自分ではまったく無意識のうちにかけていた心のブレーキが、
とある事がきっかけではずれてしまったとしたら・・・・・・
ストッパーの外れた心は、どこへ走っていってしまうのか・・・?
そんなの他人にはおろか、本人でさえわからない。
ただわかるのは・・・・・・・今までと同じではいられないと言う事。
それは恋
それが恋 -前編-
夏休みだと言うのに、毎日毎日学校に来ている私と雪ちゃん。
別に部活をしているわけでも、補修があるとかそういうわけでもない。
私が学校に来る理由は、テニス部を見たいから。
正確に言うと蔵様を見たいから!!
雪ちゃんの彼氏がテニス部員だから、その付き添いって感じで毎日毎日ご一緒させてもらってる私。
そのおかげ・・・・なのか、最近じゃテニス部のみんなに顔を覚えてもらって
「毎日暑い中ご苦労なこったなぁ・・・。」
「あほちゃいます?」
「また来たん?暇人やな・・・・。」
「そう言うたりなや。ラブよんね!ラ・ブ!!」
なんて声をかけてもらえるほどになった。
ただ1日ボーっと見てるだけやけど、蔵様を見るのは飽きない。
あの笑顔を見るだけで胸がキューンとして幸せな気持ちになれる。
今日も雪ちゃんと一緒にテニス部のコートまで来ると、
コート脇で蔵様が女の子から差し入れをもらっている姿が目に入った。
「また差し入れもらってる。モテ男はすごいな・・・。」
「ほんまやな・・・・・。」
受け取りながら「ありがとう」と、笑顔を見せる蔵様。
私も差し入れしたら受け取ってくれるやろか?
あんな笑顔を見せてくれるやろか?
あぁ・・・でも間近であんな笑顔見たら鼻血出してまうかもしれんゎ・・・・。
そんな事を考えながら蔵様を見てると、友達が「あのさ・・・」と呆れた声を出した。
「ん?」
「あんたいつまでそうやってるん?」
「なにが?」
「『蔵様』とかって心にセーブかけ続けんの、いい加減やめたら?」
「セーブ?」
ポカンと友達の顔を見ると、「マジで無自覚?」と溜息をつかれた。
「アンタは憧れやって思ってるか知れんけど、それってもう憧れの域超えてるで?」
「どういうこと?」
「今さっき白石が差し入れもらってるの見てた時の自分の顔、どんなんやったかわかってる?」
「え?そんなにへんやった?」
「違うわ!泣きそうな顔しとったやろ?」
「・・・・・・・え?」
泣きそうな顔?
なんで・・・?
そんな顔してた覚えもないし・・・・泣きそうにもなってへんけど・・・・
「玲音さ、『蔵様』って呼ぶの、王子様みたいやったからって言うてたよな?」
「うん。」
「でもそれってさ、そうやって手の届かん存在やって自分で自分に言い聞かせてただけちゃうん?」
雪ちゃんの言葉に、心がガクンと揺れた。
蔵様とは実は同じクラスで、クラスメイトというやつだ。
男前でカッコいいと騒がれていた蔵様。
同じクラスになる前から顔と名前くらいは知ってた。
だけど私は「確かにカッコええよな。」程度で、特にときめきを感じていたわけじゃないし、
名前だって普通に白石君。って呼んでいた。
私が蔵様と呼び出したのは、雪に彼氏ができたって聞いて、
どんな人か見たい!と、テニスコートに見に行った時の事。
「ほら、あれ。」と指差された人はちょうどテニスコートで打ち合いをしていて、
その打ち合いの相手が蔵様だった。
ラケットを振ったあとに髪をかき上げる仕草とか、笑った時に見える白い歯と流れる汗が
宝石のように輝いていて、「この人王子様だ!!!」と、思ったのだ。
もともとクラスメイトといってもほとんどしゃべった事もなかったけど、
その日からそれまで以上に離せなくなった。
だって庶民が王子様と気安く話していいはずがないから。
そのかわり毎日テニス部を見に行くようになっった。
テニスをしてる時の蔵様は本当にきらきらとまぶしくて、
そんな蔵様を見てるとドキドキするし、きゃー!!って叫びだしたくなる。
でもそれはアイドルを追っかけるようなものと一緒で、恋とかそういうんじゃない。
好きは好きでも憧れの好きで・・・・・
見ているだけでいいんやから・・・・・
「次の大会で引退やし、そうなったら今までみたいにここに見に来てもおらんねんで?」
「それはわかるけど・・・・」
「玲音気づいてへんかも知れんけど、周りの人間ほとんど気づいてるし。」
「何に?」
「玲音が白石の事好きやってことやん。」
「えぇ~!?」
「いい加減認めたら?」
認めたら?やないやろー!!
みんな気づいてるってどういう事?
私が蔵様好きやって思ってるってこと!?
あぁぁぁぁぁぁ!!
小春ちゃんが「愛よ!あ・い!」とか言うてたのってそういう事!?
