幻のレスラー「ハムラー」
私の父は大学時代、プロボクサーを目指していた。
もちろんボクシング部に所属し、本人いわく、
「かなりの選手だった」(父の武勇伝より)
らしい。しかし、父親に反対され、プロボクサーの夢を捨て、
平凡な社会人になった。
自分の夢が叶えられなかった人間というのは、
大抵自分の子供にその夢を託すもの。
父も例に漏れず、子供をプロボクサーにしようと心に決めた。
しかし、生まれてきたのは2人とも女の子・・・。
ブロボクサーにはできない。(当時?)
だったら、女子プロレスラーにしよう!それが父の夢となった。
なぜでしょう?
だったらなぜ?
父の決断!
幼い頃から、洗脳教育が始まった。
すっかり洗脳されていました。
「パパ! 将来は絶対! 私ビューティーペアーになる!」
が、そんな私もお年頃を迎え、
たのきんトリオのよっちゃん出現により
すっかり色気づいてしまった。
「痛いのいやだし・・・私はよっちゃんの彼女になるの!」
ところが、18歳のある日、雑誌に出ていた
女子プロレスラー募集の記事・・・。
それを見て・・・
私は思った・・・。
日に日に老いていく父の背中・・・
私はそれまでの人生最大の親孝行を決心した。
「パパの夢に少し協力してみる?」
でも、自信はあった!
絶対に私なんか受かんない!
こんなナウい私なんか
受かんないもん!
応募したけど、だめだったの・・・そう父に言えば、
きっと父も納得してくれる。
応募写真(水着)の撮影を姉に頼んだ。
友人は同じ水着姿でクラリオンガールに応募したっていうのに・・・。
念のため、バスタオルを腰に巻き、
カメラを睨み、極悪同盟系カメラアングルで。
写真だけなら、かなり強そうなレスラーの誕生だった!
そして、その写真と一緒に身長、体重などを明記し、
ポストに投函!
それから1週間後・・・協会から合否を知らせる手紙が来た!
見るまでもなく「不合格」
やっぱナウい今時のギャルである私は
クラリオンガール向きだったのね~
と、ところが!
してるんじゃ私!
ど、どうして合格、するよ、私?
やっぱり私は父の夢を叶えるべき
この世に生まれてきたのだろうか・・・。
父が喜んだのは言うまでもない。
会社に提出する辞表を用意し、
私のマネージャーとして第二の人生を歩むと言った。
リングネームは「ハムラー」。
何でも、丸大ハムのように体にロープをぐるぐる巻きにして、
リングに上がり、名前を紹介されるや、
気合でそのロープを引きちぎるんだそうだ。
「何だかすごく強そうで、相手をビビらせそうだろ?」
父は得意になって話していた。
でもね、結局・・・
私はオーディションには行かなかった。
いや正確に言うと、行かれなかったのだ。
マスコミに勤める友人に話したところ、
面白い!とオーデション初日に取材に行った友人が
教えてくれた。
「腕立て50回、腹筋50回、皆、なんなくこなしていたよ!
真剣だった!あんたみたいな半端な奴1人もいなかった」
それを聞いてすっかり怖気づいてしまったのだ。
オーディションに行かなかったという事実を知らされた父の
落ち込みようと言ったら・・・。ごめんね、パパ・・・。
でもね、父はあきらめてはいなかった。
今、父は私の娘たちにその夢を託している。
8歳の娘は痩せていて色気づいて
「痛いのいや! 怖いのいや!」
と早くも脱落。
ならばと、来月1歳になる上島竜平似のふとっちょ次女を
最有力候補として、ハムラーにしようと!
「気合だ!
気合だ!
気合だーーーー!」
父の声に大喜びの次女・・・
どうやら私が叶えてあげられなかった父の夢、
私に代わって次女が叶えてくれる、
そんな日がやってくるかも?
←気合だ!気合だ!気合だーーーー!