月だけが照らす薄明りの下、千鶴は隣で眠っている男の寝顔をそっと見た。

(鬼龍様・・・。)


(まるで・・・子供のようなお顔・・・。)


千鶴は、先刻の会話を思い出していた。


「どうした?この手は。蜘蛛の糸がかかっているが。」

「先程・・・蜘蛛の巣にかかっていた蝶を助けましたので・・・。」

鬼龍は蜘蛛の糸が絡んだ白い手を見つめながら

「自由が・・・欲しいか?」

と、尋ねた。


「私は・・・貴方という蜘蛛の糸に既に囚われてしまいました・・・。」

鬼龍はその答えに満足したかのように彼女の手を大きな手で握りながら、

「それでいい。お前は俺だけの人形。ここから逃げ出そうなどと考えるなよ。」



(鬼龍様・・・。)

その名の通り、鬼神の如き猛々しさで周囲から恐れられている鬼龍だが、

千鶴には、抱かれる度に人の温みを与えてくれる大事な存在だった。

(私は・・・貴方だけの人形・・・千鶴はいつまでも貴方様のお側に・・・。)


千鶴は先刻自分にしてくれたように、眠っている鬼龍の唇に手を添えて、口付けた。