《Another Prologue》-3-


 その声にはとても聞き覚えが合った。

 顔を見なくても、誰が呼んでいるのかすぐに分かる。

 分からない訳が無い。

 だってその声は主は――――。

 私の、


「兄……さん」



 

 お父さんとお母さんが死んだ日の事は生涯忘れる事が出来ないだろう。

 つい数時間前まで会話していた人達が、もう二度と届かない所へ行ってしまう。

 人の命が失われるのが、こんなに簡単に起こる出来事だなんて思っていなかった。命はとても大切な物で、命は簡単には失われない物で、皆歳をとって皺くちゃになるまで生きているんだと、そう思っていた。

 お父さんとお母さんの死体は直接見ることは出来なかった。交通事故にあって、身体が元気をとどめていなかったそうだ。グチャグチャでバラバラでめちゃくちゃで。

 病院で治してもらってよ、と頼む私に、どんな病院でも元に戻してもらうことは出来ないのだと、お祖父ちゃんが本当に辛そうな顔で言っていた。

 お兄ちゃんはお父さんとお母さんの入った棺を見て涙をポロポロ零していた。

 気付いたら、同じように私も泣いていた。


 その日から、世界の全てが色褪せて見えた。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に引き取られ、そこで暮らすことになった。

 家とは違う匂い。家の中にはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんとお兄ちゃんがいて、お父さんとお母さんはどこにもいなかった。


 お祖父ちゃん達の家に来てから、私は泣くのをやめた。代わりに笑みを浮かべて、常に楽しそうにして、勉強も運動も頑張った。

 凄く辛くて苦しくて悲しいのに、弱い所を見せちゃ駄目だと思った。

 頑張って頑張って頑張って、頑張らないといけないと思った。

 弱音を吐いたり、涙を流したりしたらいけないと思った。

 色褪せた世界で生きていくには、頑張って明るく振る舞わないといけないと思った。そうしないとどうにかなってしまいそうだった。

 誰にも相談できなかった。

 クラスメイトや先生は「お父さんとお母さんが亡くなったのに、頑張っていて偉いね」なんて言っていた。

 違う。

 そうじゃない。

 本当の事を言おうとしても、喉から外へ出ようとしなかった。

 何が何だか分からなくて、意味が分からなくて、何で自分は生きていて、お父さんとお母さんは死んじゃって、本当の事が口から出てこなくて、みんなグチャグチャで。


 そんな状態の私を救ってくれたのが、お兄ちゃんだった。



 その日の事も、私は生涯忘れることは出来ないだろう。


「もう無理しなくていい」


 今にも泣きそうな顔で、お兄ちゃんは私にそう言った。

 お兄ちゃんが何を言っているのか最初は分からなかった。

 「無理なんかしてないよ?」と言葉を口にしている時に、お兄ちゃんの言っている意味が理解できた。

 もういいんだ、と何回も言うお兄ちゃんに、私の口から出てくるのは嘘の言葉。

 また自分は本当の事を言えないのか。

 そんな私の嘘の言葉をお兄ちゃんは無視して、私の身体を抱きしめた。


 ――もう頑張らなくていい。

 ――もう無理しなくていい。

 ――今まで気付いてやれなくてごめんな。

 ――これからは、お前の辛いのを俺も一緒に背負うから。



『栞は俺が守る』



 その言葉を聞いた時に、涙をせき止めていた何かが壊れて、私は大声を上げて泣いた。

 私を抱きしめて、頭を撫でてくれたお兄ちゃんの温かさ。

 私はその日、お兄ちゃんに救われた。




 それまで頼りなかったお兄ちゃんは、それから一切の頼り無さを捨てた。

 私の為に全てを頑張ってくれた。

 私が困っている時は全力で助けてくれた。

 

 だけど。



 私がいけなかったのだろうか。

 お兄ちゃんが私の為に全てを堪えて、飲み込んで、隠して、頑張っている事を知っていたのに。

 私には何も出来なかった。


 高校に入ってから、人間関係が上手く行っていないのか、辛そうな表情をしているのを見ていたのに。

 勉強が思うように伸びなくて、それでも夜遅くまで頑張っているのを知ってたのに。

 お兄ちゃんが頑張っているのを知ってたのに、私には何も出来なかった。


 切っ掛けは、お兄ちゃんが志望大学に落ちたことだった。

 『あんなに努力していたのに、なんで俺が落ちないといけないんだよ』。

 お兄ちゃんは呟いて、部屋から出てこなくなった。

 今まで溜め込んでいた物を吐き出すように、お兄ちゃんの言動は荒んだ。

 私が声を掛けても、今までのように返してくれることは無くなった。


 その頃からだろうか。

 私が『お兄ちゃん』じゃなくて、『兄さん』と呼び始めたのは。

 私を救ってくれた『お兄ちゃん』は居なくなってしまったのだ。

 

 兄さんは私の話を聞いてくれなくなった。

 最初は話しかけていた私も次第に何も言わなくなった。

 私は兄さんを見捨てたんだ。



 外見はあまり弄っていないのか、兄さんは伸びた髪以外は現実とほぼ同じ容姿をしていた。一目見るだけで兄さんだという確信が持てる。

 これと言った特徴は無いが整った顔付きはどこか疲れており、175センチ程ある身長は猫背になっているせいかいつもより低く見えた。

 何か合ったのだろうか。

 落ち込んでいる風の兄さんの装備を見て、私はその原因に気が付いた。兄さんが装備していたのは太刀だったのだ。恐らくはその太刀が原因で何かが合ったのだろう。


「兄さんって……太刀使い……」


 ドルーアが何かを言ったが、私の耳には入らなかった。

 私はただ真っ直ぐに兄さんを見つめる。兄さんはそんな私の視線に、怯えた様に一歩後ろに下がった。その姿を見て、何故か私の胸にどうしようも無い衝動が生まれた。


「現実でも邪魔な貴方は、ゲームの中でも邪魔だったみたいですね。誰ともパーティを組んでもらえなかったみたいですが、当然です」


 ここまで言った時、私は冷静さを取り戻した。私の言葉を聞いた兄さんの顔が、今にも泣きそうに歪んだからだった。次の言葉を言ったら、もう兄さんとは会う事は二度と無いのではないかという予感が私の胸をよぎる。だけど言葉を飲むには遅すぎて、私はそれを口にしてしまった。


「私達も貴方をパーティに入れるつもりはありませんので。話し掛けないで下さい」


 決定的だった。

 兄さんの顔に浮かんだのは絶望。今にも倒れこんでしまいそうなほどに顔を真っ青にして、口を半開きにしたままただ私を見ている。

 ドルーア達が私に声を掛けてくるけど、私は兄さんの視線に耐え切れなくなって、早足で兄さんの隣を通り過ぎた。兄さんは棒の様に立ったまま何も言わず、私が立っていた場所をただ見つめている。

 私は悪くない。兄さんが悪い。約束を破った兄さんが悪い。 

 心の中でそう叫ぶけれど、胸が締め付けられるように痛いのが治らない。ここで兄さんを見捨ててしまったら、あの人は生きていけるのだろうか。兄さんはゲームが上手だ。だけど絶対じゃない。パーティを組んでくれる仲間もいない。ソロで行動してモンスターに殺されてしまったら。兄さんは本当に死んでしまうかもしれない。

