「群雛」2014年11月号爆速レビュー!! | モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん

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 はーい、月末発売の「群雛」著者チェック版による爆速レビュー。
 今回のレビュー、とくに私の書き過ぎ感自覚してます…すみません。
 でも、それだけ、語るのに熱くなれる作品揃いなんです。ほんとうに読んで! 今回もいいから!


■「商業誌からインディーズへ!「あにめたまえ!天声の巫女」が切り開いた道」
 Rebis
 ぎゃあああああ、これなんて私だよっ! うわあああ、共感しちゃいすぎ!
 しすぎて生きるのが辛い! と取り乱すほど。
 私も実はむかし、このRebisさんと、スケールは違うかもだけど、こういう目に会いました……。
 でもこういう人多いんだよなあ。知り合いにも多い。漫画家は特にそうだよね。
 とりあえず、経緯をよく知らない人はこれをしっかり読んでください(血涙)。いや、編集さんも大変なんですよ。でも漫画家も作家も大変なの。今私、すこし編集の真似事をしてどちらも大変だと思い知ってるなう。
 経済構造が変わっているからなんだろうけど、だからといってそれ言っても現在生きて書いてる人たちにとっては「だからどうすればいいんだよっ!(吐血)」なの。そこらへんは、とにかくこのインタビューを読んでくださいというしか。
「作品を人質に取られる」って、私もそうだった……。そう思う苦しみは、あるのです。でもそれを書く勇気はすごい。といいつつ、私も昔実はやった。その結果も大変だったなあ。今でも大変だけど。
 ともあれ、なんとかやってくしかないですよね。道をさらに開いていくしか。

■「異世界構築質問リスト3」神楽坂らせん
 連載、しかも実用ツールだけど、読み物としても、異世界構築ってのがいかにシンドいか、ってのもわかる。その異世界構築ってのが現実世界に対しての批評行為であることがさらにはっきりして、さすがだなと思う。「悪魔の辞典」とか「アンサイクロペディア」のような毒々しさはないけど、それのいい方向の面白さがあって、読んでて楽しい。でも同時にこれを読めるように翻訳して、テキストで表現するのはすごくシンドいと思う。まさに労作。
 ファンタジーは「いい意味での絵空事」なのだ、ってことを、これを読んで認識してほしいなと思う。しかもこれで構築したものを、容赦なく崩壊させるのもSFやファンタジーの作家なんだぜ。それがどんだけしんどいか。それでも書くのが作家の才能なんて実在するかどうかわからんものと違う、「業(ごう)」なんだよ。といいつつ、私はこれ読みながら、やっぱり崩壊させたくないよ以前に、私の世界の作りこみの甘さを感じました。
 ファンタジー世界の作りこみって、それだけでほんと楽しいのね。楽しすぎて指輪物語やナウシカの原作が最後まで読めてない私が言ってもしかたないけど。でもAKIRAも士郎正宗もいい意味ですごく作りこんだファンタジーでSFなんだよ(こっちは全部読んだ)。
 こういう作りこみ系の楽しさ、分かる人が増えてほしいなあと思うのです。というか「法医学魔法」だけで空想(妄想)が捗りすぎてしまう。だいたい「魔捜研(魔法捜査研究所)の女」なんての書いたら面白いに決まってるじゃないですかー!(ああ妄想がー!!)でもこれ、誰かやってるよね……。すごくそういうヒント満載。これを読まないのは損。
 
■「我思う、故に我あり」竹島八百富
 うぎゃああ、これは何を書いてもネタバレになるー!!
 手術を控えた患者の病棟からの手紙。そのやり取りのヒステリックさが行き着くのは……。
 できのいいホラーだと思う。完成度も高く、キレよくうまい。しかもしっかり落差もある。はじめに思ったのをちゃんと上回ってくれた。
 こういうのはホント、短くキリッとしてるのがいいんだよね。でも商業出版だと長編化して、と言われがち。でもキレの良いまま長編にするのは凄まじく難しい。確かに腕は上がるだろうけど、でもそれ以前に短編で楽しんでおきたいと思う。
 そういうところで「群雛」の存在意義の通りの作品だと思う。このレビュー始めてから群雛らしさはキレの短編、空気感のある中間小説と思ってたけど、もし雛が巣立つとしたら、このキレをもったまま長編という空でも壊れない「未知の技量という羽」を得た時なのかもしれない、と感じるところも。
 でも、それ以前にそのキレの良い短編を楽しんでからのほうがより楽しいのです。それでこそインディーズ、雛の巣としての群雛の楽しみの一つだと思う。そこでこの作者と、この作品についてすこし語りたいなーと思ってしまう。

