久しぶりの更新です
最近みたエッセイに八木睦美さんという方が書かれた「最後の晩餐」という「潮エッセイ大賞 選考委員特別賞」のお話がありました。
作者のお父様が癌にかかり、最後の日々をご自宅で過ごされた時、「たまごかけごはんが食べたい」と言われたそうです。
作者は、たまごかけごはんを作りながら、お父様が昔作者に話されていたことを思い出します…それはお父様がが幼い頃、卵は高級品で、病気になった時以外は、滅多に口にすることができなかったことから、ある日、どうしても卵が食べたかったお父様が仮病を使い、風邪のふりをして布団に潜り込んだところ、祖母様が、たまごかけごはんを食べさせてくれたというお話です。
そのお話を思い出し、作者は「父の今の病気が仮病だったら…」という思いで胸がいっぱいになり瞳の奥から涙が溢れたそうです。
しかしお母様に「泣いちゃだめ。お父さんの前では絶対に」と、肩を優しく叩かれ、できる限りの笑顔で、点滴での栄養補給しかできなくなっていたお父様のお口にスプーン一杯のたまごかけごはんを運ばれ、お父様は懸命にそれを口にしながら「おいしいよ」と言われて一筋の涙を流されたそうです。
思わず作者も胸があつくなり泣きながら「お父さん、仮病だよね。たまごかけごはんが食べたいから、病気のふりをしているんだよね」とお父様に語りかけると、お父様は「そうだったらな…。そうだったらいいな…」と頼りない声で答えられ、作者とご家族は、お父様のこの病気が仮病であったらいい。どうか、神様、仮病でありますようにと祈られました。しかし、その翌日、お父様は静かに息をひきとられたというお話です。
作者の八木睦美さんは、お父様ももしかしたら自分の病気が仮病だったらいいなという思いでたまこかけごはんを食べようと思ったのかもしれない…と綴っておいででした。
お父様の心はどんなものであったかはご本人にしかわからないことですが…、
なんだか…色々な思いが私自身の中にも沸いてくるのを感じました。親子とか、人生とか…。
闘病で辛い生活を送られ、いよいよご自分の死期を悟られたお父様が、最後に食べたかったのが、豪華な食事ではなくて、貧しかった時代に贅沢な食事だった「たまごかけごはん」だったというその思いと、それを受けとめていくご家族の辛さとか…。