俺にはヘンなクセがあって、俺は俺の「悪いところ」に注目しがちです。
俺には欠点があって、俺はその欠点を修正するために生きているようなもんです。
俺はWebデザイナーとしてSOHOで生きているけど、なんとなく罪悪感があったんだ。
俺は、逃げている。
俺は、ラクな道を選択してしまった。 みたいな。
そんなこと、ないんだって。
って、お客さんが教えてくれたんだ。
「なんで俺が、おまえに発注するのか、おまえはわかっていない」って。
おまえには、特殊能力がある。
なんにもないところから、ものを作り出す能力がある。
そう言われたんだ。
どういうことかというと、お客さんがなんとなく考えているけど言語化できないイメージを、具体的なイメージに翻訳することができるんだ。
たとえば、デザインの一部について、
「ここを、ほら、なんか『ふわっと』してよ」
え、「ふわっと」って、なんですか?
ボカすんですか?
ブラーをかけるんですか?
色を薄くするんですか?
分解してズラすことなんですか?
え、なんなんですか。 どういうことなんですか?
ちゃんと指示してくださいよ。 俺自動販売機じゃないっすよ。
みたいに、ふつうのデザイナーさんって、ガンガンに追求したり、確認したりしてくるんですって。
それが、お客さんにとっては、うっとおしいそうなんです。
「ふわっと」っていったら、「ふわっと」だろ! って。
俺、それが、わかるんだよね。
「ふわっとする」ってさ、「ふわっとする」んだよね。
それがブラーだったりボカシだったり、技法はいろいろあるけど、とにかく「ふわっと」なんだよな。
「ふわっと」って、お客さんによって、違うんだよな。
わかるから「わかりました」って言って、「ふわっと」させるんだ。 わかるから、通るんだ。
お客さんとモメたこともないんだよなあ。
俺、つまり「カン」がいいんだよね。
相手が感じていることを、なんかしらんけど、わかるんだよ。 だいたい。
いちいち言語化しなくても、わかるんだ。
だから俺、いまこの仕事で食っていけてたんだね。
お客さんが「ラク」なんだってさ。 ぐずぐず言わなくても、勝手になんとかしてくれるから。
コイツなら、いちいち明確に指示しなくても、イメージ通りにしてくれるって。
全然営業もしないのに(できないのに)発注がくるのは、おまえのその特殊能力のおかげなんだ、って。
そう。 知らなかったよ。
俺、生まれて初めて、お客さんに褒められたんだ。
みんなそんなこと言ってくれねぇから、みんな俺のことを可愛そうだと思って発注してくれてるんだと、ずっと思ってたんだよなぁ。
そうか、みんな、俺が「ラク」だったのか。
俺はデザイン力はふつう、技術力は半端、独学で自信もない。
俺には、足りないところだらけで、なおかつ病気で、だめな野郎だ。
そうやって、じぶんをいじめてばかりいたんだよね。
勉強しろ、勉強しろ、努力しろ、努力しろ。 俺は俺を追い込んでばかりいました。
そうじゃなかったんだよな。
勉強も努力も、もちろんしたほうがいいし、してよかったと思う。
でも俺の「強さ」はデザイン力でも、技術力でもなかったんだ。 残念ながら。
俺の「強み」は、「実現力」だったんだよな。
ヒントが限りなくゼロに近くても、ぜったいにカタチに仕上げるっていう。
この能力は、きっと病気をしたから、身についたと思うんだ。
パニック障害とか、治し方のヒントは「ゼロ」だからね。
意味不明。 原因不明。 メカニズム不明。 発症のトリガーも不明。
不明不明、不明不明のオンパレード。 ヒントなし。
こういうのと長年付き合ってきたから、お客さんの「ふわっと」なんか、ど楽勝なんだよね。
ヒントだらけじゃん。
おれ、ちょっとラクになったんだ。
この能力が俺の強さなら、おれはもう無理しなくていいんだ。
病気のおかげで、俺は強くなったのかもしれないんだよね。
病気は敵じゃなかったんだ。
デザインの勉強も、プログラムの勉強も、もちろんずっと続けていくよ。 この仕事ができなくなるまで、勉強は続ける。
でも、もう自分を追い込まなくていい、と思えた。
俺には、俺の強みがある。
俺は、この強みを、「ちゃんと活かしてあげよう」と思った。
俺のために、お客さんのために。
俺には、いいところと、悪いところがある。
お客さんはみんな、ずーっと、俺の「いいところ」を見ていてくれたんだね。ずーっと。
だから、発注があったんだ。
みんな、優しいんだ。
ていうか「悪いところ」を見ていたのは、俺だけだった。
俺が、当の本人が、いちばん「いけすかない」やつだったんだね。