 今ならまだ間に合うかもしれない。

 だけど私の足は止まらなくて、ただ逃げるように歩き続けた。


 そして、それから私が兄さんを探そうと思った時には、もう兄さんはどこにもいなかった。


――

 

 アカツキが《ブラッディフォレスト》に落ちる少し前の話でした。




《Another Prologue》 -2-

 私達がゲームを開始して、最初に訪れる街の名前を《セーフティタウン》という。非常に大規模な街で、様々な施設が存在し、街で暮らしているNPCの数も多い。数万人のプレイヤーが一度にやってきても収容し切れるように設定されているらしく、ベータテスターのプレイヤーはその広さに驚いたらしい。


 という話を、私はβ版をプレイした友人から聞いていた。

 その友人の名前を所天気(ところ てんき)と言う。ゲーム上でのネームは『ところてん』。

 誰に対しても語尾に『っス』を付けるという変わった喋り方をしている。

 ところてんにあらかじめ話を聞いていたお陰で、《セーフティタウン》に転送された私はそこまで混乱しなくて済んだ。



「確かに、広いですね……」



 数万人収容可能というだけあって、確かに《セーフティタウン》は広かった。

 私が飛ばされたのは街の中央広場らしい。

 勢い良く水を噴き上げる噴水がすぐ側にあった。周囲を見回すと、パステルカラーの建物が立て並んでいる。窓が沢山付いていたり、建物の天辺に尖塔が付いている姿は、以前テレビで見たヨーロッパの街並みを彷彿とさせる。日本にある街よりもずっと道の幅が広い。電信柱はどこにも見当たらない。街路には頭の尖った街灯が並んでいた。

 周囲にはNPCが店を出していたり、噴水の周りで談笑したりしている。その姿からは本物の人間と言われても信じてしまいそうなリアルさが感じられる。

 そんな明るい雰囲気のNPCに混じって、鎧や武器を身に付けたプレイヤーの姿が見られる。皆周囲をキョロキョロと見回して何事かを叫んでいたり、地面に座り込んでしまっている。

 そうした彼らの姿を見て、私は街の観察を切り上げて行動を開始した。

 β版をプレイしていたところてんから、街の大まかな構造は聞いている。その上で私達は集合場所を決めていた。ネット上にもβ版をプレイしたプレイヤーが手書きの地図を乗せていたりしたので、ゲーム開始前に一度それを見て確認もしている。

 中央広場から南の方向に、一際大きな建物がある。その尖塔のすぐ下に鐘が付いている事から、私は建物が教会である事を確信する。

 集合場所はその教会だ。

 これから何をするにしても、まずは仲間と合流しなければならない。

 恐らくは自分と同じように教会を目指しているであろう仲間の顔を思い浮かべながら、私は教会を目指して走り始めた。







「大変な事になったっスね……」



 教会の元に五人全員が集合した。

 全員の重い雰囲気に気まずそうにしながらも、ところてんがそう切り出した。

 ところてんの外見は髪の色が黄土色になっている事を除けば、ほぼ現実と変わっていなかった。人懐っこそうな愛嬌のある顔に、意外とガッチリした身体つき。

 初期装備である鎧や籠手、背中に差してある大剣が少し可笑しかった。

 他の皆も殆ど外見は変わっておらず、装備している鎧が面白い。まあ私も皆と同じでちょっと滑稽な姿をしていると思うけど。

 私達は教会の入口の前で、今後の行動について話し合っていた。

 最初にプレイヤーが集めて私達に言った事は本当なのか。ブレオンがデスゲームになっていて、更にプレイヤーが感じている時間は加速させられている。到底信じられない話だ。意外なことにその場にいた全員は信じていると言った。



「悪ふざけでこんな大それた事は普通しない」



 そう言ったのは、七都海(ななつ うみ)だ。ゲーム内での名前は七海(ななみ)。

 無口だが時折毒を吐くのが特徴。長い髪を紐で括ってポニーテールにしている。選択した武器は槍だ。

 七海の言葉に全員が頷く。確かにあの男の態度は冗談や悪ふざけといった感じではなかった。事実がどうなのかはまだ分からないが、取り敢えずこの世界は危険な物だと認識し、身構えていた方が良さそうだ。

 ベータテスターだったところてんの話によると、このゲームはプレイヤーによるプレイヤー殺し――――PK(プレイヤーキリング)が可能だという。この世界には約三万人のプレイヤーがいる。時間が経過すれば、PKに手を染めようとする者が出てきてもおかしくない。

 PKが可能となるのは攻略エリアだけで、街の中に入れば死亡する危険は無いという。だが、街がいつまでも安全だという保証はない。

 話し合った結果、私達はゲームの攻略に乗り出す事になった。幸い、ベータテスターだったところてんがいる。彼によると、まずは最初の攻略エリア《ワイルドフォレスト》で新しく武器と装備を作り直した方が良いらしい。



「まずは回復アイテムを買って、それから森に行くっスよ」



 ところてんに案内してもらい、私達は《月泉亭》という街の裏路地にある小さな店で回復アイテムを購入した。

 HPを回復する回復薬。スキルを発動する為に必要なスタミナを回復するスタミナドリンク。毒の状態異常を回復する解毒剤。麻痺の状態異常を回復する麻痺消し。

 《月泉亭》にはエリアの攻略に必須と言われているアイテムが他の店よりも安値で売られている。私達はそれらをかなり多めに買っておいた。

 その後、私達は今夜泊まる宿を予約し、《ワイルドフォレスト》に向かった。



「掲示板、荒れてるなあ」

 

 

 《ワイルドフォレスト》に向かう途中、掲示板を見ながら、深刻そうに呟いたのは大百瑠亜(おおど るあ)だ。ゲームでの名前はドルーア。林檎と同じく双剣を装備している。

 ドルーアの話によると、掲示板には『ふざけんな』や『死ね』など運営を罵倒する言葉が羅列されているらしい。少ないようだが、既に攻略エリアに出たプレイヤーの書き込みも存在している。



「やっぱり太刀の当たり判定はβ版の時と同じでおかしいってさ。この中じゃ誰も太刀を選んでないし、良かったな」

「使用武器を変更するの、結構面倒っスからね。デスゲームとか加速とか、そんな事をやっている暇が合ったら、太刀の性能とかを直しておいて欲しいっス」



 愚痴る二人を尻目に、私は林檎と七海と並んで話をしていた。



「お風呂とかってどうなっているんでしょうか。入れないのはちょっと嫌です……」

「宿にあるらしい。小さいらしいけど」

「ベータテスターの話だと、宿のランクによってお風呂やベッドのランクも変わるらしいですよ。安い宿だと部屋はボロボロでお風呂は付いてなくて、高い宿だと部屋が高級ホテルのスイートルーム級だとか」

「今日の宿はどんな感じですか?

「そうですね……。まあ普通ぐらいじゃないでしょうか」

「お風呂があって、寝れれば良いや」



 そんな風に会話をしている内に、私達は《セーフティタウン》の北部に存在する、《ワイルドフォレスト》への入口に到着した。





 第一攻略エリア《ワイルドフォレスト》。

 名前の通りこのエリアは《セーフティタウン》のすぐ隣にある広大な森だ。

 生え並ぶ木々の隙間を通り抜け、背の高い草をかき分けて、私達四人は《ワイルドフォレスト》の中を進んでいく。

 防御力の高い大剣装備のところてんが先頭を歩き、モンスターからの攻撃を防ぐ壁役(タンク)の役割をしている。双剣装備のドルーアと七海がモンスターへの攻撃役(アタッカー)、そして片手剣装備の私と槍装備の林檎が支援役(サポーター)だ。



「来たぞ!



