前回は、「ミトコンドリアの働きを悪くさせるもの」として「有害物質」について述べました。今回は「マグネシウム不足」について、述べます。
以前、「シリーズ9」において、 マグネシウム不足が持続すれば、ミトコンドリアの働きをさらに悪くさせることに繋がることになると述べました。
このマグネシウム補充は、片頭痛治療上の要(かなめ)となることから、もう一度述べておきます。これ程までに大切なものです。
私達の生活環境は、マグネシウムが不足しやすい
日本人には慢性的にマグネシウムが不足しています。その原因は、昔と比べ欧米化した食生活にあります。
厚生労働省「平成21年国民健康・栄養調査」によると、マグネシウムの平均摂取量は20歳以上の男性では264mg、20歳以上女性では234mgです。食品からの摂取量だけで男性では100mg前後、女性では50mg前後のマグネシウムが毎日不足していると推定されます。
日本人のマグネシウム不足の原因として「食生活の“欧米化”」と「精製塩の過剰摂取」を挙げられています。粗塩にはマグネシウムをはじめとするミネラルが多く含まれます
また、塩分の過剰摂取により、体内からのマグネシウムの排泄が増えると、マグネシウムは不足気味になります。その他、マグネシウムはストレスが加わると尿中にたくさん排泄され、さらに不足傾向になります。ストレスにさらされる現代人は、マグネシウムが不足しやすい生活になっているのです。
マグネシウムは代謝に関係する酵素の活性化や、糖をエネルギーに変換する働きがあります。また、体内の水分を腸に集める働きがあり、腸に残っている宿便が、体外に排出されやすくなると言われています。このため、ダイエットで不足しがちになります。
PMSと呼ばれる月経前症候群がある女性の血中マグネシウム濃度は、月経前症候群がない女性に比べ低いと報告されています。
これにより月経前症候群の緩和にマグネシウムが役立つと言われています。
また、妊娠中に起こる「こむらがえり」の原因の1つにマグネシウム不足あげられています。
それではマグネシウム不足の原因はなんでしょうか?
次のような身の回りの生活環境は、容易にマグネシウム不足を起こしてきます。
・アルコールの飲み過ぎ
アルコールの多飲により 尿中にマグネシウムを排泄する量が増加します
・毎日の牛乳摂取
カルシウムばかりが多い牛乳を いつも飲むことで 2:1が望ましいカルシウム:マグネシウムのバランスが狂い、マグネシウムの相対的欠乏を招いてしまいます
・ストレス
ストレス対応ホルモンがマグネシウムの排泄を促してしまいます。最初に、その機序は説明しました。
・激しい運動や暑すぎる環境
マグネシウムは 汗とともに大量に排泄されます。
・食材のマグネシウム含有量が低い
日本の土壌は火山灰土でミネラルが少ないため その土壌で育った作物はあまりミネラルを含まないのです。
さらに農薬の使用で土壌が枯れ 以前より含有率は低下していると言われています。
・白米小麦粉など精製食品の摂取
精製過程でミネラル分がそぎ落とされてしまっています。
・白砂糖の摂取
消化分解にマグネシウムが大量に消費されます。
・加工品や清涼飲料水の摂取
これらに多く含まれるリンによりマグネシウムの吸収が妨げられます。
・食品添加物や農薬等の摂取
有害物質を解毒するために肝臓でマグネシウムを消費します。
・エストロゲン過剰(環境ホルモン含む)
本来月経期間中はエストロゲン濃度が低いはずですが、肉・乳製品・環境ホルモンの摂取でエストロゲンが高濃度になると、マグネシウムの体内濃度は低下します。
肉・牛乳・乳製品、これらにホルモン剤(エストロゲン様環境ホルモン)が含まれている可能性がある事をご存知ですか?
