スウェーデン・エリクソンの発表はほとんど日本の携帯マーケットにインパクトを与えなかったが、日経コミュニケーションのコラムでも書かれた様に、携帯の新しい技術?アーキテクチャ?『femtocell(フェムトセル)』がこれからの携帯に与えるインパクトに気づいた人はどれくらいいるだろうか?
河井氏が指摘するようにこの技術はADSLが固定BBをドライブしたように、携帯のBB化、ALL-IP化、価格破壊に拍車をかける革新的なアーキテクチャだ。

(注)エリクソンのプレスリリースはこちら
   日経コミュニケーション・河井氏のコラムはこちら


ここで、femtocellとは?

数学に強い方なら聞いたことがあると思うが、femtoというのは10の-15乗のことで、picoが-12乗、nanoが-9乗、microが-6乗、milliが-3乗と続く。

これは何を意味しているかというと、電波の出力をさしており、femtoになればなるほど小さくなる。
無線の世界では無線基地局から半径何kmあるいは何百mというセルで構成され、基地局間でハンドオフ(切替)しながら移動性を確保している。

一般の携帯会社の基地局はMacroセル(半径数km)と総称しており、これを基準に、Microセル(Willcomの
PHS程度、公衆向け、半径500m)、nanoセル(オフィス敷地内あるいは公衆向け、100-200m程度)、
picoセル(オフィス内あるいは公衆向け、50-100m程度)、femtoセル(宅内、10-50m程度)というように、
出力が小さくなればなるほどカバレッジも小さくなる。

カバレッジが小さくなればなるほど、そのセル内に端末を持つ人の数も少なくなるので、逆にキャパシティは確保できることになる。

このfemtoセルは宅内ホームベースステーションとしてWiFiに続くマーケットとして有望視されており、大手中小ベンチャーが虎視眈々と狙っている。最近でもABIリサーチでも2011年には世界で40億ドル(約5兆円)というレポートが出された。


femtoが出てきた背景

何故このような考え方が出てきたかというと、携帯が電話からデータ通信へと固定と同様大容量・広帯域化が進むとともに、低い周波数帯で帯域が足りなくなってきたので、高い周波数にも割り当てられるようになってきている。

ところが、高くなればなるほど電波の直進性が強くなり、屋内へ電波が届きにくくなる。(既存の800MHz程度であれば
そう問題にはならないないが、1.5GHz以上では深刻になる。3G、4G、WiMAXなどでは問題になるであろう。)

また、無線側の問題とは別に、コア側でも3Gのネットワークは大容量・広帯域通信向けに設計されていない。これが大容量化されていくとコアも更新する必要が出てくるが、femto(ホームゾーン)とマクロゾーンを階層化してトラフィックを分離することによって、新たなコアの増設(投資)を抑えるということができる。

さらにホームゾーンはバックホールに既存の家庭用BB-IP網を利活用することで、バックホールのopexを減らしたり、
屋外の基地局(数千万~1億かかると言われています)とホーム基地局(2~3万円)でセル設計のアーキテクチャを
有効に設計できる(即ち、屋外をもう少しラフにして、宅内や公衆の人が集まるところにたくさん設置するとか)ので、
設備投資も抑えられるというメリットがある。

femtoとWiFiの違いとは?

femtoは3G、wifiは802.11a/b/gを無線インタフェース使うので、携帯端末は3G/WIFIデュアルにする必要がない。wifiは電力を食うので、低消費電力にするとか、小型化が難しい。FMCとしても屋内はwifi、屋外は3Gなので制御も複雑になる。一方、femtoは同じ周波数を使うので、低消費電力、小型化が可能だWiFiはインテルインサイドでPCにはバンドルされたが、携帯電話端末としてはまだ花開いていないので、femtoの方が既存の技術を利用してすぐに使える可能性が高い。


既存の問題点は?

femtoは3Gライセンス化された周波数なので電波法、電気通信事業法などの規制を受けている、wifi(802.11a/b/g)はアンライセンスなので規制を受けないというところが違いがある。
基地局として考えると、無線技術者が設置しなければいけないとか、周波数管理、電源や設置場所、緊急時の警察消防への通報等々、今の法令では規制がある。しかし、wifiと同様、エンドユーザが簡易に扱えること、出力が小さく、家庭に設置するのであれば個人的な利用に使うこと(公衆利用だと宅内から他人の通信を保証しなければならない)、小型低出力無線局は数千万基地局になる可能性があり、免許申請処理上総務省も手続きを簡素化したいだろうという読みがあり、規制が緩和される可能性が高いです。

マーケットの現状

現在マーケットのプレイヤーしては、チップベンダーとして英picoChip, 米テキサス(TI), 仏伊STマイクロ, 米クアルコム、米アナログデバイシス、米ブロードコムが考えられる。セットベンダーとしては英ip.access, アイルランド・Radio Frame, 韓国Samsung, 英Ubiquisys, 英3Way Networksのベンチャー勢他、スエーデン・エリクソン、フィンランド・ノキア・シーメンス、仏アルカテル・米ルーセントの大手、端末勢として、米シスコ、米モトローラ、仏Sagem等が虎視眈々と狙っていると思われる。


何が変わるか?

ユーザの視点からは、宅内の通話環境が良くなるとともに、帯域が大きくなるのでPCやスマートフォンのように端末が寄り高機能化され、今のフラストレーションが溜まるようなimodeやezweb(昔のアナログモデム)とは異なり、スカスカの通信が可能となろう。また、宅内だけでも固定料金化が図れる。

携帯事業者はよりALL-IP化、3G/3.5G/3.9G化が加速され、設備が軽くなり、設備投資と運用コストが低減され、いよいよ固定料金制の導入に繋がるだろう。

あるいはエリクソンの記事のように仮に数万円でホームベースステーション基地局が設置でき、法規制が緩和できるのならば、数万×4000万世帯=80億~100億程度投じるだけで簡単な携帯事業が出来ることにある。携帯事業者は1基地局に数千万~1億も投じていることから4-5万局で数兆円投じている。Willcomですら16万基地局で数千億円投資している。

ADSLでベンチャーが出現してマーケットがドラスティックに変わったように、100億程度の設備投資で事業がはじめられる可能性がある。


ここがポイントだ。

ユーザの視点からは日本の携帯(特にデータ通信)はとにかく高いので、せめて月2000円くらい(固定通信よりはモビリティがある分払ってもいい)固定料金になって欲しい!:*:・( ̄∀ ̄)・:*: