シリーズ読みきり短編ですので、このお話のみでも問題なく読めます。
「跡部~。教えてくれたっていいじゃん!!」
「うっせぇ!何度聞かれても言う気はねえ!」
「なんや?どないしてん?」
「なんかジローが跡部とカンナの出会いについて聞きたがってよ。」
「それ俺も聞きたいわ。」
「でも跡部教えてくれねーんだよ。」
「人に言えないような出会いなんじゃないんですか?」
「勝手に言ってろ!」
「あ~あ。出て行ってもうた・・・・・。」
「やっぱ言えねぇような出会いなのか?」
「人に言われへん出会いってどんなんやねんな・・・。」
「さぁ・・・・・・?」
頑張れ跡部君
―さらっていいい?このまま俺のものになれよ!の巻―
あの日、生徒会の仕事も終わり、部活へ向かう為生徒会室から出た時だ。
扉を開けると、ゴーン!!というものすごい音が廊下に響いた。
何の音だと扉の向こうを覗き込んでみると、一人の女が額を押さえてうずくまっている。
もしかして扉にぶつかったのか・・・?
どん臭いヤツだ。
そうは思ったが、まったく俺の責任じゃないわけでもない。
怪我でもしてたら後々面倒だと思い直し「おい!大丈夫か?」と声をかけた。
「いてて・・・・・。」
「悪かったな。まさか廊下を歩いてるやつがいるとは思わなくて・・・・」
「あ~!!!!私のDSがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
立ち上がらせようと延ばした俺の手には見向きもせずに、
廊下を這うように向かった先には、なにやら四角いケースのようなものが落ちていた。
「おい。」
「おお~!!ちゃんと起動する~!よかった・・・。」
「おい。」
「あっ!!セーブデーターは!?・・・・・ちゃんとあるー!!」
「おい!!」
何度目かの呼びかけにやっと俺の方へ視線が向く。
不機嫌な顔で女を見下ろしていると、その女は俺の顔を見て口を半開きにして固まってしまった。
なんだ・・・?
ふっ。俺様の美しさに放心してやがるのか?
変な女だと思ったが、俺様の美しさに惚けるとは、やはり普通の女だな。
「おい、お前・・・」
「ヒロト先輩!?」
「あーん?」
「いつロスから帰ってきたんですか!?」
気をよくした俺は、少し穏やかな声で「怪我はねえか?」と聞こうとしたが
いきなり俺に詰め寄ってきて、誰だかわからねー名前を呼びやがった。
ヒロト・・・だと?
誰だそいつは?
「うっわ・・・私頭打ったせいで二次元の世界にぶっ飛んだ?」
「なに言ってやがる?」
「やっべ。どうしよー!!でもどうせならオレハニより緋色がよかったー!!」
「オレハニ・・・?緋色・・・?」
「そんでもって、まひろん先輩の羽に抱かれたかった!!あ、でも戦いは勘弁だな・・・。」
なんなんだこの女は・・・?
今のは日本語か?
数カ国の言葉を話せる俺だが、今の言葉は理解できなかった。
この女はいったい何語を話しているんだ・・・?
「でもせっかくだし、ヒロト先輩の助手席で肩を抱かれるのもいいな・・・。」
「おい・・・・・。」
「オレハニはしょっぱなから逆ハーだし、かなりおいしいし・・・・・。」
「お前・・・・・頭大丈夫か?」
「・・・・・・・あれ?先輩ほくろの位置変わりました?」
一人ぺらぺらとしゃべり盛り上がる女だが、その話の内容はさっぱりわからねぇ。
本気で頭が少しおかしいんじゃないか?
しかもさっきから俺の話を全然聞きやがらねーし・・・・。
「おい、女!俺はヒロトなんて男は知らねーし、ほくろの位置も変わっちゃいねぇ!」
「へ・・・?」
「言いか、よく聞け!俺様はこの氷帝学園のキング。跡部景吾だ!!」
静かな廊下に俺の声がエコーして響く。
この俺様の顔は知らないようだが、名前を聞けばすぐにわかるだろう。
はっ!どうだ!驚きで声も出ねぇってか?