 先頭を歩いていたところてんの叫び声。

 背の高い草むらから飛び出してきたのは、グリーンスマイルと呼ばれるモンスターだ。

 二つの眼球と巨大な口の付いた、巨大な草の化け物だ。全身が粘液で包まれており、歩く度にビシャビシャと音を立てている。



『アヘアヘアヘアへ』



 私達の姿を確認すると、グリーンスマイルは嫌悪感を覚える笑い声を上げる。

 ところてんと林檎は平気そうだったが、ドルーアは「うへぇ……」と嫌そうな顔をしている。意外なことに、七海も少し顔を引き攣らせていた。



「気持ち悪い……」



 七海の小さな呟きを理解した訳ではないだろうが、『アヒャーー!!』と甲高い叫び声を上げながらグリーンスマイルが飛び掛ってきた。

 

『ッ!



 大きく口を開き、鋭い歯を剥き出しにするグリーンスマイル。

 先頭のところてんが大剣でそれを受け止めた。牙が大剣の分厚い刃に阻まれて、鋭い金属音を響かせる。ところてんの身体がグリーンスマイルの勢いに押さえて後ろに下がる。



「攻撃役(アタッカー)!

「了解!

「はいッ!



 大剣でグリーンスマイルを突き飛ばしたところてんが大きく叫ぶ。

 後ろへ跳んだところてんの脇を通り抜け、攻撃役(アタッカー)のドルーアと林檎が前へ出る。

 よろめいて動きを止めたグリーンスマイルへ、二人がそれぞれスキルを叩き込んだ。



 スキルとはこの世界での戦闘の肝になるシステムだ。

 モンスターの居場所を探る《察知》や、攻撃を回避する《ステップ》、剣で斬り付ける《スラッシュ》など、発動させるという明確な意志があって発動するスキルを『アクティブスキル』。

 現在は所有していないが、発動する意志が無くても常時発動しているスキルを『パッシブスキル』と言う。



 二人が発動したスキルは《双牙》。

 二本の剣で激しく斬り付ける、双剣の基本的なスキルだ。

 計四撃もの攻撃を受けたグリーンスマイルは、頭上に浮かべているHPバーを激しく減少させる。しかし全てを削りきれず、三割近く残ってしまった。

 

『アッヒャッハーー!



 叫び声に怒気を滲ませて、グリーンスマイルがドルーアに向かって噛み付こうとする。



「支援役(サポーター)!



 しかしそれよりも早く、ところてんの指示で支援役(サポーター)の私と七海が動いていた。

 七海が大きく開いたグリーンスマイルの口に槍を突き刺して動きを止め、その隙に私が懐に潜り込んで《スラッシュ》を打ち込む。

 システムのアシストにより、剣を握っている腕が自動で動き出す。

 茎部分の胴体を一閃。

 スキルの発動を現す、青色の光を凪かせながら刃がグリーンスマイルの最後のHPを削りきった。

 断末魔の叫びを上げ、グリーンスマイルが光の粒となって消滅していった。





「初めての戦闘にしては、皆上手いっスねぇ……。何か自信が無くなるっスよ……」



 新しい防具を制作するためのアイテムを揃え終えた私達は、《ワイルドフォレスト》から外へ出ていた。入ってからまだ二時間ほどしか経っていないが、既に全員が疲れ果てている。

 私達に指示を出してくれていたところてんが、出てきた辺りから何やら凹んでいる。

 彼は明るいが、ガラスのハートをしているため、落ち込みやすい。



「いや、やっぱりところてんが指示を出してくれたから、ここまでスムーズに出来たんですよ」

「やっぱりそうっスか!?



 ガラスのハートではあるが、単純なので立ち直るのも凄く早い。

 が、



「でも、貴方が居なくても結構行けたかもね」

「ぐふぅ、っスゥゥ」



 立ち直った所をいつも七海が再びへし折る。

 奇妙な叫び声をあげて、ところてんが『orz』のポーズを取る。



「うふふ、みっともないし恥ずかしいし、やめて下さい」

「情けない」



 追い打ちを掛ける林檎と七海に、「酷すぎるっスよォ!」とところてんが涙目で訴える。いつものパターンだ。

 この過酷な世界でも、空元気ではあるものの、皆いつも通りのテンションを保てている。皆心が強いな、と思った。

 街へ通じる道を歩き、皆でわいわい話している。私もその中に混ざっているけど、別の事が頭に浮かんで、いつも通りに話すことが出来なかった。



「栞?



 そんな私の様子に気付いたのか、七海が心配そうな表情を向けてくる。無表情で無愛想に見える彼女だけど、本当はとても優しい子だ。

 私に視線を向ける仲間達の中で、林檎は一人だけ私が何を考えているのか分かっているようだった。この中では一番付き合いが長い彼女なら、私の悩みなんてお見通しなのだろう。



「あの――――」



 七海が私に何かを言おうとした時だった。

 それよりも先に、違う声が私の名前を呼んだ。

 

「――――栞?



 心臓が跳ね上がって。鼓動を急速に早める。

 何故なら、その声は私が今考えていた事その物だったから。




次回終了です。


ブログの方を更新するのはしばらくぶりですね。

お久しぶりです。


今回更新したのは、Blade Online》二巻の発売が4月10日に決定したからです!

やったね!!


前回の発売から一年以上が経過してしまっており、もう忘れてしまった!という方が居るかもしれないのが不安ですが……。



Blade Online2 -ブレードオンライン2- (フリーダムノベル)/林檎プロモーション
¥1,200
Amazon.co.jp

表紙や帯、中身など色々な点でパワーアップしていますので、一巻を買ってくださった方だけでなく、まだ一巻を買っていないという方も是非、買っていただけたらなと思います。

アカツキが活躍したり、リンが出れたり、あの人がチラッと登場したりと見所もたくさんあるよ!




それとは別に、栞目線からの、《Blade Online》の短編を書きましたので、お暇な方は読んでいただけると嬉しいです。




《Another Prologue》 -1-

 数多のモンスターやトラップが待ち構える、人類未踏の地が広がる世界《アルカディア》。

 プレイヤー達は剣を握り、特殊なスキルや称号を駆使して、広大な《アルカディア》の世界を攻略していく。

 そんな内容のVRMMOの発売が決定した時、世界中のゲーマーは歓喜した。

 VR技術が普及し、体感型仮想現実装置を利用したゲーム機《ドリーム》から発売されているのは、激しい動きが出来ない生活系のゲームばかりだったからだ。

 PVが発表される度にネット上で大きく盛り上がり、β版の配布が決まった時などは祭りが起こった。ベータテスターのプレイヤーが作った、ゲームの様子を書き綴ったWeb サイトは閲覧数が凄い事になり、サーバーがダウンした事もあった。

 プレイヤー達が発売を今か今かと、一日千秋の思いで待ちわびたVRMMO

 その名を《Blade Online》という――――。



――――――――――



 《Blade Online》、通称ブレオンのサービスが開始される日。

 私はパジャマから動きやすいジャージに着替え、ベッドの上で寝転がっていた。別に現実で動き回る訳ではないので、動きやすい服装にする必要は無かったが、気合を入れる為だ。

 腰まである長い髪も括り、ポニーテールにしている。

 ブレオンのサービスは正午から開始される。まだ開始されるまでに余裕があるため、私は一緒にブレオンをプレイするリア友達と通話していた。



「じゃあ、皆は何の武器を使うんですか?

