髄液圧と緑内障 | きくな湯田眼科-院長のブログ

きくな湯田眼科-院長のブログ

眼瞼下垂、結膜母斑、なみだ目、レーシック、流涙症なら                     

横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

眼圧を決定する要因である房水の量は約260μlで、毛様体で1分間に約3μlの割合で産生されています。排出される経路には虹彩の付け根のところにある線維柱帯を抜けるルート(主流出経路)と毛様体筋の間を抜けるルート(ぶどう膜強膜流出路)があります。


後者は全排出量の2割弱を占めるに過ぎませんが、眼圧に非依存性で、拡散によらない流れで(バルクフローと呼ばれています)、眼内の炎症等で生じた蛋白など主流出路では排出できない成分の房水中からの除去に役立っていると考えられています。現在緑内障治療薬として用いられているプロスタグランディン製剤はこの流れを増強して眼圧低下を起こすものです。


一方脳圧を決定する要因である脳脊髄液(CSF))は全量約140mlで主として脳室にある脈絡叢(その割合は70%程度で、残りは脳や脊髄で産生されると考えられています)で1分間に約0.3mlの割合で産生されています。吸収されるのは主として矢状静脈洞にあるくも膜顆粒ですが、くも膜や脳・脊髄のリンパチャンネルからの吸収も行われています。


房水、脳脊髄液とも様々な因子が産生・吸収に影響し、その結果、圧は絶えず変動しています。


視神経は透明性を得るため、眼内では髄鞘がなく、無髄神経となっています。視神経乳頭のところで眼球から出た視神経は、この部分で髄鞘をかぶり、眼内と比べて太さが倍になります(有髄神経の方が伝達速度が圧倒的に速いから、そのようになっているものと考えられます)。


球後の視神経は周りをくも膜が覆い、視神経とくも膜との間にはくも膜下腔が存在します。これは脳のくも膜下腔と通じていますので、この部分でCSF圧が視神経に掛かっていることになります。



きくな湯田眼科-院長のブログ


こうして視神経乳頭部は眼球側からは眼圧が掛かり、球後視神経側からはCSF圧が掛かることになり、そのせめぎ合いが起こる部分となるのです。実際には視神経が強膜を貫くところは篩板と呼ばれますが、この部分に全ての圧が掛かってきます。


眼圧の正常値は平均15mmHgで、CSFの横臥位での正常値は平均11mmHgで、約4mmHgの圧差があります。


最近、篩板に掛かる眼圧とCSFとの圧勾配が視神経乳頭での神経障害と関係があるという論文が出ました。これによると正常眼圧緑内障ではCSF圧が低くなっていて、圧勾配が大きく、視神経障害を生ずると言うことです。眼圧が高くとも視神経に異常が見られない高眼圧症ではCSF圧が高く、眼圧とのバランスがとれているので障害は起こらないと言うことです。(Berdahl JP. Current Opinion Ophtalmol 2010, 106-111)