183 スルプスンドゥウ | Κύριε ἐλέησον -Die Weltgeschichte-

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183
[スルプスンドゥウ]

   ―――1364年。

  ――――ハンガリー王国首都ブダ。

「くそっ!」

国王ラヨシュは書簡を乱暴に置きました。
家臣たちは緊張した面持ちで王を見つめていました。

「結局西方諸国にとって、オスマンは対岸の火事なのだ!」

    「………、すると………。」

「援軍は来ぬ!
 東国は団結せよとお達しが来たのみだ!」

家臣たちは口を噤んでしまいました。

 アドリアノポリス(エディルネ)が占領された2年前、
西方教会の新ローマ教皇ウルバヌス5世は十字軍結成を呼び掛けました。
しかし、西方諸国からの大きな反応はありません。
西方諸国では、
カスティリア(ペドロ派)及びポルトガルとアラゴン、
イングランドとフランス、
神聖ローマ帝国とオーストリア、
シチリアとナポリ、
ジェノヴァとヴェネツィアなどなど、それぞれで戦争中。
東国へ軍を送る余裕は全くありませんでした。
昨秋にプロヴディフが陥落するという大事件後の現在でも、
西方の回答は同じでした。

    「やはり我々でなんとかせねばならないのでしょうか……。」

「くっ。」

ラヨシュは歯を食いしばりました。
東方諸国は都市開発も西方に比べれば遅れがちで、人口も少なめ。
街道の整備も遅れていれば、国と国の連携も遅れがちになります。
それでも、ハンガリーやセルビアはこの数十年で大きく発展し整えられてきました。
しかし、国中の都市の隅々にまで情報が行き渡るなんて事は不可能。
スラヴ人社会の複雑な状況では、連携などとても難しい問題でした。
故に、より社会の発展している西方へと協力を呼び掛けたのです。
400年前とは時代が違う。
聖地奪還という雲上のような目的では無く、
現実的に自分達の土地を護る事を目的とした十字軍。
東方教会と西方教会の協力こそが、ムスリムに勝つ手段………。
にも関わらず―――――………。

            「ラヨシュ陛下っ!
             良き報せです!!」

突然兵士の報告がありました。

            「セルビア皇母陛下からの報せです!
             ウロシュ5世皇帝とヴカシンが和解!
             セラエ公と協力体制を敷く事になりました!」

「おお………、セルビアが、まとまったか………。」

家臣たちは低く歓声をあげました。
ラヨシュは、一瞬胸を撫で下ろしますが、
それも束の間、直ぐに真剣な表情に戻りました。

「よし!直ぐにデブルツへ遣いを!
 オスマン軍の侵略の状況を詳しく聞き出してくれ!
 そして私の言葉を伝えるのだ!
 必要あらば私自ら軍を率い、侵略者に立ち向かうと!」

  ―――――……‥‥・・

    ―――――……‥‥・・

   ―――――……‥‥・・・‥‥……―――――

 ―――セルビア帝国首都デブルツ。

セラエ公ヨヴァン・ウグリェシャが宣言しました。

「ローマ教皇ウルバヌス5世聖下より、激励の言葉を賜った!
 セルビア、ハンガリー、ボスニア、ブルガリア、ワラキアは、
 協力して東ローマ帝国を救済し、
 オスマン帝国を我々の世界から一掃せよ!
 アドリアノポリスを奪還せよと!!
 ウロシュ5世皇帝陛下は、
 マケドニア・プリレプの僭主である我が兄、
 ヴカシン・ムルニャヴチェヴィチとも手を取り合う事が出来、
 セルビアは一つとなる事が出来た!!
 オスマンの足が止まった今!
 未だアドリアノポリスの建造の最中である今は、
 その足を払う好機である!
 バルカン諸国は共に団結して戦おう!!!!」

裏若きウグリェシャの演説に、セルビアの国民が歓声をあげました。

    「ウグリェシャよ、頼もしいぞ。
     其方のお陰でマケドニアと和解する事が出来た。
     軍は、ウグリェシャとヴカシンに任せた。
     セルビアの……、いや、
     同胞の力となるのだ!」