『うーん、俺は双剣かな。ゲームで武器を選ぶ時は常に双剣だからさ』

『私も双剣ですねー。二刀流って格好いいですし』

『槍』

『うーん、俺はβ版の時と同じく大剣っスかねえ』



 私の質問に答える四人。皆同じ学校の生徒だ。

 ベッドの上で通話を聞きながら、私も自分が使う武器を考える。

 ブレオンのPVを見た所では、片手剣が使いやすそうだった。メインの武器は片手で持ち、空いたもう片手には盾やナイフを持つことが出来る。



『栞は何使うんですか?

「うーん。私は片手剣にしようかな」



 私に質問してきた彼女は赤峰林檎(あかみね りんご)という。

 お嬢様然とした礼儀正しい口調が特徴的だ。他の三人とは違い、中学時代からの付き合いがある。彼女には何度も相談に乗ってもらったことがある。

 それからしばらくして通話を終え、私はヘッドホン型のゲーム機《ドリーム》を頭に装着する。耳から脳へ特殊な電波を送り、意識を仮想の世界へと移動させる――と《ドリーム》の説明書には書いてったが、詳しい仕組みはよく分からない。

 そして、正午。

 私は《ドリーム》の電源を付ける。特に音は聞こえてこないが、徐々に視界がぼやけてくる。眠りに落ちていくように、意識が暗い世界へと落下する。

 意識を失う前に私が考えたのは、隣の部屋にいるであろう兄の事だった――――。






 目を開くと、真っ暗な空間に立っていた。目の前には光り輝く大きな鏡が浮かんでいる。鏡には私の姿は映っておらず、暗い世界だけを映している。

 ここはプレイヤーの外見やネーム、使用する武器を選択し、キャラクターメイキングを行う場所だろう。

 《ドリーム》にはあらかじめ使用者の身体データをインプットする必要があるので、キャラメイクはそのデータを元に行われる。何故身体データを入力しなければならないのかと言えば、仮想空間内で現実の身体と身長や体重が違いすぎるキャラクターを使用すると、重心が崩れてまともに動く事が出来なくなってしまうのだ。

 キャラメイクは外見を多少弄る程度に済ませ、ネームの入力に移る。

 私の名前は矢代栞(やしろ しおり)と言う。

 栞という名前を英語にして『Bookmark』なんていうネームにしようかと一瞬考えたが、結局ネームは『栞』にしておいた。

 最後に使用する武器の選択を行う。

 最初に選択できるのは、大剣、片手剣、双剣、太刀、斧、槍だ。ゲームを進めることで、違う種類の武器も使用可能になるらしいが、まだ詳しくは分かっていない。

 選択する武器によって使用できるスキルと称号が変わってくる。スキルと称号はブレオンの世界に存在する特殊な技能や能力だ。ゲームを攻略する肝と呼ばれている。

 私は少しだけ武器一覧を見て悩んだが、結局最初に選んだ片手剣を選択する事に決めた。



『ようこそ、《Blade Online》へ』



 キャラメイキングの終了ボタンを選択すると、目の前にそんな文字が浮かび上がり、私は眩い光に包まれた。





 視界が回復し、目を開くと真っ白な壁に覆われた部屋にいた。周囲には私と同じプレイヤーらしき人達が困惑した表情で何かを話し合っている。

 ゲームが開始されたら、まず《セーフティタウン》と呼ばれる最初の街に転送されると聞いていたのだが、どうなっているのだろう。

 人が多く居るせいで林檎達を探す事も出来ないし、取り敢えず私はメニュー画面を開いて自分のステータスを眺める事にした。

 ステータス、装備、アイテムボックス、スキル・称号、オプション、色々なメニューが存在する。それらを一つ一つ眺めていき、私はある事に気が付いた。

 ログアウトボタンが存在しないのだ。そんな筈は無いとメニュー画面を隅から隅まで調べたがやはりログアウトボタンは見つからない。

 何かトラブルが起きた?

 そう考えている内に、変化が訪れた。

 私達を取り囲んでいる巨大な壁の一つに、四角いスクリーンが現れた。画面には何も映っておらず、テレビの砂嵐の様に白黒の線が動き回っている。

 黙ってそれに注目していると、スクリーンから音声加工された低い男の声が流れ始めた、



『約三万人のプレイヤー諸君。これから私が言うことを良く聞いて欲しい。一度言った事は二度と繰り返さないので、注意してくれ』



 サービスが開始されてからまだ間もないのに、もう三万人近くもプレイヤーがいるのか、と頭の隅で呑気な事を考えながらも、スクリーンから流れる男の声から尋常ではない何かを感じて、私は気を引き締める。



『まず最初に告げよう。君達は現在、このゲームからログアウトする事は不可能だ』



 男は起伏の少ない平坦な口調で、恐ろしい事を口にした。周囲のプレイヤー達が皆メニュー画面を開き、ログアウトボタンを探し始める。誰もログアウトボタンを見つけられなかったらしく、「どうなってるんだ!」「出られないのか!?」と悲鳴を上げるプレイヤーも出てきた。

 私も内心激しく動揺しながら、それでもスクリーンを凝視して男の次の言葉を待つ。



『ログアウトボタンが存在していないのは運営のミス――という訳ではない。我々が意図的にログアウトボタンを消したのだ』



 「ふざけるな!」と部屋のあちこちから罵倒の声があがる中、男にはプレイヤーの声が聞こえていないのか、気にした様子も見せず言葉を続けていく。



『《Blade Online》の世界から現実世界に脱出する方法はただ一つ。このゲームをプレイヤー諸君の手で攻略し、クリアする事だ。クリアしなければ永久に諸君らはこの世界から出る事は出来ない』



 男はそこで一度言葉を区切り、続けた。



『この世界での死、つまりGAMEOVERは――現実での死にも繋がっている』



 ざわめき立っていた周囲のプレイヤー達が一切の声を失った。誰もがスクリーンを凝視し、口を開いて固まっている。



『現実にいる諸君らに対して、《ドリーム》を通じて特殊な電波が送られる。それにより、ショック死するようになっている。

 それから、現実からの干渉は期待しない事だ。詳しい説明は省くが、君達の体感時間は『加速』されている。この世界での一年は現実での一秒に満たない。

 ゲームを攻略せずにここから出られるとは思わない事だ』



 無情にそう告げるスクリーンの向こうの男に、プレイヤー達は悲鳴を上げてパニックに陥る。

 冷静に話を聞いているつもりだった私も、身体が恐怖に震えていた。仮想の心臓が痛いくらいに鼓動を早めている。

 ゲーム中にモンスターに殺されたりしてHP0になった瞬間、現実世界の私も死ぬ。

 「そんな事が出来る訳が無い」と叫んでいる者もいる。私もそう信じたかった。《ドリーム》を通じて直接ショック死させる事が出来るなんて聞いたことがない。ましてや、私達の体感時間を加速するだなんて技術は、今だ開発されていない筈だ。



