トップ技術者が脱“国畜”化するのはいいことだ | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

少し前に書いた

理系/文系対立構造と、脱・“国畜”化

2017-09-15 よもやま話(生活偏)

https://ameblo.jp/yoshikunpat/entry-12310917561.html

これにカブるのだが、読んでいてとても腹立たしい気持ちになったので、これも取り上げたい。

 

 

トップ技術者1000人流出

中韓電機、70年代から引き抜き 監視強化で国益死守は限界

日本経済新聞 2017107

 https://www.nikkei.com/paper/article/?n_cid=kobetsu&ng=DGKKZO22020410W7A001C1EA4000

 

[有料会員限定]の記事なので引用はできるだけ少なくするが、まずこのサブタイトルで腹立たしい気持ちになった。

 

何年も前に、特に韓国企業への日本人技術者の転職を監視し、阻止しようとする動きがあったのは知っていた。しかし、それがまだ続いていたとは!

 

当該記事は、次のように始まる。

 

1970年代半ばからのおよそ40年間で、日本の電機メーカーから少なくとも1000人超に上る国内トップクラスの技術者が韓国、中国を中心とするアジアのメーカーに流出したことがわかった。主に90年代以降の大量リストラであふれた日本の中核人材を中韓などが招請し、アジア勢躍進の立役者を演じた。中韓などへの人材移動は峠を越えたようだが、さらなる先端技術の国外流出が続く恐れがあり、政府も対応策の検討に入った。

 これって、企業自体が監視をするのならまだわからないでもないが、政府がやるべきことだとは私には到底思えない。国は逆に、国民に職業選択の自由を保障しなければいけない。雇用主(企業)が、従業員に対して転職先を監視し、それに制限をかけようとするのであれば、国はそれに待ったをかけなければいけない立場ではないのか。

 

もちろん、トレードシークレットの漏洩となれば、これは話は別となる。しかし、この場合にも忘れてはいけないのは、漏洩先が外国企業であれば問題になり、日本企業なら問題にならないということではない点だ。企業の機密情報の漏洩は、企業間のボーダーラインをまたぐとまずいのであって、国境ではない。

 

日本に居る優れた技術者は、日本国の“宝”と言ってよいと思うが、それ以前に人類にとっての“宝”であることを忘れてはならない。国にとっての有効活用も重要だが、それがままならない状況であれば、人類にとって有効活用がなされるように他の道を開くべきである。

 

日本企業の多くでは、ガバナンス領域に大きな欠陥がある。従業員一人ひとりが優秀であっても、その優秀さが経営陣(組織のリーダー)の能力不足で活かされないのはマズい。当然のことだが、技術者も歳をとる。否応なく、万人に時間は流れていく。日本人であれ、どこの国籍の人であれ、優秀な技術者の能力を最大限に有効活用するのが人類のためである。その有効活用が日本企業ではうまくいかず、外国企業で働く方が技術者が活躍できるのであれば、技術者は後者で働くべきだ。

 

>「高い技術力を持った人材が流出している」。文部科学省の科学技術・学術政策研究所の藤原綾乃主任研究官が76年から2015年春まで約40年の人材の動きを追跡調査したところ、日本の電機メーカーから韓国企業へ490人、中国企業には196人の技術者が移動したことを確認。台湾やタイなどにも350人が渡っていた。 

これは、その方がより人類に貢献できるのであれば結構なことなのだ。

 

>中韓への人材大移動が一気に加速したのは00年代だ。IT(情報技術)バブル崩壊やリーマン・ショックで業績が落ち込んだ統合会社のエルピーダメモリは12年に経営破綻。ルネサスエレクトロニクスは従業員数を半減させるほどの荒療治を迫られ、居場所を失った有能な半導体技術者の多くは活躍の場を求め海を渡った。

 こうなった責任は、海を渡った技術者にあったのではない。責任は全面的に、まともに会社を経営できなかった雇用主側にある。

 

この「海渡り」を防ぐのに、監視は有効な手段になり得ない。解決策はひとつ。日本企業が提示する雇用条件を海外企業の条件より良くすることだ。

 

最初に引用した私のBlogエントリーで「国畜」という表現を使ったが、ここでもその概念は有効である。日本人は日本国の「国畜」ではない。もちろん、「社畜」でもない。日本人技術者には職業選択の自由がある。その自由を享受した結果選んだ職場が海外企業であるなら、それはそれでよいのだ。

 

今回引用した記事は、次のように締めくくられている。

 

> 能力を少しでも高く評価してくれる環境に身を転じたいのは技術者の根源的な欲求だ。グローバル時代に生まれ育った若い世代ほど転職への抵抗も小さい。監視強化だけで国益を守ろうとするのは時代にそぐわなくなっている。

 

まったく同意する。社畜はまずいが、国畜もまずい!