離婚後300日以内に生まれた子どもを一律に前夫の子と見なす民法の規定について、例外的に再婚相手の子と認める新制度の受け付けが始まった。


このこと自体は私は良かったと思っている。が、一部報道をみて何かしら不愉快な気持ちになり、この文章を書いている。


実は、私はこの問題を結構前から知っていた。松下政経塾の先輩の井戸智樹さんと、奥様で現在、兵庫県議をされている井戸正枝さんと間に生まれた子どもが、正枝さんの前夫の戸籍に入らなければならないという事態が起こり、裁判を起こされ、徐々にこの問題が認知されるようになって来た。もう何年も前からこの300日規定のおかしさが直れば良いなと私も思って来た一人なのだ。


今の民法の規定が明治時代に出来たものであり、時勢に合わなくなっている事や、明らかに、今の夫の子どもと分っている子どもを、一時的にであっても、前夫の戸籍に入れなければならない新しい夫の不快な気持ちや、子どもの可哀相さなどを総合的に考えると、300日規定はどう考えても不合理なものに思え、これが撤廃される事を私もずっと望んでいた。良い、通達が出されて良かった、と素直にここまでは思う。


が、この運動をしている多くの人は、今回の事を「一歩前進」にくらいしか評価してない、と聞き、何かしら変な気持ちになってきた。離婚前妊娠の場合は、救済から外れるから、不徹底だという主張なのだ。


結論から言うと、私は今回の法務省の通達がちょうど良いと思う。多くの人の反発を覚悟で、また井戸さんも反論されるだろう事を覚悟で書くが、私個人は、離婚前妊娠にまで拡げるべきだという論調には違和感を覚える。そんな事をしたら、国家(法務省)が正式に不倫や浮気、配偶者以外の夫との性交渉を天下晴れて認めることにつながる(少なくとも容認する)と思うからだ。


私は男女の問題と言うのは「私的」なもので、別に浮気・不倫を絶対に許さない、という所までは言わない。このコメント自体が、ブログに書く文章としては、別の側面から問題なのかも知れないが、そういうものは絶対なくならないし、個々に自分の人生観にのっとって行動するのが大人だと思う。(あくまでも、不倫・浮気、配偶者以外の人との性交渉を良いと言っているのではない。念のため。あるものはあるという現実は認めているという意味。)が、法律や国家(法務省)が、不倫・浮気という行為を結果として認めるような事は、国のありようとしては、絶対にダメだと思う。


一歩前進だが、もっと更に制度を改正して欲しいなどと言う人は、自分のした行為と、そういう主張をしている事を恥ずかしいと思わないのだろうか?勿論、個々にはいろんな事情がある事くらいは分るが・・・。


離婚前に妊娠した女性が記者会見で、離婚後と離婚前で明暗が分かれたなどと言っていたが、離婚後に知り合った新しい男性との間に子を授かった人と(もし、仮に、本当は離婚前から付き合っていたとしても…)、法的に(裁判の泥沼があったにせよ)れっきとした夫がいるにも関わらず、別の男性の子ども妊娠した女性との間に大きな壁を設けた事は法務省の良識的な判断だと思う。


勿論、明らかに今の夫の子どもを何故、前夫の戸籍に?という疑問、そんな事はしたくないから無戸籍になる子どもが出る、それは可愛そうだ、という気持ちは正直、一人間としての私にも残る。が、その事と、離婚前妊娠をした人に(結果としてでも)その人の側に立った制度を作る事の是非は、やはり別問題として考えなければならないと思う。冷たいようだが、ここは大事だ。


自民党や法務省を「時代遅れ」「古い」と言って批判するような考えは明らかに「行きすぎ」であり、家族を崩壊させ、性道徳などどうでも良いとする危険な思想だ、と私はどうしても思う。家族制度も性道徳も全部崩壊すれば良いのだ、という思想をもっている人は、それでそれで一つの思想だが、私は、その思想には与しない。


さきほど、「ニュース23」を見て、男性キャスターが「法律論が道徳論にすりかえられた感じがする」などと言っていたが、何をかいわんやだと思う。法律の上位に道徳があって、道徳に反する、そぐわないと思われる事ような法律を作らないというのが、政治や行政の判断ではないか?


ゲストの女性弁護士も、離婚前に妊娠した場合、実際の夫婦関係が崩壊している場合が多い、これから生まれてくる命を優先するか、云々みたいに言っていたが、おかしな事をいうなと思った。不倫、浮気が原因で夫以外の子どもを「先に」妊娠して、そして、それが原因で夫婦喧嘩になり離婚に至るケースも想定出来るではないか?


離婚前妊娠を認める事は、結婚しても女性はどんな男性とも、いつでも親しくなって自由に子どもを産めば良いという考えを後押しする事になると思う。婚姻制度、家族制度の否定と崩壊助長だ。キライな夫と早く離婚をしたいと内心望む女性が、ためらいなく、新しい(これから結婚したいと内心望む)男性の子ども妊娠するという事も起きるだろう。家族も崩壊、倫理もクソもあったものではない。


明治の医学が発達してなかった時代に出来た民法の規定の不条理に対し、明らかに今の夫の子を、前の夫と離婚した後に、妊娠した女性に対して、救済の道を開いた事は評価したい。これまでの300日規定はあまりにおかしすぎた。しかし、夫がいる状況で他の男性の子ども妊娠した人にまで大きな顔をされては、一体、この国はドコまで崩壊してゆくのかと思わざるを得ない。