『このゲームの設定はモンスターのレベルなど一部を除いて、ほぼβ版と同じ仕様になっている。アイテムや武器などもほぼ変更はない。装備である『太刀』の設定には一部バグが検出されているが、残念ながら設定はβ版のままだ』



 最初に選択できる武器の一つ、太刀。

 使いやすさを重視したバランスタイプの武器らしいが、β版では太刀の当たり判定に不具合が生じていたらしい。私はベータテスターでは無いので詳しくは知らないが、太刀についての不満を上げたプレイヤーも多くいるらしい。



『ではこれより、君達を最初の街《セーフティタウン》に転送する。このゲームで生き残りたければ、迅速に行動する事をお勧めする。手に入るアイテムや、ポップするモンスターは無限では無い』



 今だ事態をハッキリと飲み込めない私達を置き去りにして説明は終了させた。喚き立てるプレイヤー達を嘲笑うかのようにして、私達の転送が始まった。この部屋に連れて来られた時と同じように、視界を眩い光が覆っていく。

 転送されている中で、消滅するスクリーンから流れた最後の言葉を聞いた。



『それでは諸君、存分に楽しんでいってくれたまえ』



 終ぞ平坦だった男の口調に、ほんの僅かに喜色が含まれているのを感じて、私は恐怖を覚えた。

 同時に、男の言っている事は冗談でもおふざけでもないという事を確信する。

 

 こうして私達、約三万人のプレイヤーを強制的に取り込んだデスゲームが開始されたのだった。







 



お久しぶりです。久々に更新してみました。

今回は浦部と朝倉の話です。

なろう作品のパロディ多めなので、パロディが嫌いな方は注意してください。


 【朝倉の浦部観察日記】


 私は朝倉彩花。

 この『運営』の副管理人をやっている。

 この仕事を始めてから、何度か予期せぬ事態が起きているが、私はその原因が、ある男にあるのではないかと疑っている。

 浦部健正。

 『運営』の管理人だ。

 認めたくはないが、私の上司だ。しかし、この男はどうも信用出来ない。『あの人』とは親友と呼べる程の付き合い……という話は聞いているのだが、私はこの男がいつか『あの人』を裏切るような気がしている。根拠はない。強いていうならば、乙女の勘だろうか。

 しかし、何の根拠もなく、浦部が怪しいと『あの人』に伝えるわけにはいかないので、しばらくの間こっそりアイツを見張り、怪しい行動を取らないか確かめようと思う。



 ☓月○日。

 

 浦部が休憩時間中に、とあるプレイヤーのデータを見てニヤニヤしていた。そのプレイヤーに何か秘密があるのではないかと、履歴を漁ってみると、女性プレイヤーのデータだった。

 あいつ、死ねばいいのに。




 ☓月☓日

 

 仕事を終えた浦部がこっくりこっくりと首を揺らしながら眠りかけていたので、怒鳴って起こしてやった。浦部は想像以上に驚いたようで、飛び起き、急に立ち上がると私に向かって『平素はお世話になっております!』と言いながら頭を下げてきた。お前はサラリーマンか。


 ☓月△日


 最近、浦部はよく仕事をしながらブラックコーヒーを飲み姿を私や他の研究員に見せて、そこはかとなくドヤ顔してくる。隣で一緒にそれを見ていた山口に浦部は何をしたいのかと聞いてみたら、『あれは多分、ブラック飲める俺かっけーってのがやりたいんじゃないですかね』という答えが返ってきた。

 何が格好いいか私には分からない。

 だけど、私は知っている。

 浦部はブラックコーヒーを飲んだ後、すぐに休憩室へ駆け込み、とても甘く設定されているカフェオレを飲んでいるということを。

 見ていれば分かるが、あいつは苦いものが嫌いなんだろうな。ドヤ顔うざいし、普通にカフェオレ飲めばいいのに。


 ☓月◎日

 

 息抜き兼仕様のチェックということで、今日はスキルや装備を使って研究員同士で戦闘する事にした。

 私は浦部と戦う事になった。

 『俺の勝率は百%だ』という変な台詞を呟き、浦部は太刀を手に私に斬りかかってきた。それを軽く躱し、あいつの足に蹴りを入れてやる。『ばふっ』と変な悲鳴を上げて倒れた浦部を、日ごろの鬱憤を込めて何回も斬り付けてやった。

 山口が『さすが浦部さん! フラグ回収が速い!』と言っていたが、どういう事なのだろう。

 それにしても、浦部は滅茶苦茶弱かった。



 ☓月▽日

 

 浦部がまた仕事中に寝ていた。

 椅子を蹴ってやったら、『ナーッ!!』と野太い悲鳴を上げて椅子から転げ落ちていた。

 ざまあみろ。


 七月二十一日

 

 浦部が急に私の肩を叩いて笑いかけてきた。きもい、うざい。セクハラか。

 浦部は私の好物である馬刺しを何故か持っており、それを手渡してきた。

 気持ち悪かったので、渡す理由を聞いてみたら、私の誕生日プレゼントらしい。

 そう言えば、ゲーム内の日付で言えば、今日は私の誕生日だった。ずっと作業しているから、すっかり忘れていた。

 …………。

 私の誕生日と好物を浦部が知ってるなんて気持ち悪い。

 だけど、まあ、取り敢えず馬刺しは貰っておいてやった。


 ☓月□日


 浦部が昼食に馬刺しを食べていたので、一枚貰おうとしたら凄い顔で睨まれた。

 一枚欲しいと口に出して言うと、浦部は『馬は俺のものだ!』と叫んでどこかへ行ってしまった。

 なんだあいつは。



 ☓月▲日


 浦部がサボっていたので文句を言うと、『ナンセンス。俺がしたいことは俺が決める』と言って来たので殴った。

 浦部は「紙を漉いてくる!」と叫びながらどこかへ言ってしまった。

 なんなんだあいつは。


お久しぶりです。

全く更新していなかったので、久しぶりに更新したいと思います。


・二巻の進行具合について

二巻は本編+おまけが書き終わり、推敲している状態です。

あとがきはまだ書けていません。何を書いたらいいのやら…。

挿絵に関しては現在イラストレーターさんが指定部分を描いてくださっています。表紙のデザインに関しても、ラフを送ってくださいました。良い感じです。

発売に関してはまだちょっと掛かりそうですね…。少しでも早く出せるように頑張ります。




・今までいただいたラフ


ぶれおん!-レンシア

ぶれおん!-リュウ&リン

ぶれおん!-けだまく




レンシア、リュウ&リン、けだまく、という順番ですね。

どれも指示通りに描いてくださって、雫月さんには感謝で一杯です。

まだ他にもラフは頂きましたが、順を追ってまた公開していこうと思います。

二巻で登場する《不滅龍》のプレイヤー虚空や、謎のプレイヤーカタナのラフなんかも頂いています。


それでは今回はここいらで失礼します



《リンの場合》


「か、可愛い……」


 イベントの景品である性転換薬を飲み、林檎に選んで貰った服を身につけた俺を見て、リンがうっとりしたした表情を浮かべる。感覚的に何かが変わったとかは無いのだが、服装が違うのと武器を外しているのとで何だか落ち着かない。リンの反応に顔が赤くなっていくのを感じる。


「イイッ! すごく良いッ! おに、お姉ちゃん!」


 鼻息を荒くしたリンが抱きついてくる。お前そんなキャラじゃないだろ……。

 

