靖国神社の1円切手 | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 靖国神社の1円切手

 明日は終戦記念日ですが、小泉首相は結局、靖国神社に参拝するんでしょうか。そんなことを考えながら、こんなモノを引っ張り出してみました。


 靖国神社の1円切手


 これは、靖国神社の1円切手が貼られた電報頼信紙です。当時(この頼信紙に押されている消印の日付は1946年4月1日)郵便局が電信・電話も扱っており、電報料金は切手で納めることもできましたので、こうした事例が登場するというわけです。


 さて、この頼信紙に貼られている靖国神社の1円切手は、当初、終戦以前に発行される予定でした。しかし、実際には終戦までには発行が間に合わず、敗戦後の占領下でお蔵入りになるはずでした。


 しかし、中央と現場の連絡の不徹底から、1946年3月下旬、この切手は一部の郵便局から売りに出されてしまいます。このため、逓信院(現在の日本郵政公社に相当)は、4月15日、この切手が正規に発行されたものであることを示すために切手発行の告示を出しました。


 ところが、こうした逓信院の措置は、1945年12月15日に神道の国家からの分離を日本政府に指令していたGHQの意向を(結果的に)無視するものとなったため、GHQは激怒。GHQ側は、5月13日付で、この切手を即時発売停止にしたうえ、在庫分については破棄するよう、逓信院に指令し、およそ1ヶ月で靖国神社の1円切手は完全にお蔵入りとなりました。


 こうした事情から、この切手が郵便に使用された例は多くはありません。僕の場合も、とりあえず、今日ご紹介している頼信紙でお茶を濁しているといった状況です。


 なお、ご紹介している電報頼信紙の銘は“通信院”となっています。戦時中の1943年から終戦後の1946年までの間、終戦前後の混乱の中で日本の行政機構は猫の目のように変化していきますが、郵政を管轄する機関も、逓信省→通信院→逓信院→逓信省、といった具合に変化しています。この頼信紙が使われた時はすでに逓信院の時代だったわけですが、モノ不足の時代ということもあって、あまっていた通信院時代の用紙がそのまま使われたのでしょう。


 貼られている靖国神社の1円切手の物語とあわせて、当時の郵政職員の現場の苦労が目に浮かぶようです。