ラーメン屋は多く、人生は短い。でもラーメンとの出会いは、至福である。 | モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん

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ブログネタ:おススメラーメン屋教えて! 参加中


 ラーメンといえば、私の場合、伊丹十三監督の映画『たんぽぽ』を思い出す。
 これがこりまくった映画で、実に面白い。
 興行成績はふるわなかったらしいが、物語を作る仕事に就く過程で、何度も見返しては、物語を見る側に戻って見て、楽しんでいる。



タンポポ (映画) - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%9D_%28%E6%98%A0%E7%94%BB%29

伊丹十三の「タンポポ」撮影日記
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 激しい雨の中、タンクローリーが疾走している。
 その車内で、山崎努の運転手(ゴロー)が、助手席にいる渡辺謙(ガン)にラーメンの正しい食べ方、という記事の載った雑誌を読ませている。
 それでラーメンが食べたくなり、道の途中のラーメン屋の前でローリーを止める。
 店の中にはいると、その筋のモンのような男、安岡力也(ビスケン)ほか数人たちが宮本信子の女店主(タンポポ)をいびっている。
 よさないか、と言った山崎努が、安岡力也を撃退する。
 
 そして、そのラーメン屋に泊まったところ、翌朝、そのラーメン屋の事情が明らかになる。
 小さいはずだが名店だったはずのラーメン屋。しかし店主だった旦那さんがなくなり、未亡人となった宮本信子が店をやっているが、どうにも儲からない。
 そこで子供が『お母さんの作るラーメン、日本一だよね』というのだが、山崎は答えない。
 子供が学校に行って、ゴローとガンは、正直にタンポポにラーメンが美味しくない、と言うのである。
 そこでタンポポが、ラーメン屋の再興に力を貸してくれと頼み込む。
 そこで、ゴローがガンのラーメンの食べ方から学べと言う。
「なぜ気づかない」
「なんです?」
「何でスープから飲んでるんだ。スープの熱くないラーメンはラーメンではない!」

 そこから映画はラーメン屋の再興を機軸に、理想のラーメン屋を目指して進んでいく。
 
 一回でいい。そのタンポポのラストみたいなラーメン屋で、ラーメンを食べたい。
 
 じつはよくいく海老名のVinawalkというショッピングモールに、ラーメン屋街がある。

 その上がちょうどTOHOシネマズで、
 映画を見る前にすごい豚骨臭。

 あそこまでキツイと、ちょっと引くことがある。

 といいつつも、そこに時折ラーメンを食べに行く。

 んまい。

 さすがモールに出店してペイできるだけあって、昼間は満員。
 豚骨なんてぶっちゃけ精肉の廃棄物みたいなもの。
 そこからあんなに美味しいスープを作っちゃうんだから、ラーメンドリームというか、ラーメン屋さんはすごいなと思う。
 やはり、命を頂くのが料理であると私は常に思うが、ラーメンは肉だけでなく、骨まで命を頂く、すばらしいものだと思う。

 小倉に行く前、ユキさんとデートしたとき、博多の屋台街も歩いた。
 あのときは、ユキさんのことで頭がいっぱいだった。

 そして小倉に駆け落ちした。

 そこで食べたラーメンは、ユキさんおすすめのラーメンも食べたけど、もっぱら家でゆでる袋ラーメンだった。

 九州生活で、お店のラーメンは数回しか食べていない。
 ビンボーで、もっぱら家で袋ラーメンを煮る生活だった。
 それで、いろいろ工夫したなあ。
 
 そういや、『最終兵器彼女』に袋ラーメンをゆでるだけの屋台が出てくる。あれもまた、心に残る店である。

 ラーメンは、そば・うどんを超える、カレーと並ぶ国民食であり、しかもラーメンは昔はもっと安くて、幸せな食べ物だった。
 そして今も、ほかの気取った料理より、素朴で暖かい、庶民的な食べ物である。
 できれば演出などなく、味のみで勝負しているようなラーメン店を見つけると、そのときの幸福感は心に刻みついてしまうほど嬉しい。

 
 まず店に入って、頼むのはラーメン。
 チャーシューメンとかネギラーメンといったトッピングは、まず基本であるラーメンを食べて、味を確かめてから楽しむものである。
 まず店内にはいると、鍋の湯気がすでに店内を、店の外のキリキリ来るような冬の寒さから私を解放してくれる。

 ラーメン、というと、店主も店員も、ハイと言って、その後黙々と作る。
 最近は寿司屋をまねたようなかけ声『らっしゃーい!』『はいラーメンいっちょーう!』みたいなものがある店があるが、それよりも、少ない言葉で神経を集中して作ってくれるほうが、私的には好感が持てる。
 しゅんしゅんと湯の煮える音だけがしているのが理想l。できればTVもついていないほうがいい。
 お客も、繁盛店はそれでいいが、もっとも至福なのは、まだ開拓されていないが店主がこれから売り出そうとしている店が最高である。
 麺をゆでながら、チャーシューを切る。チャーシューは注文が入ってから切るのがより望ましい。
 ネギもそうだ。
 ネギは、やや多めが良い。それを刻んで、麺がゆであがる寸前、どんぶりにダシとスープを合わせ、すぐに最適にゆであがった金色の麺を滑り込ませる。
 トッピングは少ない方がスープと麺のみでの勝負に賭ける店主の意気込みを感じられるので、まず初見はラーメン。
 シンプルにメンマ少し、チャーシュー、ネギ(必須)、そしてノリをのせ、『おまち!』。
 ここまでできれば3分ぐらいですむのが理想。

