そんなわけで、
ただいま脳内は完全に恋愛モード。
そんなときは、それにどっぷり浸かりたい。
そこで。
野沢 尚の『ふたたびの恋』です。
表題作ほか2篇の短編と、遺作となった次回作『陽は沈み、陽は昇る』のプロットが収録されています。
○あらすじ○
『ふたたびの恋』
脚本家・室生晃一は、休暇で沖縄を訪れる。
そのホテルで偶然一緒になったのは、かつての恋人・大木新子だった。
現在は『恋愛ドラマの教祖』と呼ばれ、「逢木新子」の名で売れっ子脚本家として活躍する新子。
一方で、40歳で落ち目の脚本家に甘んじている晃一。
距離を置きたい、でも興味は消せず落ち着かない晃一に、「シナリオ書きを手伝って」と持ちかける新子。
晃一は、困惑しながらもその依頼を受ける。
二人で話し合い、ストーリーを組み立てていくうちに、夢中になっている自分に気づく晃一。
虚構と現実が重なり合っていく。
シナリオという虚構。二人の関係という現実。
呼び戻される過去の記憶。割り切れない思い。
さまよい、絡み合う感情の行き着く先は― 。
他、『恋のきずな』、『さようならを言う恋』と、『陽は沈み、陽は昇る』のプロットが同時収録されている。
○感想○
一度始まり終わった恋が、ふたたびの恋になるまでが、
シナリオが組み立てられていくスピード感に乗せて描かれています。
なんと言っても元脚本家・野沢尚さんの小説!
最後まで読めないストーリーの結末と、伏線を覆すどんでん返しが巧みです。
蘇る苦い記憶と、それを映し出してしまうシナリオという虚構に苦しめられながら、
過去の二人、現在の二人と向き合っていく晃一の心理描写も絶妙。
恋愛感情だけなら簡単なのに。そこに同業者という立場が絡んで、二人の関係(特に男である晃一の気持ち)を複雑なものにしていく。大人の恋のお話です。
この『ふたたびの恋』以外の二作品も、とてもいいです。
ごく普通の主婦・聖子が、高校生の息子の友人・英介と心を通わせながら、自分の姿を見つめ直していく『恋のきずな』。
幼い息子を事故で失い、離婚した元夫婦の、再出発までを描いた『さようならを言う恋』。
どちらも、胸を締めつけるようなせつなさを帯びたお話です。
恋をして、始まって、終わって。
苦しいけれど、それでも。
人は前に進んでいかなければいけない。
どんな形で事に決着をつけるのか。何をもって心にけじめをつけるのか。
新たなスタートを切るために、通らなければならない痛みから逃げずに、
しっかりと受け止めていく人々の恋物語。