皇帝ウロシュ5世は力強く宣言しましたが、
国民の感心はやはりウグリェシャに向けられたままでした。

 軍はセルビア帝国を中心に組織される事になりました。
これに、ハンガリー国王ラヨシュがバックアップ。
ブルガリア、ワラキア、ボスニアからも兵士が集いました。

   ・・・‥‥……―――――


 ………―――首脳らが出揃いました。

「オスマン軍は、プロヴディフを占拠したあとは、
 進軍を停止しています。
 今は、アドリアノポリスで新たな都市建築をしているそうです。」

  「交通網の要所プロヴディフを防衛線にし、
   拠点はアドリアノポリスってとこだな。」

この数年で力をつけたオスマン皇帝ムラト。
東トラキアを一気に勝ち進めた後は、進軍を停止していました。
それを、今のうちに叩いてしまおうという魂胆です。

      「聞くところによると、
       いまアドリアノポリスには注意すべく将軍が居ないと?」

ラヨシュが問うと、ウグリェシャが続けます。

「いない訳ではありませんが、
 最も危険視するシャヒーン・パシャという将軍が不在という話ですね?」

  「あぁ、そうだ。
   シャヒーン軍は兼ねてより軍事拠点としていたチャナッカレに戻り、
   皇帝ムラトも現在は首都のブルサに戻っている。
   アドリアノポリスに駐屯しているのは、
   ハジ・イル・ベイのみという事だ。」

「一軍のみならば、いけるという話ですね。」

  「ああ。攻め込むならば、いまが絶好期だ。」

      「その、ハジ、という人物、
       そのように楽観視してよいのですか?」

「まさか。楽観視はしていません。
 だからこそこれだけの兵を集めたのです。
 各国兵士達の士気も上がっています。」

  「そう。勢いのある今なら、大丈夫だ。」

二人の信念は固い。

      「ウグリェシャ殿、ヴカシン殿、
       ご両名が確かだというのであれば、信用しましょう。
       我々は全て合わせれば6万近い兵数がある。
       これだけの軍勢であれ、勝機も見える。」

  「ふはは、ラヨシュ殿っ!
   兵数ではありませんぞ!
   我々セルビアとハンガリーだけでなく、
   今やバルカン諸国は一つに纏まった!」

「そうです。
 今の我々には確かに神のご加護があります。
 異教国を退けるのは、今しかありません!」

二人の真剣な眼差しに、ラヨシュは頷きました。
だが、セルビアの首脳はまとまったのかも知れないが、
その民は?兵士は?
周辺各国の民の心は………?
しかし今は彼等の言葉は信じるしかありません。
信じたいという気持ちを―――。

 敵オスマン帝国軍の殆どはアナトリアに戻っていました。
ハジ・イル・ベイ軍のみがアドリアノポリス(エディルネ)に駐軍し、
都市開発を進めていました。
現在は陥落したプロヴディフ及びアドリアノポリスまでの途上の街には殆ど兵を置かず、
守備は甘い状態にありました。

3万から6万のバルカン連合軍は晩冬、南から進軍しました。
西トラキアを北上し、アドリアノポリスを目指していました。

森を抜けると、眼前に川が流れていました。

「到着です。ここはマリツァ川です。
 ギリシア語ではエヴロス川と言います。」

  「この川を真っ直ぐ東へ下っていけばアドリアノポリスだ。
   左岸支流のトゥンジャ川との合流地点の東にある。」

周辺地図に書き込みを入れながらこれからのルートを説明します。

  「このまま川を下る訳にはいかない。
   あっちに行けば当然守備は硬くなるからな。
   だから、まずはこのマリツァ川を渡り、
   まだ奴らが全く着手していない北のトゥンジャ川方面から奇襲をかける。」