例えば乳牛は、早くから、そして大量にお乳を出させるために、遺伝子組み換え牛成長ホルモンというのが投与されている事があります。日本では規制も表示義務もないですが)
アメリカでは、逆にこのホルモン剤を「投与してません」と書くと、投与している牛乳の販売を妨害する、と裁判が起こり、区別してはいけないようになっています。
ホルモン剤投与でたくさんお乳を出す牛さんは、ママさん達ならわかると思いますが、乳腺炎を起こしやすくなります。その乳腺炎防ぐために、抗生剤も投与されているのです。
肉牛にもホルモン剤は使われており、日本では4種類のホルモン剤投与が認可されているようです。(EUでは一切禁止されていますが・・)
ホルモン剤に抗生剤をお肉や牛乳・乳製品から取っているかもしれない、なんて、普通は気付きませんので注意が必要です。
・食の欧米化
洋食より和食の方がマグネシウムを多く含む献立ですが、食の欧米化によりマグネシウムの摂取量は低下しています。
・生理時には・・
生理前になると、自律神経の乱れにより、細胞からカルシウムが流れ出し、カルシウムの濃度が増えるため、子宮の筋肉を過剰に収縮させてしまい、子宮の筋肉が収縮し始めますが、子宮の筋肉の収縮を和らげようとどんどんマグネシウムが使われ不足状態になってしまいます。このようにして、特に更年期以前の女性は、月経前に血中マグネシウムを骨や筋肉へと移行させるため、生理中は脳内のマグネシウムレベルが低下してきます。
などなど。。。
細胞内のカルシウムイオン濃度の異常
細胞の代謝には、細胞内外に存在するカルシウムやナトリウム、カリウムやマグネシウムといったミネラルイオンが大きくかかわっています。
皆さんは高血圧の治療薬として用いられる「カルシウム拮抗薬」というのをご存知でしょうか? 細胞膜にはミネラルイオンが通過できる小さな「穴」があり、透過できるイオンの種類によって、「ナトリウムチャネル」とか「カルシウムチャネル」といった名がつけられています。これを使って必要なミネラルを自在に出入りさせることで細胞内のミネラルイオン濃度の調整をするのです。カルシウム措抗薬にはカルシウムチャネルをふさぐ働きがあり、カルシウムイオンが細胞内へ流入するのを防ぎます。
ミトコンドリアには、細胞内のカルシウムイオン濃度を適正に調整する作用があります。
ところが、細胞内のカルシウムイオン濃度が異常に高くなり過ぎると、ミトコンドリアの調整機能は破壊されてしまいます。調整機能が壊れたミトコンドリアは死滅してしまうのです。
このように、ミトコンドリアのエネルギー産生やミトコンドリア自体の生死には細胞内のカルシウムイオン濃度が強くかかわっており、カルシウムイオン濃度は片頭痛の発症にも非常に大きな原因となります。
マグネシウムとカルシウムの関係
カルシウムには筋肉を「収縮させる」作用があります。マグネシウムは筋肉細胞内のカルシウムをポンプで汲み出すように排出することから、収縮した筋肉を「緩める」作用があります。カルシウムとマグネシウムは、このように常に相反的に作用し、通常はカルシウムイオン濃度が適正に維持されています。
しかし、細胞内のマグネシウムが著しく不足すると、カルシウムイオンを細胞外に排出するカルシウムポンプの調整機能が働かなくなり、筋肉は収縮状態(緊張した状態)が続くことになります。その結果、こむら返りを起こしたり、瞼がピクピクと痙學したりするなどの症状があらわれます。
さらにマグネシウムの不足が進むと、筋肉細胞内のカルシウム濃度が高くなり過ぎて筋肉の伸縮ができなくなります。 もしそれが心臓で起きれば、心臓の機能停止(死)といった重篤な状態に陥ることになるわけです。
片頭痛の前兆や、発症の引き金となる脳血管の収縮は、脳血管細胞内のカルシウム濃度の高まりによっても生じます。それはつまり、マグネシウム不足がもたらす結果でもあるのです。
マグネシウム不足の原因は先程も述べました。 その原因としては、利尿剤などの薬剤の服薬、食事からのマグネシウム摂取量不足、胃腸の吸収障害(下痢など)があり、そのほかにも多くの生活習慣に原因があります。
たとえば、インスリンはブドウ糖とともにリンを細胞内に移動させる作用がありますが、暴飲暴食などによってインスリンの過剰分泌を起こすと、必要以上に細胞内にリンが取り込まれて血液中のリン濃度が低下し、低リン血症を起こします。低リン血症になるとマグネシウムは腎臓から尿とともに多く排泄されます。このように、インスリンの過剰分泌もマグネシウム不足を起こす原因となります。
また、マグネシウムは「抗ストレスミネラル」と呼ばれるように、ストレスが多いときほど多く消費されます。片頭痛の人は精神的ストレスを受けやすく、ほとんどの人がマグネシウム不足であるといっても過言ではないと思います。
その他、激しい運動、過労、過食など、マグネシウムを消耗する要因は、現代の生活環境の中に満ちあふれているのです。
肉・牛乳(乳製品)・卵の摂りすぎの弊害
