びたもんどりの亀太郎

                言い寄る2人の美女の目的は

 

 門原(もんばら)の重兵衛(じゅうべえ)一味が火盗改メに捕まった。平蔵に左腕を斬られながらも、唯一逃げ延びたのは、もんどりの亀太郎。傷のために盗めができなくなり、博打三昧の亀太郎に、お今とお紋、2人の美女が言い寄ってくる。小さな盗みで亀太郎を食わせながら、かいがいしく身の回りの世話まで始めたこの2人は、実は姉妹。亀太郎が隠し持っている重兵衛の一千両を、やはり門原一味だった父親・焼野(やけの)の源蔵のために取り戻そうと画策するがーーー。

 

 

 

娯楽都市・江戸の軽業師

 

 

 

人気が高かった軽業

 


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 江戸はさもざまな芸能、技芸が大道芸や見世物として気楽に楽しめる、娯楽にあふれた都市だった。

 

 両国広小路や浅草奥山、上野山下などの繁華街には見世物小屋や芝居小屋、寄席などが常に軒(のき)を連ねていた。また、縁日や祭礼が行われる寺社の境内(けいだい)や参道、花見の名所などにも、人の集まる時期になると見世物小屋や寄席が設営された。

 

 

 なかでも人気があったのは軽業(かるわざ)だ。小さな頃から訓練を受け、超人的な体術を身につけた軽業師が見せる芸に、観客は興奮した。綱渡りや梯子(はしご)乗りはもちろん、珍しいところでは人馬の術というのもあった。これは、ひとりがもうひとりを肩の上に立たせて疾走したり、ひとりが疾走中に肩の上に乗ったもうひとりが跳躍して障害物を飛び超したりするというもので、のちに押し込みなどの悪事に応用される恐れがあるとして、町奉行から禁止されてしまった(元文5年[1740]徳川禁令考)。

 

 

 軽業師出身の盗賊が実在したかどうかはさておき、身の軽さは盗賊稼業にとって、重要な要素である。「鬼平犯科帳」にも軽業師出身の盗賊が複数登場する。

 

 

 本作のもんどりの亀太郎ももと軽業師。もんどりとは、宙返り、とんぼ返りのことで、冒頭、亀太郎は馬上の平蔵に追い詰められるが、見事な跳躍力で塀に飛び乗り、逃げ延びた。もんどりの通り名に恥じない身の軽さだ。

 

 

 さて、軽業界最大のスターは、幕末期に実在した早竹虎吉(はやたけとらきち)。天保年間(1830~1844)から大坂で活躍し、安政4年(1857)に江戸へ進出、両国広小路などで興行を行った。得意の出し物は曲差(きょくざ)し。旗竿を肩の上に立て、竿先に乗った子供に軽業や早替りをさせながら、下で三味線を弾いた。

 

 

 

もと軽業師の盗賊たち

 

 

 

 綱渡りや梯子(はしご)乗り、玉乗りなどをこなす軽業師たちは、跳躍力、平衡(へいこう)感覚、柔軟性、俊敏性に優れている。いわば、人知れず人家に押し入る盗賊にうってつけの身体能力、技術を持っているのだ。「鬼平犯科帳」に登場するもと軽業師の盗賊を見てみよう。

 

 第4シリーズ第7話「むかしなじみ」に登場する、相模の彦十の昔なじみ、網虫の久六(きゅうろく)がいる。網虫とは蜘蛛(くも)の異名で、張った網の上で綱渡りやとんぼ返りなどの技を披露する技芸を蜘蛛舞と呼んだ。また、第7シリーズ第14話「逃げた妻」の入間(いるま)の又吉も燕(つばめ)小僧の異名を取るもと軽業師だった。

 

 

 そして、忘れてはならないもと軽業師に、密偵・小房の粂八がいる。粂八は幼少期から軽業師に育てられ、芸を仕込まれた。ドラマ後半の亀太郎対粂八は、もと軽業師対決としても、大変に興味深い。

 

 

 

 

 

 

原作を読む!

 

鬼平犯科帳(8) 第5話「白と黒」

 


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金ではなく色事目当てで男に近づいた女2人

 

 亀太郎が隠し金を持ち、それを姉妹が狙うというのはドラマの創作。原作では女は姉妹ではなく泥棒仲間で、亀太郎に近づいたのは色事目当て。タイトルの「白と黒」は、お今の肌が浅黒く、お紋(原作ではお仙)は色白ということからきたもの。亀太郎の左腕が利かないのもドラマの脚色だ。ドラマでは原作に流れるユーモアを生かしながら、視覚的にドラマチックな設定となっている。

 

 

ー鬼平犯科帳 DVDコレクション 24-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大坂での興行で演じる早竹虎吉。(『大坂下り早竹虎吉』/早稲田大学演劇博物館所蔵)