マリツァ川を下から上へ右カーブを描きながらトゥンジャ川まで線を描く。
行き着いた村の名前は。

  「サラヤクプナル………。」

「この村が、目標地ですね。」

一同が頷きました。
「よしっ」と言ってそれぞれ再び馬に跨ると、
休憩していた兵士達も一斉に、しかし音も立てず立ち上がりました。

静かに川を渡り始めた6万の大軍。
オスマン軍の抵抗に遭う事なく渡河し、北上しました。

 ―――……‥‥・・・‥‥……―――

アドリアノポリスの北西約12km、
サラヤクプナル村に着いたのは夜中―――、

    ―――よしっ!やっと一休みだぁ~―――
    ―――腹減ったなー!飯の時間だっ!―――

兵士達の動きを見届けると、ウグリェシャも一息つきました。

「ここで休憩だな。」

  「ここまで、全く気付かれている様子は無いな。」

「相手は一万程だと言います。
 今はまだ冬、人手を削減しているのでしょう。
 さぁ、一晩歩いてきて皆も疲れています。
 食事の支度をしましょう。」

  「では、俺の隊は柵の準備だな。」

「いや、待ってください。
 ここに長居するつもりはないんです。
 今は、早々に食事休憩を済ませ、
 直ぐに出発できるようにしましょう。
 兵士達の士気はまだ充分に高い。
 時間は掛けずに、
 今すぐ一睡し、直ぐに動き出したいです。
 夜明け前に到着し、奇襲を掛けたいのです。」

ヴカシンは、迷いました。
ラヨシュも考え込む表情でした。

    「普通ならば防衛柵を造営したいところだが……、
     確かに、ウグリェシャの言うことも尤も。
     ここで時間を掛けてしまうと、夜が明けてしまう。
     すると我々の行軍に気付いてしまうかもな。」

  「よし、乗った!
   攻撃するのは今しか無いという事だな!
   アドリアノポリスはもう目の前だ。
   気付かれてからでは遅い。
   今は少しでも早く動ける体制を作っておく事が必要ってわけだ!」

「決まりですね。
 では、皆、一斉に休憩をとりましょう。
 3時間後には再度移動できるように!」

  ―――……‥‥・・・‥‥……―――

 ……―――ラヨシュは自軍に戻ってきました。

    「………という事で、今すぐ食事などを済ませ、
     済み次第、防衛態勢で待機する事。」

        ―――承知!―――

    命令し終わると、自分も椅子に腰掛けました。
    パンを齧り、水筒から酒を少し飲むと、
    直ぐに武器の確認を始めました―――……‥‥・・

数万のセルビア兵士達は、
その場で休息を取ることになりました。
食事の支度が始まると、
皆伸びをしたりして、体を癒していました。

  ‥‥……―――その様子を、
        否、
        もう何時間も前から、
        軍の様子を見届けている人物がいるとは、
        誰一人として気が付いていませんでした―――……‥‥

   ―――――……‥‥・・・

  ―――――……‥‥・・・

       「相手は6万はいるという話ですよ?!」
       「ハジ閣下……!
        援軍を待ちましょう!」
       「あまりに兵数差がありすぎます!!」

ハジ・イル・ベイは思い切り立ち上がりました。

「おぬしら!何を腑抜けた事を言っているのだ!!
 セルビアの連合軍は完全に油断しきっているのだ!
 何の対策もしていない奴らに負けると思っているのか!
 もたもたしていたら再び武装してしまうに違いない!」

………そうだ!援軍など待つ訳には行かぬのだ!
   またエウレノスや、シャヒーンの手助けを借りるなど言語道断!!
   これは俺の賭けだ……!
   勝たなければいけないのだ!!!!
   でなければ死あるのみ!!………