驚いた顔で俺を見上げる女はみるみる目を見開き・・・・・・・・見開き?
「な~んだ。ヒロト先輩じゃないのか・・・。つまんないの。」
事もあろうかこの女は驚くどころか、残念だと言わんばかりに肩を落とし「つまらない」と言いやがった。
なんだと・・・?
この俺様の名前を聞いて・・・・つまらないだと・・・?
「けど声までそっくりなのに・・・。もったいないな・・・。」
「おまえ・・・・。」
「はぁ・・・。時間無駄にした。早く帰ってまひろん先輩クリアしよっと。」
俺がヒロトとかいう男ではないとわかると急に態度が変わり、
もう一切俺の方を見向きもせず立ち去っていこうとする。
こんな屈辱的な仕打ちを受けたのは初めてだ。
キャーキャーと騒がれる事はあっても、
「つまらない」だの「時間の無駄」なんて言われた事なんて1度だってない。
この女・・・・。
俺は立ち去っていくそいつの背中に「おい!待てよ!」と呼びかけた。
「あぁ~声が似てるってヤバイな・・・。思わず振りむいちった。」
「てめぇ・・・。」
「それでなに?私急いでるんだけど?」
振り向いたのは俺に呼び止められたからじゃなく、
声に反応して思わず振りぬいてしまったといわんばかりのセリフに
一瞬キレそうになったが、ここでキレても仕方ねぇ。
俺は髪を掻き揚げ、視線を流すようにその女に向けた。
「おい、女。お前、俺様の女になれ!」
この俺様をここまでコケにした罪は重いぜ。
骨抜きになるほど惚れさせて、俺様の魅力を嫌と言うほど味合わせてやる!
俺にそんな態度をとった事、後悔させてやるぜ!!
「ふん!喜びで声もでねーのか?」
「・・・・・・最悪。」
「あーん?」
「なにそれ!?まったく萌えねー!!」
黙ったまま何も言わない女に、どうだとばかり鼻を鳴らすと
突然でかい声で叫びなぜか俺に説教をしだした。
「あんたその顔でその声でやめてよね!ヒロト先輩に謝れ!」
「なんだと!?」
「俺様キャラの使い方間違ってんのよ!まひろん先輩を見習え!!」
ビシッ!と指を突き出し「謝れ!」「見習え!」と言い放つ女の気迫に、この俺様が押されそうになる。
本気でなんなんだコイツは・・・?
そう思った時だ。
「女を本気で口説くなら、まず萌えさせろ!!」
そう言ったかと思うと、肩を強く押され壁に背中が押し付けられた。
そして一瞬にして俺の目の前に顔が迫り、唇の横に「何か」が触れた・・・・・。
「な、なにしやがる!?」
「きらいじゃないだろ?そういうの。」
「何か」なんて考えるまでもなくその女の唇で、柔らかな感触が肌に残る。
慌てふためく俺に小さく笑みを見せ、壁についていた手を俺の顔の横まで伸ばし、
耳たぶにゆっくりと指を滑らせていく・・・・・・。
「っ!?は、離しやがれ・・・・。」
「なぁ・・・さらっていいい?このまま俺のものになれよ。」
今までのどの表情とも違う、艶を帯びた瞳が俺を射抜く。
押しのけてしまおうと思えばこんな女くらいすぐに押しのけられるはずなのに、
密着した体と触れられた耳が熱く燃え、もう自分のものではないかのように感覚がなくなっていくようで・・・・
バクバクと全身に鳴り響く鼓動と、自分の吐き出す呼吸音が頭の中に響き
考える能力までをも奪っていく・・・・・。
俺は・・・・・どうしちまったんだ・・・?
