平蔵の息子・辰藏が惹かれた剣客は

               かつて江戸一の盗賊の用心棒だった

 

 平蔵の嫡男・辰藏は、最近剣の稽古に力を入れている。それは、辰藏が通う坪井主水(もんど)道場にふらりと現れた剣客・松田十五郎の剣に惹かれたからだった。辰藏の話を聞いた平蔵は、下段に構える独特の剣法から、松田が実は松岡重兵衛だと見破る。松岡h、平蔵が「本所の銕」と呼ばれ、道を踏み外しそうになっていたところを、体を張って踏みとどまらせてくれた恩人だった。その松岡が、旧知の盗賊仲間から押し込みの話を持ちかけられて・・・・・。

 

 

 

 

長谷川辰藏の成長物語

 

 

 

 

お調子者だが根はまじめ

 

 

 長谷川平蔵の嫡男・辰藏は、平蔵同様実在の人物だ。明和7年(1770)生まれ、平蔵25歳、久栄18歳の時に誕生した第一子であった。

 

 

 原作者・池波正太郎は、辰藏を、お調子者で酒と女に目がないという性格に設定した。そんな辰藏がドラマシリーズに初めて登場するのは、第1シリーズ第19話「むかしの男」。岡場所遊びが過ぎ、夜更けに帰宅して久栄に大目玉を食うなど、まさに原作の設定通りだと言ってよい。

 

 

 だが辰藏はお調子者である一方、根はまじめ。平蔵が日々「わしの留守中はお前が主だ」ときつく言っていることもあり、父不在中は自分が家を守るのだ、という意識を持って育った。「むかしの男」で、夜中に久栄の寝間から怪しい物音が聞こえると、怖じ気づくこともなく駆けつけて曲者と対峙(たいじ)した場面などからも、そんな辰藏のまじめで優しい性格がうかがえる。

 

 

 剣は坪井主水道場で念流を学ぶが、呑み込みが遅く、なかなか上達しない。悪(わる)友だち・阿部弥太郎に岡場所遊びを教えられてからは、稽古をさぼることも多かった。ところが本作の頃になると剣術の面白さに目覚める。きっかけは松田十五郎(松岡重兵衛)の「下段の剣」だった。その圧倒的な強さに惹かれた辰藏は、わざわざ松田(松岡)を訪ね、稽古をつけてもらう。後年、辰藏の剣は、坪井道場の四天王と呼ばれるほどに上達し、目覚ましく成長する。平蔵の役目に一役買うこともしばしばであった。

 

 

 史実の辰藏は成人すると長谷川平蔵宣義(のぶのり)と名乗り、27歳で江戸城西の丸に勤仕。のちの将軍家鷹狩の際に付き従ったこともある。また、57歳のとき山城守(やましろのかみ)に任ぜられ、従五位下(じゅごいのげ)に叙(じょ)せられた。

 

 

 

原作を読む!

 

 

 

鬼平犯科帳(7) 第5話「泥鰌の和助始末」

 

 

「1話で2度おいしい」濃密な読み応えの傑作


 原作は「泥鰌の和助始末」。第1シリーズ第15話の同名ドラマは、原作から和助のエピソードだけを、本作は松岡重兵衛の挿話だけを抽出ぢたもの。それほど原作は、いつにも増して中身が濃い。ドラマでは牛久の小助が松岡と組むが、原作では和助が松岡と組む。

 

 辰藏は原作にも登場するが、松岡の剣に憧れることはなく、立ち合うシーンもない。ドラマで平蔵は捕縛現場に出張らないが、原作では出張り、松岡の最期を看取る。平蔵が瀕死の松岡を抱きかかえ、旧知の2人が交わす言葉のやりとりが何とも哀切だ。

 

 

ー鬼平犯科帳 DVDコレクション 25-