「いいな!!直ちに出立だ!!
 セルビア人連合軍を叩きのめすのだ!!!!!」

ハジは少ない兵士に向けて檄を飛ばしました。
真夜中、ハジ・イル・ベイ軍が、
援軍を待たずして僅か1万、北上し始めました。

 ―――……‥‥・・

そんなオスマン軍の動きなど梅雨知らず、
バルカン連合軍は夜食を摂っていました。
相手の兵数がごく少数であるという話も耳にしており、
兵士達は余裕でいました。

   ―――これだけの大軍!そして神のご加護!―――
   ―――わいらが力を合わせれば、異教軍などちょろいちょろい!!―――
   ―――よーしっ!前祝いだ!―――
   ―――貴重な酒だ!遠慮しろよ!―――
   ―――あんまりハメを外すなよ~!―――
   ―――呑め呑め~………ん?―――
   ―――………?なんだ?―――
   ―――何か……。この辺は狼でも出るのか?―――
   ―――え?まさか。ん?―――

気配に気が付いた時には、既に遅い。
無数の弓矢が彼等の体を突き破っていました。

    「奇襲だ!!!!」

      「やられたっ!!!!」

        「お、おい、俺の剣はどこやった……?!」

駐屯地の周囲、至る所から敵軍の掛け声が聴こえてきます。
太鼓の独特な高音が鳴り響き、不安を掻き立てるような笛の音。

        「ぐゃっ!」「なんだなんだ?!?!」
      「敵兵はどんだけいるんだよっ?!」

暗闇で周りの状況は掴めません。
ただ分かる事は、奇襲をされた自分達は、完全に不利であるという事―――。

       「ぎゃぁぁ!」「何が起きている?!」
          「痛っ…!ぶつかるなよ!」
        「逃げなきゃ殺されるぞ!」
        「や!!やってられるか!!!」
      「無理だぁぁ!!」「逃げろぉぉ!」

兵士達は次から次へと逃げ出していきました。
抜け道は複数用意されていました。

      「あっちだ!!」
       「おいっ!向こうなら敵兵が居ないぞ!」
       「よし、走れっっ!」
        「ぐぁっ……!」「ぎゃぁぁっ……」

その後は悲鳴だけが残りました。
もちろん、それは罠なのです。

   ・・‥‥……―――……‥‥・・

ヴカシンは敵を一刀両断しました。

  「ちっ!!やられたか……!
   だから柵を作れと………!」

真っ暗の中で戦いの音が響き渡る。
しかしそれよりも大きなのは、
明らかに自軍兵の慌てる声と、周囲の太鼓の音。

兵士達は、自分にぶつかりながらもどんどん逃げ出して行っていました。
その時、掻き分けて走ってやってきたのは、ラヨシュでした。

    「ヴカシン殿っ!やっと見つけた!」

  「ラヨシュ殿!無事か!」

    「兵士達はもう使い物にならない。
     ここは潔く………」

  「ああ、分かってる!退くぞ!」

    「ウグリェシャ殿は!?」

  「わからん!
   あいつは無茶をしかねない!
   早くウグリェシャを探さねばな……!」

二人は頷くと駆け出しました。

戦場は混乱していました。
実際は、逃げだす連合軍の兵士達を、
その先で敵兵が迎え討っているだけの状態。

「戻るのだ!戦え!!!」

すると、何かの踏み台の上で叫んでいるウグリェシャの姿を発見しました。

  「撤退だ!!ウグリェシャ!!」

そう言いながらヴカシンはウグリェシャに体当たりして、
倒れ込みます。

「兄上っ!何を!」

  「撤退するぞ!」

「何故です!!これは勝てる戦いだったんです!」

  「ああっ、そうかも知れねぇ!
   だが!!これじゃぁもう無理だ!!
   さっさと逃げるぞ!!」

「兄上……っ!!!
 くっ……、私が奇襲を計算に入れていれば………!」

  「今更言っても仕方ない事だ!!
   とにかくこの場から脱する事が先決だ!
   復讐は、また今度考えれば良い!!!!」

「ぐっ……!」

二人の問答を見届けるラヨシュは敵の攻撃を警戒していますが、
冷静に見てみると、もう攻撃は殆ど無くなっていました。
パニックになっている兵士達からの安全を見守るだけでした。

