1か月で8人の強姦殺人を繰り返した「大久保清」という男【大量殺人事件の系譜】


日刊SPAさまホームページより


 俳優・高畑裕太容疑者の強姦致傷事件に衝撃が走った。「女性を見て欲求を抑えきれなかった」と、高畑は容疑を認めているという。欲求をコントロールできずに起きる性犯罪は多いが、過去に、それが連続強姦殺人に発展した事件があった。

◆大久保清連続強姦殺人事件(1971年)大量殺人事件の系譜~第5回~


 1か月あまりのあいだに、8人の女性が相次いで強姦され埋められる。超弩級の惨劇に、社会は震え上がった。

 高畑は「歯ブラシを持ってきてくれ」とホテルのフロントの女性を部屋に呼んだが、稀代の色魔、大久保清(当時36歳)は「絵のモデルになってくれませんか」などと、言葉巧みに女性に声をかけた。その数150人、うち30人と肉体関係を結んだ。ベレー帽をかぶり画家のような出で立ち、かたわらには高級スポーツカーがあった。

 窃盗や2度の強姦致傷などで前科4犯だった大久保は、1971(昭和46)年3月2日に仮出所し、1か月もたたない3月31日に群馬県内で最初の殺人を犯す。17歳の女子高生に「アトリエに行こう」と誘ったが、アトリエなどないことを指摘され凶行におよんだ。公判記録などによると、逃げる女子高生を70メートル追いかけて殴り、仰向けに引き倒して馬乗りになり、全身の力で首を締めつけたという。

 2人目の犠牲者は、わずか6日後に出た。そして次々と消える女性。被害者は16歳から21歳だった。こうして、わずか41日間に8人が絞殺され、遺体は山麓などに埋められた。強姦する際、女性が反抗・抵抗すると大久保は逆上し、無慈悲に命を奪ったのだ。




◆鬼畜・大久保清とはどんな男だったのか

 大久保が逮捕されたのは5月14日だった。ある被害者の兄が、不審者の車のナンバーを記憶していたことがきっかけだった。大久保は当初、次のように強姦については認めていたが、殺人については話さなかった。

「毎日一人ずつやっていたから、たくさんの被害届が出ているだろう。俺が考えてもこれは強姦になるなと思うのは8件ある。そのほかは和姦だが、警察では強姦と見るだろう」

「俺が声をかければ、10人のうち6、7人の女がついてきた」

 逮捕容疑は当初、わいせつ目的誘拐や強姦致傷の罪だったが、取調べで大久保は素直に供述をすることはなかった。終日黙秘したり、嘘の供述をして、そのたびに捜査員を現場に走らせるなどして、てこずらせた。5月26日になってようやく、大久保は強姦殺人と死体遺棄を自供したのである。結局、強姦を繰り返した挙句、計8人を殺害したことが明らかになったのだ。

 それまで経験したことのないような残忍な、犯罪史上最悪ともいわれる連続殺人事件。鬼畜・大久保清とはどんな男だったのか。雑貨店などを営む両親に、幼少期はもちろん、成人してからも「ボクちゃん」と呼ばれ、溺愛されていた。定時制高校を中退し東京で就職したが、17歳のときに銭湯の女湯を覗き、翌年には万引きで、ともに逮捕された。20歳になると最初の強姦事件を起こし、執行猶予つきの有罪判決を受け、半年後の強姦未遂で3年間服役することになった。




◆「俺には人間の血は流れていない」

 振り返ってみると、強姦殺人の予兆は過去に見て取れるが、一方で、スタンダールの名作『赤と黒』を好み、詩集を自費出版するなど、文学へ傾倒していたこともうかがえる。出所後、結婚し長男にも恵まれた。落ち着いたかに見えたのも束の間、32歳でふたたび強姦容疑で逮捕、2度目の服役をした。そして仮釈放直後に、戦慄の連続強姦殺人魔となったのである。そのときに「ボクちゃん」が使用したスポーツカーも親が買い与えたものだった。供述では、「俺には人間の血は流れていない。冷血動物なんだ」と、大久保はうそぶいたという。

 時代は、高度経済成長していく過程にあった。女性を誘い出す手口や、そのために使う車も、時代を象徴するように新しいタイプの犯罪だった。

 作家・佐木隆三氏の生前、大久保清について話をうかがったことがある。事件現場をくまなく歩き、事件の深層に迫ろうとした佐木氏はこう言った。

「大久保の内面だけは、なかなかつかむことができなかった。精神鑑定で『責任能力あり』とされ、それ以上の分析が行われなかったからです。大久保の心の中を明らかにできなかったのは、非常に残念でなりません」

 嘘で塗り固められた大久保の人生。1973(昭和48)年に死刑が確定し、3年後に東京拘置所で執行された。享年41。

 大久保は確定死刑囚になってからも反省の色を見せることなく、「被害者は自分のほうだ」などと発言。死刑についても「立派に死んでみせる」と強がっていたが、刑場に連れ出される際に恐怖で腰を抜かしたと、語り草になっている。大久保には人としての心があったのだろうか。

<取材・文/青柳雄介 photo by l’interdit via flickr>