「うー! お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!」


 頭を押し付けてコシコシしてくる。身体は女かもしれないが俺は男なんだぞ……。そんなにコシコシしちゃ駄目よ。

 放っておくとずっとコシコシしてそうなので、頭を押さえて動きを止める。リンは残念そうにしていたが「うー。写真で我慢する」と何やら物騒な事を呟くと離れてくれた。クソ、七海の奴やっぱり写真をばらまくつもりか。


「じゃあ行ってらっしゃい、お兄ちゃん」


 今回の待ち合わせ場所は《クレイジーパーク》だ。時間的にはまだ余裕があるが、念の為に早めに出ておこう。

 そうして俺……いや、私ことアカネは女の姿のまま外に足を踏み出したのであった。



《アーサーの場合》


 それにしても、今日がゲーム内時間で四月一日、つまりエイプリルフールだからといってこの姿で栞を騙すっていうのは兄としてどうなんだろうか。林檎達に押し切られてしまったが栞には後で謝っておいた方が良さそうだ。ここでやめない当たり、私も栞の反応を少し楽しみにしているのだろうけど……。

 《クレイジーパーク》へ行くために街の中にある転移門に向かう。気のせいだとは思うのだが、女になっているせいか周りを歩いて行くプレイヤー達が自分をジロジロ見ている様な気がしてならない。小さい頃、お年玉で一万円を貰ったからゲームを買うために店に向かったが、その時に通りすがる人が皆自分の一万円を狙っているような気がしていたけど、それに近い感じだろうか。


「あ」


 前を歩いているプレイヤーの中に、見慣れた背中を見つけた。あの盾と剣は間違いなくアーサーの物だ。おーい、と声を掛けようとして、今の自分の姿を思い出してやめる。

 そうだ。今日はエイプリルフールなのだから、少しぐらいからかっても許してもらえるだろう。

 私はクフフ……と悪い笑いを漏らすと背後からアーサーに近づいていき、ポンポンと肩を叩く。振り返ったアーサーは私の顔を見て怪訝そうな表情を浮かべる。それはそうだろう。見知らぬ女性が話しかけてきたら俺だって同じ反応をする。


「あ、あのっ、《英雄》のアーサーさんですよねっ! わ、私あなたのファンなんですっ」


 きゃぴっ☆という効果音が付きそうな甘い声で、わざとらしくアーサーにそう言う。しかしアーサーはそんな私の顔を見て目を見開き、何も言わずに固まったままだ。


「ユーーーー-ッ!」

「は、はい!?」


 どうしたのだろう、と首を傾げていると、唐突にアーサーが叫んだ。もごもごと口を動かし、手をワシャワシャとしてブルブルと震えている。


「お、お前……生きてたのか? い、いやそんな……いや……まさか……」


 ボソボソと何かを呟き、視線を彷徨わせている。

 あれ、なんか反応が思ってたのと違う。


「なんだこれは……幻覚なのか? 幻覚か……? イヤ……幻覚じゃない。イヤ……幻覚か? 幻覚なのか!? イヤ……なんだこれは!?」

 

 また幻覚なのか!?

 私の姿を見たアーサーが何だか無限ループ的に幻覚幻覚言い出したので、ちょっと怖くなった私は「やっぱ失礼しまーす……」とその場から離脱する。後ろではまだアーサーがブツブツ言っているが振り返らない。

 あ、あれだ。人は誰しも心にブラックボックスを抱えているんだよな……。何故私のこの姿がそれに触れたかは知らないが、後で謝っておこう。



《らーさんの場合》

 

アーサーの恐ろしいリアクションから逃げてきた私は、街の広場でNPCが開いているクレープ屋さんの前にまたもや見慣れた背中を発見した。「メニューに乗っている全てを貰おう(キリッ)!」と十数種類はあるだろうクレープを全て購入している姿は彼女らしいとしか言い様がない。

 私は後ろからこっそり近づいていき、NPCに「早く早く(最速)! 催促と掛けてる(上手い)」などと話しかけている彼女の肩をポンポンと叩く。振り返った彼女に「あの……《ふにゃふにゃ》のらーさんですよね……? 私貴方のファンなんです」と演技をしながら話し掛ける。


「Oh……marvellous」

「んっ?」

「You look just like an angel!!!!」


 俺の顔を見たらーさんが突如として流暢に英語で話し始め、私は固まった。彼女は「Oh……yes……yes!」と呟くと、ごほんと咳ばらして私の顔を見つめてくる。


「私も貴女のファンになりました」


 すごくキリッとした表情で、しかもめっさ格好いい声でらーさんが何か言った。いやどうした。キャラが崩壊しているぞ。


「良かったら私とお茶しませんか」


 顔をズイッと近づけて、そう誘ってくるらーさんの顔は今まで見たことが無いくらいに真面目だった。私は思わず顔を引き攣らせて「失礼しました!」と悲鳴の様に叫んで逃げ出す。


「逃げないで」


 しかし横を見るとらーさんが私の隣を走っていた。鬼気迫る表情に危機感を覚えた私は、なりふり構わず敏捷性をマックスに利用してダッシュする。それでも追いつかれそうで怖かったのだが、三分程走ってから振り返るともうついてきてはいなかった。流石に私の全速力にはらーさんもついてこれなかったらしい。


《ガロンの場合》


 らーさんから逃げ切れたはいいものの、転移門からは離れてしまった。私はふぅ……と深呼吸して乱れた呼吸を整え、転移門の方へ向かって歩き出す。その時、ポンポンと後ろから肩を叩かれた。振り返ると赤い髪をしたデカイ男が立っていた。ガロンだ。

 何故ガロンに肩を叩かれたかは知らないが、取り敢えずからかってやろうか。そう思って口を開こうとして


「よ、アカツキ。変わった格好してるな」


 というガロンの言葉に固まる。

 え、いや、おい、えっ。今私は女の姿をしている筈だ。それが何故、アカツキだと分かったんだ。

 固まった私に気付いたのか、ガロンは「ああ」と納得した風に笑う。


「なんで女になってるのにアカツキって分かったのかが不思議なんだろ?」

「あ……ああ」

「簡単な事さ。俺はこいつが異性の姿になったらどうなるか、っていうのがわかるからな」

「そ、そうなのか!?」


 訳の分からない特技を持っているやつだな……。

 掲示板で「《烈火》のギルマスは女装癖がある」とか書かれていたけど、あれって風評なんかじゃなくてもしかして事実なんじゃないか……?


「当然自分が女になった時の姿も想像がつくぜ。赤い髪をショートにしたボーイッシュな感じだな」

「そ、そうか……」

「男性経験は0だろうな」

「お、おう」


 そう言うとガロンは「イベントの景品を使ったんだろ? まあ楽しめよな。はっはっは」と笑い、去っていった。

 なんだろう。友人の知らない一面……いや知りたくなかった一面を良く知ってしまう日だな……今日は。


《カタナの場合》


 途中でらーさんに見つかりそうになりながらも、どうにか転移門を利用して《クレイジーパーク》までたどり着いた。時間を確認してみると、余裕を持って出てきたおかげかまだ待ち合わせまで少し時間がある。

 がやがやと騒がしい遊園地の中を待ち合わせ場所まで遠回りしながら向かうことにした。新しいモノ好きなプレイヤー達が集まってきているせいか、人口密度が高い。カップルらしきプレイヤーを見て、私は舌打ちする。現実世界では未だ彼女いない歴=年齢の私には嫌な光景だ。

 私はリア充爆発しろ、なんて消極的な事は言わない。

 リア充は消滅させる。一匹残らず駆逐してやる!

