【小説】親不孝通りディテクティブ

北森 鴻
親不孝通りディテクティブ
高校時代からの腐れ縁「鴨ネギコンビ」、長浜でカクテルがウリの屋台を引くテッキ(かもしだてっき)と、結婚相談所の不良調査員キュータ(ねぎしきゅうた)という二人が博多の街で繰り広げる、ちょっと危なくてセンチメンタル&ハードボイルドな連続短編。
個性の全く異なるテッキとキュータという二人が、それぞれの一人称で交互に語っていくその手法が、掛け合い的で、楽しい。
それぞれの一人称ってのはいいですね。キャラの心の台詞もそれぞれの語り口で語らせることによって、キャラへの感情移入度が飛躍的に高まります。
テッキは、博多でカクテルを出す一風変わった屋台を引くようになる前は、東京に何年かいっていた。よって、テッキのパートは標準語表現で、どこか語り口もシニカルな(地方の人が抱くであろう)東京っぽさを漂わせている。
東京にいるあいだ、何をしてきたのか?ちょっとアングラな世界にも足をつっこんでそうな思わせぶりな過去をちらつかせる。キャラ設定も思慮深さや冷静さを強調しつつ、かといってそればかりでもない、良いバランス調整。
対して、ばりばり博多っ子のキュータが語るパートは博多弁。「便所の100ワット」的な性格、熱しやすくイキオイ重視のキャラ設定もそれに拍車をかける。
また、ところどころで「よっしゃあ!オレの作戦は完璧じぇ」みたいなキュータの心の叫びがフレーズになっていたりして、リズミカルでいい感じ。このあたりは「池袋ウエストゲートパーク」のマコトがはく捨て台詞を髣髴させる。能天気度合いは3倍くらい違うけど。
そういや、キャラのスタイルや物語のジャンルは、I.W.G.P.と似てるところもあるね。
I.W.G.P.は若干アングラ度が高いというか、オタクっぽいところなんかもあるけど、本作はどっちかといえばウェットです。
二人の高校の恩師で現在キュータの雇い主(結婚相談所オーナー)である通称「オフクロ」や、博多署で裏のアルバイトもこなしちゃう鬼刑事、ライブハウスオーナーの伝説的シンガー「歌姫」など、サブキャラも個性的。
読み始めれば、もっとたくさん、この二人の掛け合いを読みたくなること、うけあい。
しかし、作者にはその意志はないようで?本作の最後はちょっと悲しい結末に終わるのでした。
これはこれでぐっとくるのでいいラストかも知れないけど。
そういえば、福岡ダイエー(現ソフトバンク)ホークスの初優勝シーンが出てきました。
ワタシ、いつも長嶋の次に語られることの多かった王さん、清原の次に語られることの多かった秋山選手、この二人が都落ちして九州で一念発起し我慢強くチームを強化してついに優勝する、この時期のホークスの大ファンでした。
二人とも、どっちかというと努力の人。この二人が優勝決定後のグラウンドで、大騒ぎする若手選手を尻目に、二人だけで微笑みながら何か語り合っている写真が、Numberというスポーツ雑誌に掲載されていたのですが、この写真で、何度泣いたことか。このときの日本シリーズ特集記事は文章も感動的で、保存していないことをかなり後悔しています。
