今回はちょっと長いブログだが、先週土曜日の午後、慶応大三田校舎で東京SVPの例会があり出かけてみた。テーマは表題のNPO学校設立資金集めの会合だった。


学校設立とはNPO龍の子学園が、来春学校法人明晴学園に改組し、新ツールによるろう学校をつくるが、そのための設立資金を夏までに4500万円集めなくてはいけないがその会合だった。資金は三分の二までめどがたち、あともうひと息である。


龍の子学園のサイト にはこう書かれている。
『自分たちの手で、夢の学校をつくる!

日本で初めて「手話」と「書記日本語」の「バイリンガルろう教育」を行うNPOろう学校が東京都内に誕生しようとしています。

「私たちろう者の言葉は日本手話!クチパクや身振りではなく、手話で授業をして欲しい」 こんな当たり前の希望が、日本では70年以上もの間、かなえられることはありませんでした。

そしてついに、ろうの青年たちとろう児の親たちが「自分たちの手で学校を創る!」と立ち上がりました。

全国に先駆けて「構造改革特区:研究開発学校」の制度を利用したNPO設置の私立ろう学校設立がようやく現実のものになろうとしているのです。まず、7月末までに4500万円の寄附が必要です。 どうか、みなさん「ぼくたちの未来を応援してください!』


私はこの活動には縁があった。4~5年前に東京財団でやった社会起業セミナーのあとの立食パーティでこの活動を主導している玉田夫妻と会った。


玉田さんは新しい手法のろう教育を広げるために龍の子学園をつくり任意で活動をやっていたが、その先に進むために東京財団の会長をやっていた日下公人さんに相談したが、「町田さんが社会起業の研究をやっているよ、彼に相談したら」とすすめられて相談したいといってきた。


そのとき何が問題か聞いたところ、任意活動をNPOにしたらいいのか、それとも別のやり方があるのかどうかあった。当時は社会起業を提唱して数年たったときだったので、似た質問をいろんなところで何度も受けたことがある。


どれにも共通していたことは、本人たちは気づいていないが社会起業の活動を自然にやっており、関係者の間だけに潜行してるので他人は気づかない、そのために支援の手が広がって行かない、社会は待望してるのに速やかに広がって行かないという欠点がある点だった。そこで「速やかに見える姿にすることです」と回答した。


玉田夫妻はすぐNPOの申請をしNPOを設立したが、といって学校法人までみるまに進んだのではない。以後数年、「新しいろう教育」というコンセプトを広げるためにいろんな所でうったえてきたが、この冬東京都の教育特区に認証されて、来春に学校設立のめどが見えてきた。


玉田夫妻は構造改革の教育特区に何度もチャレンジしたが、校舎や校庭がないなどナングセをつけられて跳ね返させられてきた。それにもめげずにうったえ続けててきたが、あるとき都庁の市民公聴会が品川であり石原知事が出席していたが、ここでうったえたところ知事の関心を引き行政のレールに乗っかって特区が認証になった。


前例のない斬新なことがたどらなければいけないコースをたどったのだが、そんな暗闇をなんとか突破したのである。


私はろう教育の専門家でないので今もってわからないところがあるが、玉田夫妻に習った「新しいろう教育」とは私流にいうとこうである。ろう教育は明治時代に古河太四郎が開発したもので以後70年以上続いている。この話は私の「社会起業家」(PHP新書)に書いてあるが、京都の有名な家塾の子供に生まれ、東京遷都のあと衰退した京都の再興を教育産業を起こすことによって果たそうと考えた「行動派のつっぱり青年」で、やりすぎて投獄されたこともあったが、古河が開発したろう教育が現在でも主流を占めている「口話法」である。


口話法は口の動きで言葉を理解し、それを模して発音する。しかし、口の動きが見えない遠いところとはできず、無理なことを強いるので伝達力や表現力がいまいちである。


対して龍の子学園が広めようとしてるのが「手話法」である。手話はずいぶん広がってきているが、これを教育のツールにする。数年前に東大の脳科学の先生が「手話」は脳の言語野を使っていることを発見し、今では「これは言語だ」となってるが、英語教育と同じように手話言語で教育をやるのが新しい学校のコアコンセプトである。


ところが難題がある。長く口話法でやってきたのでその関係者が多く、手話法の教育が普及すると陳腐化してしまう。私は玉田さんに誘われて何度かろう教育の会合に出たことがあるが、既存勢力が陳腐化する大問題、これは現在の日本のいたる所で観察できることであるが、があることに気づき、玉田夫妻はえらいことに乗り出しているんだ、社会にイノベーションを起こそうとしてるんだ、ほんものの社会起業だと思ったのである。


来年度から新公益法人法が施行されるがこれは明治民法を変える話(公益国家独占をやめて市民に開放すること)で、今問題になっている離婚後300日内に生まれた子供は。。。も明治民法を変える話である。明治以来の慣行を刷新する点では同じ流れの話である。イノベーションと聞くと、アマゾン、eベイ、グーグル、ユーチュブ、トロン。。。を思い出すが、手話法教育も同格のイノベーションである。


トロンを開発した坂村健東大教授はソーシャル・イノベーションを唱えてるが、トロンが普及するには社会の制度が変らなくては実現しない、そこで技術革新とパラレルに制度が変ることをさしている。坂村教授はその必要性を叫んでいるが、法律や制度が変ることもイノベーションである。


私は手話教育法の話を知るにつれ、これはソーシャル・イノベーションの好例だと考えた。そんなわけで玉田夫妻が始めた龍の子学園に注目して欲しいと思う。


さらに資金に余裕がある人は寄付をし、それ以外でもいろんな支援をして欲しいと願っている。ファンドレイズ、学校経営、マーケティング、会計。。。企業経営では当たり前のことになっている分野の専門家が龍の子学園に結集できたらいいと思う。


その第一歩としてまず龍の子学園のサイトにアプローチし、知ることからはじめて欲しい。見えないところで、希望のある変化がいろんな所で起こりはじめているんだから。