【小説】翳りゆく時間
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日本ペンクラブ, 浅田 次郎
翳りゆく時間(とき)
優雅で激しく、メランコリックでせつなく――。大人の想いを描き切った傑作短編7篇。by新潮社
いいっすねえ。こういうの。
りんご追分(江國 香織)…未来のない愛に苦しむ女は夜明けに浄化される。ってなんかこう、細かい妥協の積み重ねが、もとに戻らないところまで行き着いてしまった感じが、何とも退廃的でいい。
煙草(北方謙三)…過去を清算するために、男は異国へ旅立つ。世代も境遇も違う男同士の微妙な距離感が心地よい。この人達、このあともずっと浮き草のように異国をさまようんだろうな、という無限ループ感も感じさせる。
みんなのグラス(吉田修一)…迷いを隠して、青年は旧友との再会に臨む。いいねえ。必ず学生時代には男2人、女2人の仲良しグループってのが出来ますよね。で、だいたい誰ともくっつかずに離れていくっていう。ノスタルジック。
スモーカー・エレジー(阿刀田高)…ほのぼの系。この本の中では一番平凡かも。でも学校教育のウンチクは役に立ちます。
マダムの喉仏(浅田次郎)…伝説のマダムは秘密を抱いて孤独に逝く――。この人はホントこういうワンナイトスタンド系というか、一夜の夢のおわりみたいな話が上手いです。ほんとにこういう人(マダム)がかつていたのかも、なんて錯覚させる。
天国の右の手(山田詠美)…姉の夫に恋する女はパラダイスを夢見る。なんか、いろんな意味で痛いです。女性ってホント内面に宇宙を持ってますね。ブラックホールに落ちていくような感覚。
煙草(三島由紀夫)…おおっと!最後はそうきたか!やはり前出の6人と比べると異質。この人はホント、青臭い哲学臭が漂っているね。きらいじゃないですが。順番的には、本作は途中のアクセントで、最後は浅田次郎でよかったんじゃあ…
とまあ、無理やり、それぞれの感想めいたことを書いたが、読後感はタイトル通り。怠惰で退廃的ですらある、過ぎ去りし時間へのノスタルジー。
良質の小説を詰め込んだという意味では、かなりお買い得な一品。
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