私たちの健康にとって、カルシウムは非常に重要なミネラルです。しかし一方でカルシウムのとり過ぎが「マグネシウム不足を引き起こす」ということはあまり知られていません。特に食が細い(小食)にもかかわらず、肉類や乳・乳製品が好きという人は要注意です。
牛乳は、カルシウムを多く含む食品としてよく知られています。でも、牛乳をとり過ぎると、カルシウムは腸から充分に吸収されることなく、そのほとんどが糞便とともに排泄されてしまいます。このとき、カルシウムだけではなく、体に必要なマグネシウムなどのミネラルや栄養素も一緒に引き連れて排泄されてしまうのです。
では、もし牛乳に含まれるカルシウムを充分に吸収したとするとどうなるか? 血液中のカルシウム濃度が急激に高まります。これがまたよくないのです。
体にはホメオスタシス(恒常性維持機能)という、バランスをとって正常値に近づけようとする働きがありますから、余分なカルシウムは尿としてただちに排泄されることになります。この排泄にともない、マグネシウムや亜鉛などのミネラル、他の栄養素がやはり失われることになるのです。
このように、牛乳の吸収率がよいにしろ悪いにしろ、カルシウムを多く含む牛乳や乳製品をとり過ぎることは、結果的にマグネシウムをはじめとする必要なミネラルを失うことになります。実際、牛乳や乳製品など、カルシウム分か特に多い食品のとり過ぎによってマグネシウム不足になるケースは多いのです。
ちなみに、カルシウムとマグネシウムの摂取比は「2一1」が適切と考えられていますが、牛乳そのもののカルシウムとマグネシウムの比は「10 一1」程度と、カルシウムの比率が高くてアンバランスです。それから代表的な乳製品であるチーズに含まれるカルシウムとマグネシウムの比は、ナチュラルチーズで「20 一1」程度、プロセスチーズ「30 一1」と、もっとバランスが悪くなっています。マグネシウム不足はミトコンドリアの働きを悪くさせますので、牛乳や乳製品のとり過ぎには充分に気をつけましょう。
また、肉・牛乳・乳製品、これらにホルモン剤(エストロゲン様環境ホルモン)が含まれている可能性があり、本来月経期間中はエストロゲン濃度が低いはずですが、肉・乳製品・環境ホルモンの摂取でエストロゲンが高濃度になると、マグネシウムの体内濃度は低下します。
またタンパク質を多量に摂ると(肉食)、解毒の働きをする肝臓と、排泄を担う腎臓に、大きな負担をかけることになります。尿素が増えてくると、それを尿として流し出すために、体は多くの水分を必要とします。そして尿と一緒に、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル類も排泄されてしまうことになります。こういったことから、マグネシウム不足を引き起こすことになり、マグネシウム不足はミトコンドリの働きを悪くさせます。
砂糖のような「空のカロリー食品」の多い食事には必須栄養素が不足していますから、カロリーだけは満たされても必須栄養素は欠乏するという事態が生じます。結局エネルギー代謝が円滑に進まず、ミトコンドリアの働きを悪くさせます。
ミトコンドリアは「生命のエネルギー工場」と呼ばれ、エネルギーを産生する重要な場所です。ミトコンドリアの働きの悪さは、新陳代謝やエネルギー代謝など代謝の低下を意味します。このエネルギー代謝を円滑に行うためには、食生活でとくに栄養素・ビタミン・ミネラルを過不足なくバランスよく摂取することが大切になります。
偏った食事は、ミトコンドリアの働きを悪化させ、新陳代謝やエネルギー代謝が円滑に行われなくなります。
こうしたことから、食生活が極めて重要な鍵を握っています。
以上のように、食生活でとくに栄養素・ビタミン・ミネラルを過不足なくバランスよく摂取することが大切になります。
インスリン過剰分泌
血糖値というのは血液中のブドウ糖の濃度のことです。ブドウ糖というのは、ご飯や麺類などの主食に多く含まれる「糖質」が分解されたもので人間が活動するための主なエネルギーになります。食事をすると糖質が消化吸収されブドウ糖になり吸収され、血液によって体のあちこちに運ばれます。
血液の中のブドウ糖はそのままではエネルギーとして使えません。血管からエネルギーを使う器官の細胞に取り込まれないといけないのですが、その取り込む役割をするのが「インスリン」です。
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、食事をして血糖値が上昇すると分泌量が増え、血中に増えたブドウ糖を細胞に取り込みます。
その取り込まれたブドウ糖がエネルギーになって、人間は活動することができるのですが、余分にとってしまったエネルギー(ブドウ糖)は脂肪として蓄えられてしまいます。