 そんな事を思いながらブラブラ歩いていると、前から四人組の男が歩いてきた。この人数が多い中で四人が横に並んで歩いているため、周りの人は迷惑そうだ。彼らはそんなことお構い無しと言わんばかりにゲラゲラと馬鹿笑いしている。

 ああいう奴らも一匹残らず駆逐してやりたい。

 

「あ、ねえそこの君」


 男達の一人が私の顔を見て話し掛けてきた。他の奴はそいつを見て「おっやるね」見たいな表情をして肘でつついている。あーそういうノリの奴現実でもよく見るけど、やっぱりうざいな。こういう奴らに限って「何の成果もあげられませんでした」という事にはならずに何故かしっかり彼女をつくるのだから世の中理不尽だ。


「なんですか?」

 

 嫌悪感が伝わるように顔を顰めて返してやる。そんな私の返事を気にした風もなく、男は「俺達これからこの街にあるレストラン行くんだけど、プレイヤー五人で三割引っていうアイテム持ってるんだ。良かったらいかね?」と言って来た。

 いやどんなナンパと誘い文句だよ。三割引って。


「いえ……他に約束があるので」

「いーじゃん、そんな事言わずにさあ」


 いーじゃんじゃねえよ。一体己は何を根拠にいーじゃんなどと口にする。小一時間問い詰めたいわ。

 断って去ろうとするが、四人に行く道を塞がれてしまう。「いーじゃん」《「いーでしょ?」「いいよね?」「いくない訳無いよね」と謎の四弾活用して道を阻む彼らに、どうしようと困っている時だった。私に手を伸ばしてきた男の腕を、横から誰かが掴んだ。


「あ?」


 男が威圧するように自分の腕を掴んでいる人の方を向く。そこにいた人の顔を見て、私は目を見開く。


「その女の子、困ってるでしょ? 男がそんな風に強引に誘うのは、僕は格好悪いと思うな」


 青いジーパンに白いシャツ、そしてライダースジャケットを着た男か女か一瞬悩んでしまうような中性的な顔立ちをしたよく見知った顔。

 カタナが男の腕を掴んでいた。


「んだてめえ? 関係ないだろ! お、お?」


 男が腕を振りほどこうとするが、カタナより圧倒的に腕力が劣っているせいかかなわなかった。他の男達がおい、とカタナに手を伸ばそうとする。


「関係ないって事は無いんだよ。僕はその子の約束してるんだからさ」


 カタナと約束した覚えはないが、男達を納得させる為の嘘だろう。しかしそれを聞いた所で頭に血が昇っている男達が納得する筈もなく、カタナの胸ぐらを掴む。男達は「鬱陶しい」とか「うぜえ」とかいいながらカタナに顔を近づけて威圧しようとしている。それでもカタナはいつも通りの笑みを浮かべており、動じる様子はない。

 

「おい、てめえ聞いてんのか」

「んー……あのさ」


 そこでカタナは一旦区切って、



「――僕が先に目をつけたって言ってんだぜ。ツマミ食いは許さない」


 ゾッとするような引くい声色で、男達にそう言った。口元はいつも通りの笑みの形だが、その目には背筋が冷えるような冷たい色が浮かんでいた。男達は「うっ」と息をつまらせて、よろよろと後ろに下がる。

 その時、そのやり取りを傍から見ていたのか、誰かが「っべーは。女の子に集団で絡む奴らっべーだせー」「だなー。男の風上にもおけねーつーか、っべーきもい」と男達に向けて辛辣な言葉を送る。それを皮切りに、他のプレイヤー達も「ありえない」「キモい」という言葉を送る。

 「クソ、もういい行こうぜ」と分かりやすい捨て台詞を残して去っていく男達の背中に、「あんまっべー事してっと俺たちが絞めるぜ?」と言っている男二人組はどこかで見たような気がするが、気のせいだろうか。


「大丈夫だった?」


 いつも通りの微笑を浮かべたカタナが、私の肩をぽんと叩く。まさかカタナに助けられるとは思わなかった。取り敢えず頭を下げて礼を言っておく。


「あはは。いいよいいよ。それより約束があるって言ってたよね? そっちに行かなくても大丈夫?」


 そう言われて時間を確認してみると、待ち合わせ時間まで後少ししか残っていない。私の慌てた様子を見てカタナは「あはは」と笑う。もう一度頭を下げ、待ち合わせ場所に向かうとした私の耳元で、カタナがボソリと呟く。


――――可愛いんだから、絡まれないように気を付けなよ。


「アカツキ君」




 思わず足を止め、振り返る私にカタナはウィンクすると人混みの中に消えていってしまった。

 は、はは。ガロンといい、お前といい、なんで分かるんだよ。





《その後》


 掲示板上で何故か私の写真がアップされたり、アーサーが「幻覚なのか」とたまに呟くようになったり、らーさんが俺の顔を見て「deja vu……」と呟いたり妙に絡んできたりするようになったり、ガロンが性転換への思いを語ってくるようになったり、とその後色々面倒な事があったのだが、まあ取り敢えずは一段落ついた。

 まさか性転換薬一つでここまで面倒な事になろうとは。みんなの反応が怖くてあれが俺だったと伝えるのに結構時間が掛かってしまった。もうコリゴリだぜ。

 アーサーにそう告げた時の「はは」という乾いた笑いには罪悪感を覚えたし、らーさんに告げてからメッセージを送ってくる頻度が多くなったのはまあよく分からん。

 

「ふふー……私が男になったりどうなるのかな?」


 リンがそんな風に呟いているのを見たが、もう勘弁してください。





 


ブレードオンラインヤンデレ彼女がコラボする事になりました!


小説家になろうの方で既に報告しているので知っている方もいると思いますが、書籍版ブレードオンラインとスマホ用のアプリであるヤンデレ彼女がコラボします!


書籍版登場人物のレイアと、ヤンデレな彼女が衣装交換した壁紙を配布するとの事です。一足先に壁紙を見せてもらいましたが、レイアもヤンデレさんもとても可愛かったです(*´∀`)

是非見ていただきたいなあと思います!





ぶれおん!



ブレオンのコラボしてくださった『ヤンデレ彼女』ですが、ヤンデレな彼女とスマホでイチャイチャできると言うことなので、ヤンデレが好きな方は是非ダウンロードしてみてください。いいですよね、ヤンデレ。


それにしても最近このブログ…告知とかにしか使ってない気がする。


久しぶりの更新。

雫月ユカさんに宣伝絵を書いてもらったので、ブログにも乗せる事にしました。


ぶれおん!


書かれているのは書籍版キャラ、レイアです。

お久しぶりです。

もう長い間ブログの方を放置していましたが、久しぶりに更新。

小説家になろうで活動報告を読んで下さった方は知っていると思いますが、この度私の拙作がフリーダムノベル様から出版させていただくことになりました!