彼等は、兵士達の流れとは全く違う方向へ移動して行きました。
その先に、敵兵が待機している事は分かりきっていたからでした―――――。

  ―――……‥‥・・・‥‥……―――

逃げ出した兵士達は南へと走ると、マリツァ川に突き当たりました。
後から後から押し寄せる兵士達に押され、彼等は川の中へと身を投じました。
流れの緩い川ですが、
パニックに陥っている彼等は、武具を脱ぎ捨てて泳ぐという考えなどなく、
対岸へと辿り着く事なく溺れていきました。
殆どの兵が溺れてしまっていたので、
対岸に待機していた少数のオスマン軍の兵士も、
渡河した兵士の対処に困ることはありませんでした。

  ・・‥‥……―――――― 

    ・・‥‥……――――――

 ―――――……‥‥・・・‥‥……―――――

      「静かな方には敵兵が居ない。
       そう思い込んで走り出した兵士達を、
       静かに待ち伏せていた敵兵が討って行く。
       周囲の喧しいのは、兵数が多いと見せかける為の罠だ。
       恐らく軍楽隊と少数の奴等が居ただけだろう。
       そういう作戦がある事くらい、
       覚え混ませておいて貰いたいものだな。」

森の中へ移動したラヨシュ達。
もう彼等は騒ぎの外に出ていました。

ウグリェシャとヴカシンは悔しさを隠し切れません。
オスマン軍は流れ作業のように戦い、
連合軍の被害は膨れ上がっていました。

   ――――――……‥‥・・・

     ――――――……‥‥・・・

    ―――――……‥‥・・・‥‥……―――――

 ―――サラヤクナプル村。ハジ陣営。

    「ハジ閣下!報告です。
     セルビア人総崩れです!」

    「やりました!作戦は成功です。」

ハジ・イル・ベイはニヤリと笑いました。

「ああ、そのようだな。
 これでウロシュも馬鹿な事は考える事は無いだろう。」

ハジ軍の兵士達が陣地へ帰還してきました。

「この戦勝、直ぐにムラト陛下に、
 そしてシャヒーンの奴に報告するのだ!」

ハジは、してやったりと笑うのでした。

この戦いでのハジ軍の死者・行方不明は凡そ1,000人。
バルカン連合軍のそれは8,000人越え。
それより何より、
愚かな程に逃げ出したセルビア人兵士の事は、
オスマン軍内でも話の種になりました。

    「ハジ閣下はマリツァ川の戦いで大勝したらしいな。」
    「見事な作戦だったと聞く。」
    「セルビア総崩れ(Sırp Sındığı)の戦いだな!」

バルカン連合軍が大敗した“マリツァ川の戦い”は、
オスマン側では、“セルビア総崩れの戦い”を意味する
Sırpsındığı Muharebesi(スルプ・スンドゥウの戦い)と呼ばれました。
この戦いでハジは、
国内でシャヒーンに負けない程の名声を得ました。
それは、シャヒーンに妬まれる程に……。

エディルネでは着々と都市建設が進められていました。
オスマン帝国によるヨーロッパ蚕食は、
まだまだ始まったばかりなのでした―――――……‥‥

   ・・‥‥……―――――

      ・・‥‥……―――――

         ・・‥‥……―――――

   ―――――……‥‥・・・‥‥……―――――

 ―――――1364年4月8日、ロンドン郊外。

  ―――――広い青空―――。

   静かな森の中。

    鷹が一羽舞う。

     「エドワード殿下ぁぁーー!!」

―――?―――

狩りの最中のエドワード黒太子は弓を下げました。
近付いて来ているのは仲間の英国騎士。

     「エドワード殿下、、ここにおられましたか…!
      直ぐに!
      直ぐに城へお戻り下さいっ!」

エドワードは、表情を固くしました。

     「ジャン2世殿が…………!」

「くっ……!」体に緊張が走りました。

エドワードは頷くと、
そのまま騎士の来た方向へ駆けて行きました。

ロンドン塔での悲しみを知らない市内では、
美しい笛の音が響き渡っていました―――――……・・