ユーロ圏の経常収支について、ユーロ導入(99年)以降の動向を見る。
詳細は以下のOECDのサイトを参照。
http://stats.oecd.org/Index.aspx?QueryId=51660
グラフの単位は10億ドル。
大きな特徴として、四角の点線で囲った01年から11年までを見てみる。
主にドイツ、オランダ、ベルギー、オーストリアといった、欧州北部の国が経常黒字であり、一方ポルトガル、イタリア、ギリシア、スペインなどの欧州南部の国が経常赤字に陥っている。
つまり、ユーロ圏の中で南北経済格差がある。
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なぜこうした格差ができてしまったのか、経済大国のドイツと経済危機のギリシアを例に考えてみる。
【ユーロ導入前】
ユーロ導入前は、ドイツはマルク、ギリシアはドラクマという通貨を使っていた。
ここで仮に、1マルク=100ドラクマ、という交換レートだったとしておく。
ドイツの自動車メーカーA社が車を作り、1台1万マルクでギリシアに輸出し販売したとする。
その結果、A社は1万マルク=100万ドラクマを稼げた。
こうしてドイツは輸出が増えて経常黒字が拡大し、ギリシアは輸入が増えて経常赤字が拡大する。
しかし、ドラクマのままではドイツ国内で使えないので、100万ドラクマを売って1万マルクに換える。
そうなると、ドラクマが売られてマルクが買われるので、「マルク高ドラクマ安」になる。
それが続いて、仮に1マルク=200ドラクマ、にまでなったとする。
すると、ギリシア人からしてみれば、「今までは100万ドラクマ出せば1台買えたのに、今や200万ドラクマ出さないと買えない。高すぎるから、ドイツ車を買うのはやめよう」と思う。
そうなると、ドイツは輸出が減って、経常黒字が縮小する。
一方で、ドイツ人からしてみれば、「今までは1万マルク持っていても100万ドラクマにしかならなかったが、今や200万ドラクマになるので、思い切って今度の休みにギリシアに旅行に行こう!」と思う。
そうなると、ギリシアのサービス収入が増えて、経常赤字が縮小する。
このようにして、異なる通貨を使うことで、経常黒字・赤字が拡大・縮小して、国同士でバランスが取れるようになる。
【ユーロ導入後】
ところがその後、ドイツとギリシアは、独自のマルクとドラクマを止めて、共通通貨のユーロを使うことにした。するとどうなるか。
ドイツのA社は、1台1万ユーロでギリシアに輸出し販売したとする。
その結果、A社は1万ユーロを稼げた。
こうしてドイツは輸出が増えて経常黒字が拡大し、ギリシアは輸入が増えて経常赤字が拡大する。
ここまでは同じである。
しかし、ユーロのままでドイツ国内で使えるので、ユーロを売ったり買ったりする必要はなく、為替レートの変動はない。
そうなると、ドイツ人にとっては、「1万ユーロは1万ユーロのままで変わらないから、ギリシアに旅行に行っても特別得なわけではない」ということになる。
そうなると、ギリシアのサービス収入は増えず、経常赤字は縮小しない。
このようにして、共通通貨を使うことで、ドイツの経常黒字は拡大し、ギリシアの経常赤字は拡大する。
つまり、元々競争力ある産業を持っていたドイツは、ギリシアという「国内同然の」市場を得て、ガンガン輸出して儲けられるようになった。それに対しギリシアは、元々公務員天国でドイツほど競争力ある産業がないため、ドイツの輸出攻勢を受ける一方になってしまった。
ユーロ圏という1つの地域の中で、経済面で強いドイツが、弱いギリシアにガンガン物を売って儲けることで、お金がどんどんドイツに流れていって、格差が拡大したのである。
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話をユーロ圏全体に戻すと、オランダ、ベルギー、オーストリアといった北欧諸国がドイツと同じ立場であり、ポルトガル、イタリア、スペインといった南欧諸国がギリシアと同じ立場だと言える。
こうした北欧諸国が南欧諸国にモノを売ってお金を稼ぎ、お金が南から北へどんどん流れていくことで、グラフのように経常収支の格差が拡大していったのである。
12年から13年にかけては、南欧諸国の一部が経常黒字に転換してきてはいるが、ドイツが最大の経常黒字国であることには変わりない。
このように考えると、果たして、共通通貨のユーロを導入したことが、南欧諸国にとって本当によかったのだろうか、という疑問が生じる。
たしかに、ギリシアなどにはドイツのいい製品がどんどん入って来るようになり、スペインなどはECBのマネーが入ってきて不動産バブルになり、一時的にいい思いをしたかもしれない。
しかし、ギリシアなどからはどんどんお金が出て行き、それを補うために対外的に借金をする必要が出てきた。もちろん、政府も含めてである。
そうなると、返済を迫られた時に返す原資が国内になくて、債務不履行(デフォルト)に陥ってしまい、今のようにIMFやEUの支援を受ける代わりに、緊縮財政をしいられ、景気対策ができずに景気が悪化してしまう。
スペインなども所詮はバブルだったから、ECBがお金を減らしたこともあってバブルは崩壊し、景気の落ち込みは大きくなった。
経済力に格差がある中で、通貨を統一してしまうと、強い国はますます強くなり、弱い国はますます弱くなってしまう。政治的理念はともかくとして、経済面だけを考えれば、現状のようなユーロ圏の構成にはやはり無理があると言える。