ただの冗談やと思ってた・・・・・
「玲音白石が傍に来たら逃げるやろ?」
「だって・・・眩し過ぎて目がくらむもん。」
「同じクラスやのに話しかけもせーへんし。」
「そんな恐れ多いことできひんわ!!」
「はぁ・・・重症やな。」
そう言われても・・・・。
だけどその日、いつものように練習風景を見ていても、
きゃっきゃとさわぐ事もできなかったし、
『王子様とか言うのも、恐れ多くて近寄られへんとか言うのも、
みんなそれ以上好きになりたくないからちゃうの?憧れじゃないって気づきたくないからちゃうの?』
そういった雪ちゃんの言葉が、頭から離れなかった。
次の日私は練習を見に行かなかった。
行かなかった・・・じゃないな。行けなかった。
1晩考えて考えて考えて・・・・・・・・私は自分の気持ちを自覚してしまった。
恋と認めたてしまえば辛いから逃げていた・・・・。
そんな風に考えていたつもりはないけど、自分で無意識のうちにそう思いこませていた。
自分で自分に呆れてしまう・・・。
ほんまに私ってあほかもしれん・・・・。
そして気づいたのはいいが、気づいてしまった事で大きな支障が出てきた。
今までも話したりはできんかったけど見る事くらいはできた。
でも頭の中で蔵様を思い浮かべるだけで動悸が激しくなって顔が熱くなる。
鏡を見れば私の顔は真っ赤っか。
想像しただけでこんな状態になるなら、実際会ったらどうなる事やら・・・・
まともに練習風景も見てられそうにない。
両手を握り合わせながら「今日も蔵様かっこいい!!」とか言う余裕は絶対ない!
それ以上は自分でもどうなるのかわからなくて、そして知るのが怖くて
今日は練習見に行かない。と雪ちゃんに断りのメールを入れた。
昼過ぎまで部屋でごろごろしながら、新学期始まったらどうしよう・・・?
同じクラスやのにどうしてやり過ごそう?
などと考えていたら、机の上の携帯が鳴り出した。
「雪ちゃん?」
「玲音?あのさ、あんた浴衣持ってる?」
「持ってるけど?」
「今日学校の近くの神社で祭りやねん。」
「あぁ。あそこか・・・。」
「行こや!」
「え?いいけど・・・・」
「ほな18時に学校前な!あ、絶対浴衣着てくるんやでー!!!」
雪ちゃんは私の返事も聞かずそのまま切ってしまった。
強引な・・・。
でもまぁ・・・特に予定もないし、気分転換にはいいかもしれん。
それに雪ちゃんに話し聞いてもらいたいし・・・・
私は浴衣を探すため、リビングにいたお母さんに声をかけた。
いつもの駅を降りて、地下から地上に上がる階段を上りきったところで私は目を疑った。
うちの学校の制服を着た男の子が、壁にもたれながら携帯をいじっている。
携帯を持つ手は、ひじから指の第2関節ほどまで包帯が巻かれていて
沈みかけの夕日が色素の薄そうな髪を赤く染めていた。
俯いてはいるが、私の乙女センサーとでも言うのか?
それがびんびん反応している。
1日会えなかっただけなのに、蔵様に会えたことで心が震えている。
言葉で言い表せない想いが胸をぎゅーっと締め付けて苦しい。
抑えきれない想いが湧き出るようで・・・・私の口は勝手に「蔵様・・・・」と名前を呼んでいた。
「あ、夏木さん。」
「・・・え?」
携帯をいじっていた蔵様が、私の声が聞こえたのか顔を上げて、
私を見たとたん笑顔を浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
「おお~。浴衣やん。」
「え?」
「やっぱ祭りには浴衣やよな。」
ど、どどどどどどういう事~!?
なんか蔵様が話しかけてきたし!!
状況が掴めずポカンとしていると、そんな私の気持ちに気づいたのか
「あ、夏木さん迎えに来てん。」と笑顔を見せた。
「え?迎えに・・・・?」
「みんな先に祭りってもうてんやん。」
「みんな・・・?」
「金ちゃんがはよ行きたい言うて暴れるから先行かせてん。」
ちょっと待って!!
みんなって・・・?
もしかしてテニス部メンバーも一緒とか!?
てっきり雪ちゃんと二人やと思ってたー!!
もう何がなんだかわからんかったけど、「ほな行こか?」と歩き出した蔵様に
コクコクと首振り人形のように頷いた。
駅から祭りのやってる神社までは徒歩15分くらいやけど
着慣れん浴衣やし、人が多くて思うように進めない。
しかも「大丈夫か?」とかときどき気遣うように顔を覗き込まれて失神しそう・・・
近い!近い!!近すぎる!!
とにかく距離をとらないと心臓が!!心臓が潰れる!!
できるだけ離れようと蔵様の1歩後ろを歩こうとすると、
それに気づいた蔵様がなんと私の手を握りだした。
「歩きにくいんやろ?人多いしな・・・。はぐれたらあかんし手繋いどこか?」
「だ、だだだだだだだだ大丈夫!!」
「めっちゃどもってんで。夏木さんっておもろいよなぁ。」
おおーー!!!蔵様が眩しい!!
笑顔が輝いていらっしゃる!!
ってそんな事言うてる場合ちゃうやろー!!!!
手が!!手が繋がってる!!
蔵様の手の温もりが私の手を通して伝わってくる・・・・。
無理!!こんなの無理!!
でも振り払うことなんできるわけないし、ドキドキしておかしくなりそうやけど・・・・
全然嫌じゃ・・・・・・ない。
蔵様の温もりを感じたように、私の胸の音が手を通じて蔵様に伝わるんじゃないかとか、
手に汗かいてきたらどうしようとか・・・・そんなことばかり考えてたけど、
神社に着くころには、このままずっと手を繋いでいられたらいいのにな・・・・なんて思い出していた。
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久々の蔵様夢デス。
仲良くしてもらってる玲音チャンのお誕生日に贈ろうと思ってたんやけど
スランプで書けなかったんですよね・・・・。
やっとこさできたよー!!!遅くなってごめんね!
そしてちゃっかり親友役で雪ちゃん出てます(笑)
雪ちゃんの彼氏が誰なのかはご想像にお任せしますね。
後編はまた後日!!
早めにUPしマッッシュ!!←
さてS.Y.Kするぞー!!