《32の径路》という基本設定 | ■朽ち果てた館■

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ARIONの預言解読──音楽に載せて

一般に、カバラの最古の文献とされるのは、『セフェル・イェツィラー』である。(※『創造の書』、『形成の書』と訳される)
その成立年代について確たる証拠は無く、3世紀から6世紀の成立とされるが、
イスラム文化の影響を受け、9世紀に成立したとする説も存する。いずれにせよ、
『セフェル・イェツィラー』の場合は、22個のアレフベートを三層構造で捉えている。

  ・三つの母なる文字………【A】、【M】、【Σ】
  ・七つの重複する文字……【B】、【G】、【D】、【K】、【P】、【R】、【十】(→七曜に対応)
  ・十二の単純な文字………【H】、【W】、【Z】、【X】、【Θ】、【Y】、【L】、【N】、【S】、【O】、【T】、【Q】(→十二宮に対応)

併し、GD流のカバラでは、それ程、この三層構造は重視されず、10個のセフィロトを結ぶ、
22本の径(パス)に、言わば上から順番に、22個の文字(アレフベート)を配当する。たぶん、(※通常の順番で)
此の「22本の径(パス)に、22個の文字(アレフベート)を配当する」というアイデアに関しては、
先例が無い。GD流のオリジナル・アイデアと思われる。最も面白い部分として評価されてよい。

*   *   *

ところで、GD流のカバラでは、Semiticで一般的な文字の数価(A=1、B=2、G=3、……)とは別に、
径(パス)の番号を設定している。此の点は、特筆しておきたい。というのは、実は、径(パス)の番号を、
九進法で捉え直す(11→2、12→3、13→4、……)と、その数価こそが、件のSyriac Bibleのゲマトリアの、
計算のベースとなる数価に他ならないからである。全く注目されていないが、この径番号が、重要なのだ。

  ・【A】径番号11、アレフ(ケテル → コクマー)魔術師    ※より一般的には「愚者」を配当
  ・【B】径番号12、ベート (ケテル → ビナー)女教皇     ※より一般的には「魔術師」を配当
  ・【G】径番号13、ギメル(ケテル → ティファレト)女帝          (以下略)
  ・【D】径番号14、ダレット (コクマー → ビナー)皇帝
  ・【H】径番号15、ヘー (コクマー → ティファレト)教皇
  ・【W】径番号16、ヴァヴ (コクマー → ケセド)恋人
  ・【Z】径番号17、ザイン (ビナー → ティファレト)戦車
  ・【X】径番号18、ヘット (ビナー → ゲブラー)力
  ・【Θ】径番号19、テット (ケセド → ゲブラー)隠者
  ・【Y】径番号20、ヨッド (ケセド → ティファレト)運命の輪
  ・【K】径番号21、カフ (ケセド → ネツァク)正義
  ・【L】径番号22、ラメド (ゲブラー → ティファレト)吊るされた男
  ・【M】径番号23、メム (ゲブラー → ホド)死神
  ・【N】径番号24、ヌン (ティファレト → ネツァク)節制
  ・【S】径番号25、サメフ (ティファレト → イェソド)悪魔
  ・【O】径番号26、アイン (ティファレト → ホド)塔
  ・【P】径番号27、ペー (ネツァク → ホド)星
  ・【T】径番号28、ツァディー (ネツァク → イェソド)月
  ・【Q】径番号29、コフ (ネツァク → マルクト)太陽
  ・【R】径番号30、レーシュ (ホド → イェソド)審判
  ・【Σ】径番号31、シン (ホド → マルクト)世界
  ・【十】径番号32、タヴ (イェソド → マルクト)愚者

実は、この径番号の設定そのものは、もともと『セフェル・イェツィラー』の記述に基づく。
その第一章の冒頭、「律1-1」は、「聖なる知恵の32の径路によって」云々と始まる。且つ、(※箱崎総一氏による訳)
これに続く「律1-2」は、「そこには無形の10のセフィロトおよび基礎となる22の文字がある。
そのうち三つは母なる文字であり、七つは重複し、十二の文字は単音である
」となっている。

>  三十二の「知恵の径」から成る「生命の樹」では、十のセフィロトは主要な「径」でありその照応物は最
>重要である枝と見なされており、二十二の文字である下位の「径」はセフィロトを連結し、様々な数字に
>帰せられる観念を調和し、平衡している。(…以下略…)
(※イスラエル・リガルディー『柘榴の園』70頁より、改行位置は変更)

つまり、『セフェル・イェツィラー』は、その冒頭で《32の径路》というフレームを明確に打ち出している。
当然この点を踏まえ、GD流を代表する一人であるイスラエル・リガルディーも、『柘榴の園』の第四章、
「径」(パス)を解説する段で、上記引用の通り、“32の「知恵の径」”という表現を使用している。もちろん、
これは『セフェル・イェツィラー』の「律1-1」冒頭の“聖なる知恵の32の径路”という表現を踏襲するものだ。

#何が言いたいかというと、カバラの最古の文献は、その成立が何時であれ、
#先ず最初に、《32の径路》という大枠組を提示するところから話を始めている。
#この事実である。言わば当初から、カバラは、「A=11、B=12、G=13、……」、
#という初期値の設定をしている。これは、実はGDが始めたことではないのである。
#但しイスラエル・リガルディーの著作を見ても、この径番号は、まったく無視される。(※「特に解説が無い」の意)
#本来、カバラの基本は《32の径路》という大枠組に在ったはずである…そう言いたい。