「このお客様はもうサラ金に手をつけてる」
分かっててルイヴィトンを買わせ
「あのお客様はもはや闇金に堕ちてる」
知っててドンペリ(ロゼ)をおろさた
「私のお客たちは私と付き合ってるって本気で信じ込んでんの」
留美と名乗るそのお姉さんは教えてくれる
これからあたしが立ち向かって行く事になる
本当の敵のこと
「だから分かるよね?雪菜ちゃん」
あたしは絶対に忘れない
あの時の留美さんの勢いの無い声を
切ない目を
忘れられるわけがない
『私のようになってはだめよ?』
ことの始まりはHyde常務
相変わらず男性恐怖症が爆発して
席についても一言も喋れないというとんでもない仕事っぷり
・・・・・を披露していたあたしは不意に入る意味のわからない場内指名を除き
キャバ嬢失格と断定せざるを得ない状況に置かれていた
「飯くいに行くぞ」
その癖レギュラー勤務のオーラスで入ってた
ダメなあたしについに業を煮やしたのか?
ただの気まぐれなのか?
あたしの管理を担当するHyde常務から誘いがかかる
「留美も行くか、お前らとりあえず3番で待っとけ」
ボーイさんたちが売り上げのお金を数えてる14番テーブルの真向かい
ホールの真ん中あたりにある3番テーブルにHyde常務管理のキャストが2人
ナンバー常連の留美さんと新人のあたし
「お疲れ様です」
「お疲れ様、ほんとに疲れた顔してる!」
「留美さんもさっきまでの元気ないじゃないですか」
胸のあたりまでなびかせる派手さのないロングストレートの黒髪に
隠れたり隠れなかったりしてる大きな目の矛先をあたしに向けて
決して高くはないけど細くて長い綺麗な鼻の下
短い間隔をとってついてる、ふくよかな唇
女のあたしでもうっとりする留美さんは
一体どれだけの男の人に求められて来たのかな
でもその唇を使った次の言葉は予想外のものだった
「問題児が2人残されたね」
ヽ(。・∀・*)ノ?
2人?
あたしはどう考えても問題児だけど
留美さんの何が問題児なの?
今日も留美さんの席に何度かついたけど
留美さんにしか出せない色気と切り返しに
あたしもそうありたいと願わずにはいられなかったのに
「ゆきちゃんはどうしてキャバ嬢になったの?」
今から食事に行く同じHyde常務管理で新人のあたしに
完全にオフモードになった留美さんはまるで
ペットに語りかけるかのように話しかけて来る
「あたしは。。。えっと。。。」
土曜の営業終わりのあまりの疲労感にうまく言葉を紡げないでいると
留美さん持ち前の洞察力でサクッと察し
そのまま話を続けてくれた
「私はねぇ、最初は小遣い稼ぎに週2で入ったんだけどね」
人間の心理の裏側を見抜く術に長け
お客さんの男心を先読みして手玉に取ることが出来た留美さんは
週2出勤の初月で昼の仕事と同じお金を稼いだそう
「こんな楽な仕事があんのかと思ってね」
昼の仕事をやめて夜一本に絞りナンバー2を獲得
以来ずっとそれをキープしていたけれど
ここに来て陰りが見え始めていると嘆く
そして留美さんは自分が夜1本に絞った理由を
誘惑に負けたと表現し
自身の営業スタイルを次のように定義した
色恋営業
同棲するための住居を探すため
一緒に不動産屋を巡ったお客さんと別れた直後に
いつ結婚しようかを真剣に話し合ってる
別のお客さんと指輪を見に行く約束をする
もちろん同棲なんかするわけないし
指輪は買ってもらうけど
結婚とかふざけんな?
「最後の一滴を絞るために稀にだけどイッパツ寝てやることもあるわ」
めちゃくちゃしてるこの人+。・△・;;
そう言えば他のお姉さん達がどんな営業をしてるのか
あたしは全然しらなかった
お店で喋ってメールして来店を促すってだけじゃないのは分かってたけど
そこまでするもんなの?
でもそこまでの営業も意外と当たり前に
やってる人は全然やってるという事実も
この時のあたしはまだ知らない
「必ず切れる客を切れるまでの間に引っ張れるだけ引っ張んの」
「気が滅入りそうです」
「でも私にはこれしか出来ないからね」
「・・・・・・・・・」
あたしにはむり
道徳観から奇麗事を言ってるんじゃない
能力的に出来ない
男心を手玉に取る?冗談でしょ?
あたしは男が怖くてしょうがない
手玉に取られることはあっても取れることはなさそうだよ
でももし留美さんの言うことが夜の世界の全てなら
。。。。。どうしたらいいの??
留美さんの話に悩んでいるとHyde常務がやってきた
「行くか」
ちょっと雨が降りそうだった午前5時
Hyde常務、留美さん、あたしの3人は
日の光に照らされながら
高級キャバクラグレイを後にする
少し歩くと朝の宗右衛門長にぱらぱらと雨が降り始め
傘を持ってなかった3人はその小雨に打たれつつも
あたしはあたし達の心を覆う闇ごと全部
洗い流して欲しいと思ったよ。。。
だけど留美さんとあたし
2人揃って連れ出されたのに
何か意味があるのかなんて
意識さえも出来てなかった・・・・・・・
この後あたしはHyde常務の意図に感服する
続く☆