■「サラリーマン・エレジー」婆雨まう
 不動産屋さんのおっさんたちの世界なんだけど、うわあ、すごくリアルなおっさん臭! このままベロンベロンに酔っ払って新橋のSL広場前で「ソウリダイジンにはニンメイセキニンがあるんじゃないんれすかねえ」とろれつ回らない口でTVインタビューに答えてしまいそうな。でもホントのオッサンてのは、他人の作品にこうして「若々しくていいなあ」と思っちゃう存在なんだぜえ、と思いつつ、こっそり私もちまちま小銭をためて鉄道模型買ってたりするところは、そのままそれがフィギュアになれば作中のオッサンにぴったり(涙。
 ほかにもおっさんの描写がまさにエレジーたるところです。題名に偽りなし。それぞれのオッサンの造形が出来たうえで、続きは本編、なんだけど、うぐぐと悔しいほどオッサンの造形がいい。

■「激闘!宇宙駆逐艦」
 はい、その私、オッサンが書いた宇宙駆逐艦を舞台にしたSFです。そうです美少女を書いているのはたいてい美少女ではなくオッサンなのです(悲しい現実)。でもね、ほんとうに美しいものを書くには、それなりの年季がいるのです……私は年季も足らんけど、それでも若さ、幼さ、それ故の美しさに憧れてしまうのです。戦闘美少女とはそういうものです。……わああ、こんな言い訳して私、すごくオッサンくせえー(自爆)。
 でもそんなSF戦記も今回で最終回。私なりに目いっぱいです。力不足なりに、がんばりました。
 ありがとう編集のみなさん。ありがとう、SF戦記。ありがとう、月刊群雛。
 (でもまだお世話になる気ありですまぬ)

■「医者の不養生」 初瀬明生
 うぐ、ホラーっぽいけど、情念を感じる中間小説。そう、推理にすると、オープニングで「ノックスの十戒」を気にしすぎてしまうもんね。あれって原則であって例外はいっぱいあるんだけど、意識しないと書きにくい(実は私はこれをあんまり意識してなかったので推理作家協会員としてアレなのです……(反省))。でも推理としての方向を切って、憎しみの方向に切り替わってるのはインタビュー通り。そして中間小説ともまた違う軸かも。作者のモチーフのとりかたに興味を惹かれる。

■「kappa」王木亡一朗
 インタビューで、ホラーではないというところで「kappa」とした、河童やカッパではなくとあるけど、そうかホラー苦手な人もいるんだよなあ、と前の群雛のレビューで「これはホラーだ!」と書きまくってしまったことを反省。
 しかも中学生、学校が舞台、しかも夏! しかもプール。さあ条件は揃った! 「スクール水着あるいは競泳水着リーチ」ですよ! って、うわああ、またオッサンしてしもうたー!(さらに反省)今回書きすぎてますね。すみません(どん底)。
 オープニングの水面に揺れる陽光がしっかり鮮やかにイメージできるけど、今ありがちなラノベというかエロゲ風味と違った、すごく素直なジュブナイルの方向が見えるので、その展開を期待して読んだ。それがモチーフをどうふくらませていくか。モチーフが中間小説ともまた違う感じがするけど、深く読む読みどころがある。中学生ってこうだよなあ、というところもいい感じ。これが高校生でないところがまたいいよね。