急激に血糖値が上がりすぎますと、血糖の急激な上昇を抑制するためにインスリンが過剰に分泌されることになります。過剰に分泌されたインスリンは血糖を下げすぎることになります。血糖値が下がりすぎると、血糖を適正なレベルに戻そうとするからだの仕組みが働き、体脂肪から遊離脂肪酸がエネルギー源として放出されるようになります。
体脂肪からブドウ糖などエネルギー源としての生成とその消費がバランスしていれば問題を生じることはありませんが、急激な血糖値の変化にそのバランスが崩れてしまうと血液中の遊離脂肪酸濃度を高めることになります。
緩やかな血糖値の上がり方なら良いのですが、急上昇と急降下を繰り返すような食事をしていると太りやすいのです。上がりすぎた血糖値を下げるためにインスリンが頑張って中性脂肪をたくさん作ってしまうということなのです・・・
また、急上昇急降下の食べ方はすぐにお腹が空くので、食べる量が多くなってしまいますし、いつも大量のインスリンを出していると膵臓が疲れてしまい糖尿病になりやすくなってしまいます。
インスリンの過剰分泌を起こすと、必要以上に細胞内にリンが取り込まれて血液中のリン濃度が低下し、低リン血症を起こします。低リン血症になるとマグネシウムは腎臓から尿とともに多く排泄されます。このように、インスリンの過剰分泌もマグネシウム不足を起こす原因となります。
肥満の人が健康を願うのであれば、何よりも標準体重(BMI:一25 以下)まで減量することが第一優先です(スポーツなどで筋肉体質な人は別として)。
肥満であればあるほど、ミトコンドリアの増殖は抑えられてエネルギー代謝が少なくなり、さらに肥満になりやすくなるという悪循環に陥ります。
食事はカロリーのとり過ぎに気をつけるとともに、いつも満腹でいるのではなく、次の食事の前には必ず空腹を感じるようにすることです。食事からブドウ糖の供給がなくなれば空腹感を感じ、体に蓄積されているグリコーゲンや中性脂肪からのエネルギー代謝が開始されます。このとき、ミトコンドリアは栄養分が不足してきたことを認識して数を増やそうとするのです。ですから間食はダメです!
さらに、空腹時の運動は軽いものであっても、ミトコンドリアをより刺激することになり、効率よく数を増やすことにつながります。
小断食(三度の食事を一度程度抜く)は、ミトコンドリアを刺激するのに有効な手段ですが、2日を越える絶食は、刺激ではなくミトコンドリアの死滅を招く可能性があり逆効果です。分子化学療法研究所の後藤日出夫先生提唱される、朝食を「万能健康ジュース」に変えること”は、日常的に軽い刺激を与えることになり、ミトコンドリアの活性化に有効です。
標準体重以下(BMI一20 以下)の人はカロリーを制限する必要はなく、むしろ摂取カロリーを増やす必要がありますが、それでも間食は控えて、さらに空腹時には軽い運動をすることが、ミトコンドリアの数を増すためには効果的です。
食べ物では、ブドウの果皮(赤ワインにも含まれる)やピーナッツの薄皮に含まれるポリフェノールの一種レスペラトロールに、カロリー制限と同じような効果があり、ミトコンドリアの数を増すといわれています。また、大豆や大豆製品に含まれるタンパク質成分のβコングリシニンや、黒豆の皮に含まれるアントシアニン、トマトなどに含まれるリコピンもミトコンドリアの数を増す効果があるといわれています。
脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種、アディポネクチンには、ミトコンドリアの数を増やす効果があるといわれています。これも肥満になれば分泌量が減り、減量すると増えます。標準体重でいること、きちんと空腹感を感じることが、ミトコンドリアを増やす最良の方法なのです。
このように、食べ過ぎはミトコンドリアの働きを悪化させます。
さらに活性酸素は細胞にインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)を高めて、それにより糖尿病や動脈硬化を引き起こしやすい状態をつくるという悪循環になります。
インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)は、それ自体で「酸化ストレス」を促進すると言われています。
これらによって引き起こされる炎症反応は活性酸素の増加や細胞の酸化を促進する要因になります。
血液中に溢れる遊離脂肪酸も直接的に酸化ストレスを増加させる要因になっています。
血液中に大量の遊離脂肪酸があると、血液の酸化が亢進します。
また、脂質が酸化されると細胞が障害されてしまいます。
細胞を包む膜の活性酸素産生、細胞内のミトコンドリアでの活性酸素産生も促進します。
また、肥満化した脂肪細胞からは様々な生理活性物質(アディポカイン)や炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)が分泌されます。
これらの生理活性物質や遊離脂肪酸などが合わさって、身体の「酸化ストレス」を促進する要因となり、全身の障害を招くことになるのです。