発売日は2月26日(火)です.。

現在、Amazonで予約が可能ですので、興味がある方はAmazonを見てくれればと思います。

《Blade Online》 ーブレード オンラインー (フリーダムノベル)/林檎プロモーション
¥1,200
Amazon.co.jp

格好いい表紙や挿絵を書いてくださったのは雫月ユカ様です。書籍版では格好いいアカツキや可愛い栞を見る事ができます!


【書籍版の見所】

・最初から最後まで殆ど全てを書き直している。

・Web版に比べて描写が増えている

・新キャラや新モンスターが登場する

・Web版のあるキャラがになっている。

・リュウ、リン兄妹との出会い方がWeb版と違う

・挿絵がある!

・巻末にちょっとしたおまけがある


と、Web版とは違う所が沢山あります。

ですので是非、Web版を読んでくださっている方は書籍版も見ていただきたいなあ、と思います。


そして当然、Web版もより一層気合いを入れて更新していきたいと思います。

攻略が進み、PKギルド《屍喰らい》《目目目》が動き出す。プレイヤー達はどう対処するのか。

そして運営の目的とは。

アカツキとリンの関係はどうなるのか。

アカツキと栞はどのように接していくのか。

……など色々明かされますので、よろしくお願いします。


このブログについて、今後もたまに更新しようと思います。《英雄》アーサーの短編やリンが初めて店を開いた日の事など、ネタはありますので、書けたら更新します。



もしかしたら他所でブログを新しく始めるかもしれませんが、その時はキチンと報告しようと思います。





 次に私が目を覚ましたのは自分の部屋にあるベッドの上だった。毛布の温かさや時計の針の音がとても落ち着いて、ふうと息を吐く。


 ベッドの隣に誰かいるのを感じで、横を見るとお兄ちゃんが椅子に座っていた。お兄ちゃんは眠り掛けみたいで、こっくりこっくりと頭を上下させている。しばらく見ていると頭が下に行きすぎてお兄ちゃんは椅子から転げ落ちそうになり「はっ!」と声を漏らして目を覚ました。その様子が面白くて少し笑うと、お兄ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くした後、咳払いして誤魔化した。


 それから私の頭に手を伸ばして優しく撫でてくれた。温かい気持ちになって凄く安心する。


 昔から何かあったらお兄ちゃんに頭を撫でて貰ってたなあ、と昔の事を思い出した。


 お兄ちゃんは私の頭を撫でたまま、ゆっくりとした優しい口調で喋り始めた。





「……大丈夫だったか? ごめんな、もっと早く助けに行ってやれなくて」


「ううん……。ありがとう。お兄ちゃん」


「今はじいちゃんもばあちゃんも家にいないよ。俺の話を聞いた途端にじいちゃんが『ぶっ殺す』とか言い出して大変だったよ……。ばあちゃんも『おじいさん。殺すよりも生きたまま苦しめないと』とか言っててな……。まあ実際にやるつもりはないんだろうけどさ」





 お兄ちゃんは私を笑わそうとしてくれたのか、おどけた口調でそういった。





「とにかく今日はもう休みな。処理とかは俺達で何とかするからさ」


「ん……。ありがと。お兄ちゃん……お風呂入りたい」


「……あ、ああ。そうだな。大丈夫。お風呂は、入れてあるからすぐ入れるよ」





 お兄ちゃんは私が折部先輩達に襲われたのを凄く気にしてくれてるんだって言うことが凄く分かって、何だか泣きそうになった。


 私はベッドから立ち上がる。


 お兄ちゃんが「歩けるか?」って心配してくれたけど、頷いて部屋から出る。


 それから洗面所で服を脱いで、お風呂の中に入る。


 


「……っ」





 一人になった途端に折部先輩達の事を思い出して、身体が、ガタガタ震えて怖い、怖い、





「栞風呂入ったか? 何かあったら読んでくれ」





 お兄ちゃんが洗面所の中に入ってきて、お風呂にいる私に向かってそう言った。私は震えを堪えながら口を開く。





「お、おにい、ちゃん。ごめん……せ、洗面所の所にいて……」


「っ……。分かった」





 それからお兄ちゃんの足音が近付いてきて、お風呂と洗面所のドアの前で「ここにいるからな」と言ってくれた。お兄ちゃんが近くに居てくれると思うと、震えが止まって、私は身体を持ち上げてお湯で身体を洗った後、ゆっくりと湯船の中に入った。


 お湯の温かさが身体に染みていくような感覚。身体がほんわりと温かくなってくる。


 それから湯船から上がって身体を洗う。





「ひ」





 お、おり、折部先輩達に、わ、私の身体をベタベタと触られて……。


 その途端自分の身体が凄く汚い物に思えて来て身体が身体私の身体私のか





「栞……? どうした?」


「っ」





 お兄ちゃんの言葉で我に返って、荒い呼吸と胸の鼓動を何とか落ち着かせる。





「なあ……栞」


「何……お兄ちゃん?」


「この前……ごめんな、試合見に行けなくてさ……」





 ごめんなと繰り返すお兄ちゃん。


 なんで謝るの。私が悪くてずっと怒ってたのに、なんで、謝るの。私からちゃんと謝らないといけないのに。





「約束破ってごめんな」


「……あんなに無視とかしたのに、お兄ちゃん、なんで謝るの? 怒ってないの?」


「……約束破られた栞の気持ち考えたら、無視されるのと同じくらい悲しかったんじゃないかなって思ってさ……ごめんな」


「っ……私こそごめんなさい……。無視してごめんなさい……。ごめんなさい……」





 涙が零れてきて、それからずっと泣いてて訳の分からないことを言っていたと思う。


 お風呂から上がった後、お兄ちゃんに練るまで一緒にいてもらって眠った。


 頭を撫でられるのも好きだけど、脇腹を優しく摘まれるのも実は好き。お兄ちゃんにはやめてって言ってるけど、無理やりやめさせたりとかはいつもしない。その日は私からして貰った。


 嫌な夢も見なくて、久しぶりに気持ちよく眠ることが出来た。










 折部先輩達は退学にこそならなかったけど転校する事になったみたいだ。結局あれから私は彼らと会うことは無かった。


 あの日から家族以外の男性が怖かったり、クラスメイトが信用できなくなったりしたけど、それも私は乗り越えた。








 中学三年生になるころには心から信頼出来る友人も出来たし、一緒にゲームをする男友達も出来た。友達が苛められた時は絶対に見捨てずに、一緒に戦った。苛められる痛みを知ったから、他の人が苛められる痛みを理解できたんだと思う。


 私は、あの頃の私よりも強くなることが出来たと思う。


 


 


 


 部屋に閉じこもってしまった兄さんを見て、あの時、私を助けてくれたお兄ちゃんはいなくなってしまったんだと、私は理解した。今の兄さんは酷く駄目な人間だ。


 だけど……。


 確かにあの時のお兄ちゃんは存在していて、今でも私はあのお兄ちゃんが大好きだ。





 


 


―――――――――――――――





どうも、夜之兎です。少しずつ更新していた栞の短編もようやく終わりました。思いついて書いたので、荒い所が多いですが勘弁してください…。


これからも時たま思いつきで短編を書いていきますが、『こいつの短編を書いて欲しい』とかあったら教えて下さい。書くかもしれません。後、質問とかあったら気軽に言ってください。


オリジナルの武器や防具、スキルなども募集してます。


稚拙な文章ですがこれからより良くしていきたいと思うので応援してくださると嬉しいです。