グルタミン酸と緑内障 | きくな湯田眼科-院長のブログ

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横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

グルタミン酸は次のような構造式の酸性アミノ酸です。(酸性アミノ酸にはもう一つアスパラギン酸があります)


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グルタミン酸(Glu)はグルコースと前駆体とから全ての細胞に存在する酵素によって合成されますので、全ての神経細胞に3~10mM程度の濃度で含まれています。このうち特に高濃度(20mM程度)に含んでいる神経細胞はグルタミン酸作動神経と呼ばれ、神経伝達物質としてGluを使っています。グルタミン酸作動神経の小胞体内では、シナプス小胞性グルタミン酸輸送体(VGLUT:synaptic vesicle glutamate transpoter)によりGluはさらに濃縮されており、その濃度は50~150mMにもなります。


Gluは興奮性神経伝達物質の代表で、大脳の主たる神経伝達物質として働いています。特に海馬ではほとんどの神経がグルタミン酸作動神経となっています。グルタミン酸を脱炭酸することでギャバ(GABA)ができますが、ギャバは抑制性神経伝達物質の代表です。


Gluは細胞外にも低濃度(10μM程度で細胞内の1/1000)存在しますが、Gluが細胞外に高濃度でとどまると、細胞は死んでしまいます。3mM程度の濃度でこの現象は起こりますので、Gluはかなり強い毒性を有すると言うことができます。


この毒性によりALS(筋萎縮性側索硬化症)やアルツハイマー病が引き起こされていることが分かってきています。


Glu受容体にはイオンチャンネル内蔵型とGタンパク質共役型の2つのタイプの受容体が存在します。前者は受容体の活性によりNa、K、Caイオンを通すチャンネルとして働き、後者はPLC(ホスホリパーゼC : phospholipase C)活性化・イノシトール3リン酸(IP3)産生を介して小胞体からのCa2+の放出を引き起こします。Caイオンは細胞内ではセカンドメッセンジャーとしていろいろな作用を発揮します。

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イオンチャンネル型のGlu受容体には3種類あり、それぞれこれらの受容体につくアゴニストにちなんでAMPA型、カイニン酸型、NMDA(N-Methyl-D-Aspartic Acid)型と分けられます。前2者は似たような作用から非NMDA型としてまとめて扱われますが、Gluが受容体につくとチャンネルが開きNaイオンを細胞内に取り込み、脱分極を起こします。

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NMDA型はチャンネル入り口にMgイオンが取り付いていて、通常は受容体にGluがついてもチャンネルが開くことはありません。非NMDA型の活性により細胞が脱分極すると、NMDA型受容体からMgイオンがはずれ、初めてGluに反応するようになります。


NMDA受容体はCaチャンネルとして働き、チャンネルが開くとCaイオンが細胞内に入ります。



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一旦起こったNMDA型受容体の作用は長時間継続し、これが記憶のメカニズムと考えられています。海馬でグルタミン酸作動神経が多いこともうなずけますね。しかし、これが原因で、次に述べるように実は最も虚血などの影響を受けることになるのは皮肉です。(これも神様の設計ミスなのでしょうか?)


Gluは細胞毒性を持つため、神経保護作用を持つアストロサイトなどのグリア細胞が、その細胞膜にあるGLAST:glutamate/aspartate transpoterなどのグルタミン酸輸送体で、余分になった細胞外のGluを取り込んでいます。

この輸送体は共役輸送体(ある溶質の濃度勾配に逆らう方向の輸送を、別の濃度勾配に従う溶質の輸送に組み合わせることによって行う輸送)で、Naイオンの細胞内外の濃度差(Naは細胞外濃度が細胞内の10倍以上です)を利用した輸送のため、Glu輸送に際し、Naイオンが3分子一緒になって細胞内へ入ってきます。上昇した細胞内のNaイオンを放っておくと細胞はパンクしてしまいますから、たまったNaはATPのエネルギーを利用したNaポンプで細胞外に排出しなければなりません。こうして、Gluの輸送は結局多くのエネルギー消費を伴うことになります。従って虚血などの影響を強く受けることになるのです。


また、Glu輸送体であるGLASTの障害はグルタミン酸の細胞外濃度の上昇を引き起こし、その結果神経障害につながることになります。


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さらに虚血は、グリア細胞の活性を高め、iNOSの発現を促し、この結果NOが過度に産生されることになります。このNOが神経細胞を攻撃することにもなります。


前回記載しましたように、iNOSがどれほど緑内障性視神経障害に関与しているか未だに不明ですが、Gluが眼圧の要素によらない緑内障性視神経障害に関係しているとの推定のもと、輸送体タンパクGLASTを欠損したマウスが正常眼圧緑内障のモデルとして研究され始めています。