【読み物】失敗の本質―日本軍の組織論的研究

戸部 良一, 寺本 義也, 鎌田 伸一, 杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎
失敗の本質―日本軍の組織論的研究
いやあ、なかなか読み応えがありました。
いわゆる太平洋戦争における5つの有名な戦闘をキーワードに、なぜ日本軍の作戦が失敗(=敗北)したのか、戦略的、組織論的なアプローチで、まじめに研究したものです。
経営者はもとより、部下を持っていたりチームを預かったりしている人、つまり、少しでも経営的な視点を必要とする現代人には、おすすめです。
ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦、の6つのケース(いずれも日本軍の大敗北におわる)を題材にして、いったい何が敗因だったのかを単純に「物量が…」とかではなく、グランドデザイン、戦略立案、目的設定、組織構造、管理システム、組織行動、組織学習などの観点から、日本軍の問題点、米軍の優位点を浮き彫りにしていきます。
約400頁の前半、ほぼ半分は、6つのケーススタディについて詳細な経過と引き起こされた個別の問題、判断ミスについて淡々と分析。当時の断片的な情報源からよくここまで再現したものです。
第xx軍、とか~師団、~方面軍とか、かなり大戦略チックというか軍事オタクな用語が沢山出てくるので、軍事の知識や興味がない人はちと辛い。
ごちゃごちゃしていて分かんないところは読み飛ばし気味でも本書の価値は享受できるのでご安心を。
前半部分でもかなり客観的な問題指摘の記述が織り交ぜられていますが、後半からは、怒涛の分析が開始。
分析結果として述べられる日本軍の問題点とは、戦略の浅はかさ、目的設定のあいまいさ、情報伝達や補給の軽視、過去(日露戦争)の成功体験の呪縛による戦略および戦術の硬直性、教育機関の問題による学歴偏重、人情論・精神論の蔓延、年功序列・上級指揮層の高齢化、グランドデザインの欠如による兵器体系のアンバランス、などなど。
うーん、どっかに似たようなことが…あ、そうか。高度成長期からバブル崩壊して経済戦争に大敗北した70年~90年の日本と、かなりダブってますな。
若い経営者の会社はそうでもないでしょうが、年寄りの経営者が牛耳っている会社は、多かれ少なかれ「うんうん、わが社にも日本軍と同じ状況あるある!」って感じがひしひしと。
実際、本書の最後のほうでちょっと強引に日本企業の栄枯盛衰との関連付けや、これからの日本のあり方などについて触れていますが、それをわざわざ指摘されなくとも、途中からはかなり実社会の問題点とダブらせながら読み進んでいたので、この最後の部分はいらなかったかもね。それくらい想像できるでしょ!ってコトだと思う。
しかも、後半はしつこいくらいに客観的問題分析のリフレインだったので、最後に「主張」が入り込んだことで、ある意味、画竜天睛を欠いた気がして、なんだかもったいないです。
何万人の命が散った悲惨な戦いだろうが、この戦争で受けた精神的ダメージは計り知れなかろうが、淡々と敗因を論理的に分析するスタイルに終始する!
本書の趣旨としては、それが潔い気がします。
