逢坂剛 『逆襲の地平線』 (新潮文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

還暦過ぎの文庫三昧

 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

 新潮文庫の2月新刊。和製西部劇『アリゾナ無宿 』の続編であり、物語の語り手のジェニファ、賞金稼ぎのストーン、記憶を喪失しているが日本人であるらしいサグワロと、前作で馴染みとなった3人が今回も活躍する。実を言うと、『アリゾナ無宿』をそれほど評価していなかったはずなのに、その後の彼らがどうなったのかを知りたくて、つい購入してしまった。そして、前回と同様に、日本人作家が書く西部劇小説にどんな意味があるのかと疑問を感じつつ、娯楽作品の面白さをそこそこに味わって読み終えていた。

 今回の3人は、マキンリー牧場の未亡人エドナに雇われて、10年前にコマンチにさらわれた彼女の娘・エミリーを取り戻すための旅に出る。騎兵隊を退役した元軍曹から、はぐれて放浪するコマンチの一行の中ににエミリーらしい少女を見たという有力情報が寄せられたのだ。彼らコマンチは居留地に強制収容されることを嫌い、ゲリラ戦を展開しながら、仲間との大同団結のために移動をつづけているというのである。

 かくして、ストーン、サグワロ、ジェニファ、エドナとその息子・ウォレン、牧童のラモン、もう一人の雇われ者・ジャスティと、計7名の旅が始まる。コマンチに遭遇しての銃撃戦があり、エミリーに接近して逆に捉われの身になってしまう危機があり、コマンチの足取りを地道に追いかける追跡行もあって、我々読者は過去に観た西部劇映画の記憶を総動員してその情景を思い浮かべつつ、物語の世界に身を浸すことになる仕掛けである。途中からは、エドナとマキンリー牧場を手に入れたいトライスターの一味もエミリー争奪に加わり、さらに覆面で顔を隠した謎の敵も現れて、ミステリーの要素も加わってくる。折しも、開拓の名の下にインディアンには受難の時代であり、著者はその点にも配慮しつつ、騎兵隊とインディアンとの激突と、エミリー救出劇とを巧みに組合わせて、クライマックスへと導いてゆくのだ。このあたりの盛り上がりと内容の濃さは確実に前作以上だと思う。

 エドナとエミリーの親子がどうなるか?、あるいは覆面男の意外な正体とは?、というところまではここで書くことは控えておこう。ストーン、サグワロ、ジェニファの主役3人が、それぞれの特技に応じた役割を演じきっていて、安心して楽しめる作品に仕上がっていたことを強調しておこうと思う。

  2008年2月17日  読了