 出されたら、箸をとり、まず香りを聞く。臭いとまでは行かないが、しかし濃厚なあのラーメンのスープの匂い。
 湯気でメガネが曇らぬよう、メガネはあらかじめ外しておく。
 まず冷水を一口飲み、口をすすぐ。
 そして、喜久蔵ラーメンではチャーシューを麺の下に隠すが、私はそこまでせずともと思いつつ、メンを少しとって、フウとふく。
 このとき、メンがスープをからめながら、それでいて湯気が収まってくるぐらいが理想。
 そしてすっと口に含む。
 スープの味と、メンの舌触りを堪能。メンはアルデンテよりも柔らかめ、しかし表面はツルツルがいい。
 このツルツルはスープがもたらすのがいい。
 そこからずっとすする。スープの味が口の中にぐっと入って来る。
 豚骨にしろ醤油にしろ味噌・塩にしろ、味わいがそれぞれにある。
 それがぐっと食をそそる瞬間。
 ラーメン店と私の戦いは、ここでほぼ決まる。

 これだと感じたら、あとはラーメンは速戦即決。ラーメン相手に長期戦は無意味。麺が延びるばかりだからだ。
 ぐっとそそられてメンをもうひとすくいし、それを口に含み、喉に送ってからレンゲでスープを頂く。
 スープはレンゲに少々。基本的にラーメンは麺から食べ、麺を食べきってからスープを飲みきる。
 スープは残す派の人もいるが、私は飲みきる派。
 あんな栄養のエキスを残すのは勿体無い。
 豚骨にしろダシにしろ、すべて大地と海と命の恵みだ。

 そして、メンを食べ進める中、ついにどんぶりに口を付け、スープをさらにいただく。
 冬の寒さで固まった身体の胃の中に、春の日差しが差し込むような瞬間。
 これぞ至福。

 ラーメンの醍醐味は、さらにメンを平らげ、チャーシューを味わい、メンマを噛み、ネギで口中をさわやかにしながらさらに頂く流れである。
 そして最後にぐっとスープを飲み干す。

 ごちそうさま。

 この言葉は必ず口にしなければならない。店主への感謝である。
 
 やはり麺類は、夏には冷やし中華やざるそば、ざるうどんとあるので、こういうラーメンなどは冬に食べたい。
 特に終電近くの駅前の夜泣きラーメンなどは、本当に大人になった自分を感じつつ、これは子供には早いよなと思いながら頂く絶品である。
 
 そういうラーメンはなかなかないのだが、しかしそれに近いラーメンはいくつかある。
 でも、そういうラーメンはいずれ人が集まる。
 私としては、人が少ないうちにそういう良店を見つけ、人が増えたころ、店主に店の繁盛を祝しつつ、さらなる店の開拓にすすむのが私のポリシーである。
 最近は在宅半分、勤務半分の仕事、それも勤務地がすぐなので、こういう出会いは少ない。
 残念であるが、しかしこういう冬のラーメンは、グルメというよりも、凍えた魂をやわらげてくれる、実に良いものである。

 おすすめのラーメン屋というテーマから脱線しかけているが、こういう体験の出来るラーメン屋は、最近は昔ほどはずれがすくないので、出会いやすいと思う。
 ラーメンドリームから生まれたチェーン店も侮れない。決して私はそれを否定しない。
 美味しいものは美味しい。
 そして、味は、その日の体調でものすごく変わってしまう。
 実はラーメン屋を選ぶ上で、一番大事なのはその日の自分の気持ちなのだ。

 人生は短く、ラーメン屋は多い。
 私は、出来れば余り待たずに美味しく食べれるようになった、昨今のラーメン屋の進化を嬉しく思っている。
 また、そういう味に厳しいラーメン屋が監修するインスタントも侮れない。
 味は、そうしてすそ野を広げていく。それを私は否定しない。
 
 じつに、ラーメン好きには良い世の中になったと思う。
 
 私の好きなラーメン屋は、ふらりと立ち寄ったラーメン屋で、こんな体験が出来れば、という事なので、おすすめというような固定した店はない。
 どの店も、味という観念と感性の商売なのだから、おすすめを固定するのは無理だと思う。でも、食べたいと言う時、そこにあるラーメン屋は、昔よりはずれ率は低い。
 内装に凝っていると言うほどではないが、ちょっと清潔な店を選べば、間違いはない。
 それが強いて言えば、私のお薦めラーメン店かもしれない。

 またおいしいラーメンに、出会えますように。