条件反射の分子メカニズム | きくな湯田眼科-院長のブログ

きくな湯田眼科-院長のブログ

眼瞼下垂、結膜母斑、なみだ目、レーシック、流涙症なら                     

横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

1972年、キャンデルと彼の同僚で生化学を専門にしていた James H. Schwartzはアメフラシ腹部神経節で、条件反射が引き起こされたシナプスの刺激で、サイクリックAMP(cAMP)の濃度が上がることを発見しました。さらに、セロトニンが同様にcAMPを上昇させることを認め、彼らはセロトニン(5-HT)がアメフラシの介在神経の神経伝達物質であると考えました。



これらの事実を踏まえて、彼らは以下のような一つの説を提示しました。



尾の刺激を伝達する介在神経軸索終末で放出されたセロトニンが、感覚神経軸索終末でGタンパク連結型受容体を介してアデニル酸シクラーゼの活性化を引き起こす。これによりサイクリックAMPが産生され、次にcAMPはプロテインキナーゼAを活性化する。



きくな湯田眼科-院長のブログ


活性化されたプロテインキナーゼAは感覚神経終末のKチャンネルをリン酸化し、チャンネルの構造を変え、Kチャンネルは閉じる。こうしてKイオンが閉じることで脱分極が長く続く。



きくな湯田眼科-院長のブログ



きくな湯田眼科-院長のブログ


脱分極が長く続くことで電位依存型のCaチャンネルが長く開くことから、感覚神経の神経伝達物質の放出が多くなり(伝達効率が良くなり)、えら引き込み反射の過敏性を生ずることになる。



さらに感覚神経刺激(CS)が介在神経刺激(US)よりわずかに先行すると(0.5秒程度)感覚神経に到達した神経インパルスにより電位依存性Caチャンネルが開き、Caイオンの細胞内流入は細胞内のカルモジュリンを介し、その後に起こる介在神経よりのセロトニン放出・Gタンパク連結型受容体によるアデニル酸シクラーゼ活性を増強し、cAMPはより多量に生成されることになり、条件反射が完成する。またこれが短期記憶に関係している。




きくな湯田眼科-院長のブログ



キャンデルらの説の重要な点は、cAMPというセカンドメッセンジャーが主役であるということです。これはcAMPを上昇させるような伝達物資でありさえすれば、あらゆる神経で同じことが起こりうることを示唆しており、普遍性を持っていると言うことができるのです。



こうしてアメフラシというおよそ人とかけ離れた生物で起きていることを、人の神経にも当てはめることができることになり、彼の当初のもくろみは成功したと言えます。



なお、これらの変化は長期に続くことはないと考えられ、長期記憶にはシナプスタンパクの構造変化など別の機序を考える必要があります。



長期記憶を引き起こす因子として、彼らはCREB (cAMP response element binding protein)というタンパクに着目しました。このタンパクは分子量14kDでDNA上のCRE(cAMP responsive element)に二量体で結合しており、プロテインキナーゼAによりセリン残基がリン酸化され活性型となり、転写を活性化し特定タンパクを合成するように作用します。アメフラシを初め多くの生物に発現しており、ヒトでは特に海馬に強く発現してることが確認されています。



アメフラシの記憶形成メカニズムの解明を評価され、キャンデルは2000年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。彼の行く道を決めたのは初期にはアンナクリスでしたが、後は妻のデニスで、フランスに行くとき、NYUに行くとき、後にコロンビア大学に行くときなどことごとくデニスが決定していたのです(キャンデルはこの人生の転機で全て彼女に従ったのです)。