【小説】クライマーズ・ハイ
![]() 横山 秀夫 クライマーズ・ハイ ![]() 角川エンタテインメント クライマーズ・ハイ | _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 内容(「BOOK」データベースより) 1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 近年、整備不良出しまくりでブーイングを浴びつつ、最近はなんかもう資産切り売りで、なりふり構ってない感じの日航ですが、まさにその日航がおこした「ほぼ人災」、この本で取り上げられている墜落事故は、衝撃的な出来事でした。 なんせ現場は山の上。最初は墜落現場がどこかさえ分からぬまま、現場にレスキューが到着したのは14時間後だったそうです。 524名のうち生存者は4名だけでしたが、自衛隊のヘリに吊り上げられて救出される生存者の映像は、今でも忘れません。 そんな状況のなか、新聞社は壮絶な報道合戦を繰り広げていたんですね。 現場を見た記者の書く雑感の迫力。新聞社社内の勢力争いや、くだらない嫉妬や妬みによる記事掲載の見送り、一面記事の取り合い。 主人公はもともとドロップアウト気味なアウトロー。ベテランなのにデスクにもならず、いつまでも記者という現場にこだわり続ける。そんな主人公が、半ば上司からの最後通牒をつきつけられたがごとく、墜落事故の全権デスクに任命される。 若い記者を現場に走らせる。墜落現場は登山素人には厳しい山奥。当時は携帯などないので、登山して現場を見た後は、下山して記事を電話で伝えねばならない。 締め切りが迫る。地元の事故報道なのに地元記者の言葉ではなく、共同通信から配信された記事を使わねばならないのか。 そのとき電話が鳴った! 流石、元地元の新聞記者だけありますね。 新聞の裏側を余すことなく描くとともに、記者同士の絆や葛藤、軋轢を浮き彫りにします。大人の世界だな~ 複雑だったのが、記事作りに躍起になっている主人公に写真週刊誌をつきつけ、「これ(写真)の威力には勝てねーよ」とすねる編集者。 確かに。自分もリアルタイムで救出映像や事故写真を目撃した世代です。当時はまだ新聞などあまり読んでませんでしたけど、映像の衝撃に比べるとやっぱり活字媒体はどうしても分が悪い。 しかし、この物語を読むと、活字の世界もやりがいがありそうでいいな~と思います。 主人公をはじめ、登場キャラは絵に描いたような複雑な不幸を背負ったステレオタイプ気味だったりはするのですが、元記者ならではの、無駄な形容や装飾がない筋肉質な文体で淡々と語られる数々のエピソードに、仕掛けと分かっていながらもほろ苦い泣きを誘われてしまいます。 ハッピーエンドとはいえないですが、何とも言えない読後感もいい。 ![]() |