<年金プア 不安の中で>66歳男性 昼夜問わず働くしか



東京新聞さまホームページより


 老齢年金の受給額が少なくて日々のやりくりが大変な「年金プア」が増え続けている。日本の公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建ての構造。自営業者や非正規労働者などの国民年金加入者の老齢年金は老齢基礎年金だけなのに対し、会社員や公務員などの厚生年金加入者は老齢厚生年金が上乗せされる。このため、他の収入や貯蓄が少ない場合は、高齢の自営業者らが貧困に陥りやすい。「貯金がいつかなくなるのでは」という重い不安を抱える年金プアの苦しい生活をシリーズで紹介する。 (白井康彦)

 雨漏りがする古い借家。東海地方で一人暮らしをする六十六歳の男性が暮らしぶりを説明してくれた。「会社員だった人たちは年金だけの収入でもよく旅行に行きますが、自分は考えもしない。まともな買い物もしない。食べ物以外で買うのは下着類くらい。必死で節約し続けないと、近い将来に行き詰まることが確実ですから」

 住まいは二階建て住宅で、家賃は月六万五千円。「一人で暮らすには少し広いのですが、仕事で使うスペースもあるので仕方ありません」という。男性は、運送会社から仕事を請け負う個人事業主の運転手。週一日の休み以外は、運送会社に午前六時半に出向き、午後十一時ごろに帰宅する日々だ。「時間に追われているので、食べ物はほとんどコンビニ弁当です」

 国民年金に入るのは自営業者や非正規労働者など。満額の老齢基礎年金(国民年金)でも月約六万五千円にすぎない。この男性の場合は、老齢年金はそれより少し多く、月九万三千円だ。若い頃に会社勤めで厚生年金加入者だった期間があるため、老齢基礎年金に三万円あまりの老齢厚生年金がプラスされている。

 ただ、貯蓄はわずか百二十万円ほど。経済的な援助をしてくれる親族もなく、「働かないと毎月五万円ぐらいの赤字で、貯金が二年で尽きてしまう計算。だから働くしかありません」。

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 早朝から深夜に及ぶ仕事ながら、経費や税・社会保険料、家賃、車のローンなどを差し引くと手元に残るのは年金を含め月十万円ほど。仕事は正直、体にこたえるが、続けるつもりという。ただ、「体が資本の仕事だけにどれだけ続けられるのか。あと十年できるのか、五年しかできないのか、そのあたりが一番気になります」。病気になったりすると職を失いかねないだけに、先行きへの不安は尽きない。

 「年金プアは見えにくい貧困層」。貧困問題に取り組む市民運動家らはこう口をそろえる。生活に必要な資金の足らない分を年金以外の方法で何とか確保せねばならない。主なものは、労働報酬、預貯金の取り崩し、親族からの援助、の三つ(右上の図参照)だが、十分、得られるとは限らない。年金が少ないため困窮生活を強いられている高齢者数について、NPO法人ほっとプラス(さいたま市見沼区)代表理事の藤田孝典さんは「生活保護基準のラインやそれ以下の暮らしをしている人は七百万人はいる」と指摘している。

<公的年金の平均年金額> 厚生労働省がまとめた2015年度の公的年金事業の概況によると、同年度末の老齢年金の平均受給月額は厚生年金受給者が約14万8000円であるのに対し、老齢基礎年金(国民年金)だけの受給者は約5万1000円にすぎない。公的年金の2階部分がない国民年金と2階建ての厚生年金の老齢年金月額は約10万円違うのが現状だ。65歳からの20年間では2400万円もの差になる。