こんな女・・・・俺を侮辱した女なのに・・・・・・・
高まる鼓動を止められない・・・・・・・。
呆然とした意識の中で、ただ俺はさっき触れた唇の温もりが恋しくて・・・
目の前の瞳に吸い込まれるように、ゆっくりと顔を近づけた・・・・・・。
「きゃー!ヒロトせんぱーい!!」
「!?」
「こんなことされたら想到するっつーの!」
「お前・・・・・・・。」
「どう?萌えたでしょ!?」
「な・・・・・に・・・・?」
「同じようなセリフでも、言い方とシチュが違えば萌えるって事よ!!」
もうすぐ触れるという寸前に顎を押しのけられ、突然叫びだしたと思ったら
またさっきの「ヒロト」とか言う男の名前。
なんでそこでまたそいつの名前なんだ・・・?と、思ったが、頭に嫌な予感が過ぎる・・・。
「まさかそのセリフは・・・?」
「ヒロト先輩の甘い囁き。あんたも少しは見習いな。」
中途半端に傾けられた体が、膝を折って崩れていきそうで、
俺は眩暈がしそうなこの状況に、何とか壁に手をつき身体を支えた。
そんな俺に「大丈夫?」なんてちっとも気持ちの篭ってない言葉だけをよこしてくる女が憎らしい・・・。
腹ただしさと言いようのない敗北感にをぶつけるようにそいつを睨みつけると
俺の視線など気にも留めず「あぁ~。こんな事してたらヒロト先輩に会いたくなってきたぁ~!」
などと言いながら頬を赤らめだした。
なんだ・・・・そんな顔も出来るのか・・・。
なぜだかその恥かしげに頬を染めるそいつが可愛く見えて・・・・
それと同時にその顔をさせているのが俺ではない男と言う事実に胸が締め付けられる・・・・。
胸が・・・・痛てぇ・・・・。
それ以上そんな顔を見ていたくなくて、俺は咄嗟にそいつの腕を強く握った。
「なに?」
「お前・・・・・・・・・名前は?」
「なに?」と言われても、「そんな顔を見たくなかったから・・・。」なんて言えるわけもなく、
誤魔化すように名前を聞くと、腕を握られた事に怪訝な表情を浮かべていた女の顔が
にやりと口端をあげて挑戦的な笑みへと変わった。
「カンナ。」
「カンナ・・・・。フンッ!面白い女だ!気に入ったぜ。」
「へぇ・・・・変なヤツ。」
「俺は絶対ヒロトとか言う男からお前を奪い、俺の女にしてやる!!」
「ふーん。なら私を萌えさせられる男にならなきゃね。」
「俺様に不可能はねぇ!!」
「ふふ。じゃぁ楽しみに待ってるよ。・・・・・跡部君。」
名前を呼ばれた事に、なぜか大きな満足感を得て、
「じゃぁ~ね~。」と立ち去っていくカンナの背中を、俺はずっと見続けていた。
あの日の妙な出会い。
そして叩きつけられた俺への挑戦状。
雪辱を晴らす為のリベンジ心なのか、それとももっと他の・・・・違う感情なのか・・・。
その時の俺にはまだわかっていなかったが、間違いなく俺はあの時、
カンナの『萌え』とやらに、ハートを根こそぎ奪われたのだった。
ヒロトとかいう男がゲーム上の人物だという事を知った時の俺が、
絶大なショックを受けたのは、言うまでもない・・・・・。
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跡部くーん!!
カンナ大暴走。
出会い編を書いてみたくて書いちゃった♪
乙女ゲーをプレイされない方にはさっぱりわからんかもしれませんが
「オレハニ」とは「オレンジハニー」、「緋色」とは「緋色の欠片」という乙女ゲーです。
そして「ヒロト先輩」はオレハニに出てくる先輩で、CVは諏訪部さんです。ww
まひろん先輩って言うのは緋色に出てくる真弘先輩っていう、ちびっ子い俺様キャラの先輩です。
こっちは諏訪部さんボイスじゃないですが好きなキャラです!!ww
この出会いの後にどうなったのか・・・は、気が向いたら書くかもしれませんが
とりあえずはご想像にお任せ!って感じで終わらせたいと思います!