■「走る天使」塩川剛史
 競馬小説というのがあるのは知っててもほぼ読まないんだけど、こういうほぼ自分からは読まないジャンルも読んじゃえるのが雑誌の楽しさ。
 で、これ、すごくいい! エッセイと言いながら、パドックの構造を使った道具立てがぐっとくる。パドックって競走前の馬の周りに人が集まるのね。円形劇場みたいに。山田正弘先生にそそのかされて生まれて初めて競馬場に行って、そそのかされるままに買って、やっぱり私的にギャンブルもダメだと思ったけど、その時のことを思い出すと、おおー、うまいモチーフだ! と思う。
 で、それをすごくきっちり書いてあるのが楽しい。エッセイなんだけど、読ませる、というか、物語にもなってるし、世界もある。この読んで漂う空気もいい。なによりも読み物として質が高い。秀逸。うまい! こういうのを発表して、読めるのが楽しい。完成度が高い。

■「識字率と婚姻のボトルネック」笠井康平
 うぐぐ、これ、すごくわかる気がする! と思う作品。私も同じ感じを思ったことがある。そういう書ききれないけど共感できるものを表現するのが文学だと思う。くそ! だから遺伝子的アルゴリズムっていやなんだよ畜生! みたいなところに深く共感。まさにボトルネック。いいところ書いてるなあ。
 すごくびっしりしたテキストに込められた強さが、そのモチーフ独特のものについての、作者の意識を緻密に描き出している。
 で、読んだあとなんだけど。
 昔、テレビの「さんまのからくりTV」で「褒めて伸ばされたいです!」と師匠のすさまじいシゴキに対して答えた男の子を思い出した。みんなそうなんだよね。ツボをついたシゴキでないと、やる方もやられた方もただシンドいだけだったりする。で、どっちも不快になるだけで、なんの益もないという。
 この人の場合、私は読んで、さらにすごくいいものが書ける「伸びしろ」も感じさせられた。
 着眼もモチーフもすごくいい。問題意識もいいし。この視座からいろんなものが更に書けるとも思う。
 でも、私には、ほめて伸ばすなんて力のいることが出来ない。私はこの域だと、「ただ褒める」しか出来ない(すまん上から目線)。私の力量不足なので、誰か私より力量のある人にやってもらうと、さらにすごくいい書き手になると思う。すでに読んでごちそうさま、と思えるほどなんだけど、だからこそ、もっと伸びてほしいと思う。多分この爆速レビューではじめてこういうこと言うけど、でもそれだけ見込めるだけの「強い力」がある。私みたいな下手くそだと、そこでただ「前半部を整理して」「構築のために刈りこんで」「説明が説明にならないように」云々、なんて今じゃだれでも言えることしか言えない。でもそういう平凡な批評は、この人にはぜんせん必要じゃない。そんなのはこの人はちゃんとわかってると思う。だから事実書けてる。
 だからこそ、ほんとうに力量のある人のもっとツボを付いた批評があると、この人は、きっと表現のすごいレベルに達すると思う。今回のレビューを描いてて、ほんと、私の力量不足を感じてしまった……でも、こういう作品に会えるのがまた群雛のいいところ。だから私は群雛を読む価値があると思う。群雛もこういう力のある人がいるのだから、ぜひ、批評の腕のある人、腕試しで読んで批評してほしいと思う。
 批評するということは、批評する力量を見られることでもあるのです。この人にはもう私のレビューではなく、ほんとうの批評が必要だと思う。書けてるんだけど、さらに先に行けそうな感じがすごく良い。
 あ、これ読んで、「そうなると私が他の人のを褒めてるのは、それはこれに比べてレベルが低いってことになるよね」なんてと誤読する人は、この人の作品とともに「群雛」をまるっと読んで、読みの浅さを反省してほしいと思う。褒めるにはちゃんと褒める理由がある。そこでそもそも「うまい」と「すごい」は違う軸のものなんです。うまいものはやっぱりうまいし、それで十分読み物として楽しい。
 ただ、それとは全く別の軸で、「文学的にすごい」って軸がある。この作者にはその軸を感じ、「文学的にすごい」を目指せると思うから、私はこんなに語っちゃうのです。

