ネクタイを緩める仕草。
ジャケットを羽織る瞬間。
重い荷物を持った時に浮かび上がる腕の血管。
何気ない仕草に、ギュッと胸がしまって、ジンと子宮が疼く瞬間がある。
それはたぶん女にしかわからない感覚。
だけどそれとは逆に、男にも女にははわからない感覚がある。
男を興奮させるものが、胸や脚や裸だけなんて単純に考えてはいけない。
いったいそれのどこが?と思うような事に反応するのだから。
この話は、それらを身を持って経験した彼女達の独白である。
幸村精市の彼女の場合
あの日は、連日の残業で体が悲鳴をあげていました。
ゆっくりお風呂に使って、自然に目が開くまで眠りたい。
家に着くまでの間、そんなことばかりを考えていました。
それほどに、疲れのピークに達していた日だったのです―――――
疲れた体を引き摺りながら家路につくと、部屋の窓から明かりが漏れている事に気づいた。
あぁ、そういえば今日は金曜日か。精市が来てるんだ。
きっと私の為に料理を作って、私の帰りを待っていてくれていることだろう。
1週間振りに彼と会える事に喜びがないわけじゃない。
だけどきっとあるであろう情事の事を考えると気が重くなった。
精市と愛し合える事はとても幸せで、身も心も女としての喜びを感じさせてくれる。
しかし今日はそんな気分にはなれそうにない。
この1週間毎日残業で、私の体はボロボロだ。
今はとにかく体を休めたい。
だけど誘いを断って機嫌を損ねる事も出来ればしたくない。
あぁ、どうしよう・・・・?
しばし思案した結果、精市を刺激しないようにして、彼がお風呂に入ってる時に寝入ってしまおうと決めた。
爆睡してる私を起こしてまで迫ってはこないだろう。
作戦と呼べるほどの作戦でもないが、頭で計算をした後玄関の扉を開いた。
「ただいま。」
「お帰り。」
ふわりと暖かな微笑みに迎えられ、疲れた体がほんの少し癒される。
抱かれるのは勘弁と思っても、やはり好きな人に会えるのは嬉しいものだ。
ソファに足を伸ばしてくつろいでいた精市が、そっと腕を伸ばし私の手を引く。
私は背もたれを跨ぐように腰を屈め、精市の唇にキスを落とした。
チュッと軽く触れただけのキスに精市は不満そうだったけど、私はさり気なさを装いながらもそそくさと側を離れた。
濃厚なキスなんかでもしてその気になられたら困る。
「いい匂い。お腹ペコペコなんだよね。」
「すぐに用意するよ。」
精市がキッチンへ向かったのを確かめた後、部屋の奥にあるベッドに腰掛け「はぁ」と息をついた。
このままベッドに寝転んでしまいたいところだけど、今は我慢だ。
部屋着にも着替えたいけど、それも危険だろう。
静かな夜を過ごすためには仕方ない。
とりあえずピアスだけでも外そうと、耳たぶに手をやった。
後のキャッチを外しホールからピアスを抜き取る。
ピアスを開けた頃は着けるのも外すのも鏡を見ながらじゃないと無理だったけど、今じゃ感覚で着けたり外したりできる。
ドレッサーの上に置いたシルバーのトレイの中に、外したピアスを滑り落とした。
カランと音を立てて落ちたピアスは、昨日つけたピアスとぶつかりそのまま静止した。
もう片方のピアスも外す為耳に指を持っていった所で、じっと精市がこちらを見ていることに気づいた。
もう食事の用意が出来たのだろうか?
何も言わない精市に、どうしたの?と問うように首を傾げれば、顎に手をやりポツリと呟いた。
「ピアスを外す仕草ってエロイよね。」
「は?」
「なんだかゾクゾクするよ。」
つかつかとこちらに向かって歩いて来る精市から妖しいオーラが滲み出る。
ヤバイ。
そう思った時には私はもうベッドの上で組み敷かれていた。
「ふふ。先にこっち食べてもいい?」
「いや・・・・私お腹空いてるんだけど・・・・。」
「大丈夫。空腹なんて感じないほどに感じさせてやるから。」
その後は・・・・話すまでもありませんよね?
無駄な抵抗と知りつつも、「精市?私今日はすごく疲れててそんな気分にはなれないんだけど・・・・。」と、言ってみましたよ。
案の定精市の耳には届きませんでした。
正確に言えば、聞こえてはいるけど聞こえない振りをされたんですけどね。
精市に抱かれている間、どうして精市の前でピアスを外してしまったんだろう?と、何度も自分を責めましたよ。
まぁ、そんなことで精市を刺激するなんて思ってもいなかったんだから仕方のない事なんですけど・・・。
だってそうでしょ?
ピアスを外すだけですよ?それのどこがエロイんだか・・・・。
数人の男友達に聞いてみましたけどみんな「わからない」って言ってましたもん。
あれから精市の前でピアスは外してませんよ。
外すわけないじゃないですか。
もし外すとすれば・・・・・それは私が抱かれたいと思った時じゃないですか?
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いつもとはちょっと趣向を変えて書いてみました。
一人楽しんじゃってすみません(笑)