『個人的な体験』 / 大江健三郎
- 個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)/大江 健三郎
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この作品が上梓された当時、ラストシーンに非難が噴出したそうだが、私もガッカリした。これまで読み続けてきた時間を返せと言いたい。
作者ご自身に障害を持って生まれてきたお子さんがいらっしゃるそうだから、ラストシーンは希望が見えるものにしたかったのだろう。そのお気持ちは尊重しなければならないが、商業小説である以上は、読者に時間を返せなどと言われてはいけないのではなかろうか。
私は、この小説の登場人物が全員、1つの人格なのではないかと思えて仕方がなかった。主人公の”鳥”(バード)は、学生時代の女友達である火見子の存在を必要としたがゆえに、火見子はそれに相応しい役回りを与えられてこの小説の中に登場しているのではなかろうか? 火見子は”鳥”が自己に与えた役割を果たす自我の一部なのではなかろうか?
(続く)