■「Moulin Rouge」青海玻洞瑠鯉
 詩集。
 うぐ、エ、エロい! いや、直接いやらしい言葉、単語は書いてないよ、ぜんぜん(どきどき)。
 でもまさに「色香」というのが香ってる。しかもすごくパンチのきいた。そこで椎名林檎とかともまた違う感じなのがさすが、と思う。当然「あなたの遺伝子を、私のな~かで」(「禁断のエリクシア」May'n・作詞Gabriela Robin・作曲菅野よう子)ともちがうのね(うわ身も蓋もない)。
 それを感じながら、それがどう効いているのかをさぐっていくのが詩の楽しみ。
 そして散った行のむこうに奥行きがある。その奥が表現として豊か。タイトル通りのキャバレーの風景。生々しい欲望とか、そのあいまの哀歓とか、それが混じった濁った空気感が感じられる。
 前に群雛に載った時よりさらに洗練されたようなキレも感じる。題材としてはチョイくだけた感じにしたのに、そこに以前とかわらぬ品格があるのがまたいいなと思う。ネタ的には少しでも間違えるとただの下品になるもんね。でも、品がある技量で描かれたこういうモチーフは、すごく脳にキクのです。いやエロい。(すけべえですまん)
 インタビューにもあるけど、すごく歌詞の世界に近いところがあって、それがまたいい。
 
■「コンテンツとビジネスと――アジアの片隅で」志村一隆
 ビジネス分野。こういうのをまとめるのは大事。導入部分がいいので、するするっと入る。そうか、そういう状況がやっぱりあるのか、という。そこから具体的な数字もあって説得力がある。
 読んだ後、語りたいことはこれまた私にはいっぱいあるんだけど、ただまずここを押さえてくれないと話にならんよね、というところを押さえてるので、そこからどうやっていくかの足がかりになって良い。
 私自身むかし、オタクっぽいとかオタクとして不十分とか色々言われたけど、でもそういうオタクの認識と世の中の認識って、決定的に致命的にズレてるのね。そういうズレをかかえたまんま、どこでも話が通じる(特に普通の企業とか役所とかでも)と思うのがオタクのだめなところで、そういうズレを再認識するという価値があると思う。オタクが「行ける!」と思っても、現実にはうまくいかないことが多い。そのズレをどう克服するか。そのヒントがある。
 ビジネス書の意義は、そういう常識と思っていることの整理と再認識にあると思うのです。

■表紙 長鳥たま
 なんと、このきれいな表紙、そういうタイトルなのか!
 たしかにそうだけど、含蓄があるなあ。(しばし考えこむ)
 でも、それはそれでいいよね。タロットではこのセレモニーのあとはアレだし。それはそれで面白いし、すごく嬉しいかも。
 エールだよね、これ。いつもながら表紙に恵まれた「群雛」です。 
 
■あとがき
 たなべさん、ほんとお疲れ様です…。いつも切れたデザインかっこいいです(私は41歳になって今更「+DESIGNING」読んで、ぜんぜんセンスが追いつかず心が挫けそうです) ほんとにいい仕事です。晴海さんも、風邪にはお気をつけて。読書できるぐらいですむ風邪のうちは若くていいですよ。フリーとかインディーズは風邪が一番怖いです。竹元さん、渋い、シブすぎるよ……「異世界構築」と一緒に読むといいですね、その本。そして鷹野さん、10月はこうして駆け抜けますが、もうすぐ11月、そしてその次にはもう年末が来☆る☆ぜ☆!(いや洒落にならん……)


■で、総括
 ごめん、本当にごめん……おっさん視点で。でも、伸びる力のある人には伸びて欲しいのです、というのも説教臭いおっさんだよね。
 でも、世のオッサンはそれなりに、先輩たちから預かった技芸技量をなんとか残していきたいと思ってしまうのだと思います。自分が使い切れないそれを、なんとか残したい。それで説教臭くなる。ほんと、ゴメンねです。すまぬ。
 とはいえ、ほんと、群雛の雛がどんどん育ってるなーの感じもします。でも、またふわふわとか中間小説とかキャッキャウフフも読みたいんですよ、本当に。
 参加したことで雑誌も、書き手も、みんな育っていく。そして育つ場でありながら、ただのインディーズ雑誌じゃない。ただの創作系の雑誌じゃない。そこはやっぱり「群雛」なんだと思います。

 今回でレギュレーションで私は次号多分乗らないと思うけど(3ヶ月連続は載らないのね)、でも1ヶ月、また何か「群雛」で書きたいなあ、と思うネタを探してみます。


 幅が広く奥が深い「月刊群雛」。いつもながら、参加しても読んでもやっぱり楽しいのです。