょっと辛いかも知れない万人受けしないカンジが映画で例えたら「アベンジャーズ」的な本だと思う。 ただ、各章のタイトルは秀逸で言葉選びに絵センスを感じさせ、装丁も洒落ているので、もし興味を持って購入される場合は是非とも店頭でビニールのカバーをめくっていただきたい本ではあります。
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10位
名もなき毒 (2006/08) 宮部 みゆき 商品詳細を見る |
ほのぼのとした家族の物語と思いきや、突然の不幸、家族の崩壊、そして時間を掛けて家族が一つになっていく様子がとても面白かったです。
兄弟が子どもだった時の遊び方や、その時々の心情が、自分の子どもの頃と重なって、懐かしかったこともありました。
スタイルの良かったお母さんが、悲しみに為にどんどん太ってしまうところが、泣けました。
一番心に残っているのは、幼い薫と一が公園で老人に出会うところ。
老人はこう言います。
「この世界のものは全部誰かのもので、全部誰のものでもない」
これは、直木賞候補となった「ふくわらい」のラストシーンにも通じるテーマだと思います。
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Playback 2007
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第4回目となる2007年本屋大賞は2006年11月1日から一次投票を開始。
779人もの書店員がエントリーし、一次投票には全国317書店より405人の投票がありました。
前回に比べ、エントリー数で254人、一次投票者数で37人増えました。
投票の結果、佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』が第一位となり、「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本 2007年本屋大賞」に選ばれました。
1位と2位の得点差は20・5点よわずかだった。